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この人は何を見つめているの?(アート・ペッパー)【#はじめて買ったCD】

【では、どうしてこのCDに出会えたのか?…正直、よく覚えていないんです。可能性として一番考えられるのは…「CD棚から、たまたま私が落としてしまった」。だって私は別に当時、ジャズが好きだったわけでもなく、サックスを吹いていたわけでもなく、クラシック音楽のほうが好きだったのですから。これが出会いのはじまりなのではないかと思います。今となっては、本当にそれくらいしか考えつかないはじまりなのです。】
(記事本文より引用)


さて、CDに出会う経緯を説明する。それも一番はじめのCDをとなると、だいぶ骨が折れます。ですが、それでも【#はじめて買ったCD】の記事を書く。それには自分でもなんだかわからないような、ふしぎな物語があるからなのです。


わざわざ慣れない記事を書く理由?
今日はさみしい気分なので、ちょっとだけ誰かにつきあってほしいんです。


私の住んでいた町の図書館では、本の貸し出しだけではなく、CDの貸し出しも行っていました。めずらしい図書館だったかもしれません。書籍の装丁をじっくり味わうのと同じように、CDの音もその場でじっくりと味わうことができるし、その場で借りて、家で音楽をタダで楽しむことができるんです。タダで。当時の私としては、新しい音楽との最良の出会いの場所でした。貧乏な私としては。
しかし当然ですが、最新のヒット・チャートがズラリと並んでいるわけではありません。並んでいるのは、クラシック音楽や、古いジャズ音楽、演歌、朗読CD、民族音楽などなど、世間一般からすれば少し変わったラインナップでした。それでも、私は満足でした。音さえそこにあれば、世界が変わって見える。そんな当時、十五歳くらいのお話です。
私は実にいろいろなCDを借りました。チャイコフスキー、モーツァルト、ブラームス……。吹奏楽部に所属していた私にとっては、何よりのごほうびです。
ただその中には、もちろん多種多様な人が使うCDなわけですから、疲れ果てて、3曲目が音飛びしてるCDだの、気にいった曲目にピンクの蛍光ペンでマークがついてるだの、わりとやり放題な部分がありました。
図書館側も、それをほぼ黙認していました。仕方がないです。「タダで聴ける」って、きっとそういうことも含めてですから。
では、どうしてこのCDに出会えたのか?…正直、よく覚えていないんです。可能性として一番考えられるのは…「CD棚から、たまたま私が落としてしまった」。だって私は別に当時、ジャズが好きだったわけでもなく、サックスを吹いていたわけでもなく、クラシック音楽のほうが好きだったのですから。これが出会いのはじまりなのではないかと思います。今となっては、本当にそれくらいしか考えつかないはじまりなのです。

Amazonのリンクをこちらに貼ります。ご興味があれば、一度CDの装丁をご覧ください。

私はこの人に、突然出会ってしまったのです。黒髪のスーツ姿で、何を見つめているかわからない、このアルト・サックス吹き、「アート・ペッパー」に。そして彼のCD、「モダン・アート」に。
はじめてのCDを買うのに時間はかかりませんでした。ジャケット写真に惚れて、音で世界は作り替えられ、私ははじめてジャズというものに触れたのです。

それ以来、アート・ペッパーの音は私のアイドルのような存在です。けれども、彼について熟知しているわけではありません。彼には麻薬中毒の症状があって…親日家で…前期と後期で演奏スタイルがわかれていて…「いやいや、話せば話すほど、他人の核心というのは空へと逃げてしまうものだよ…。」
今、「モダン・アート」の3曲目の軽妙なリズムを聴いている私に、彼がそう忠告してくるような気がします。私の勝手な妄想に過ぎませんが、音の世界では、彼は賢く、そしてシャイなアイドルなのです。

ただ、アート・ペッパーは古いジャズの人間です。とっくの昔に亡くなっています。他界した人物の音を私は今、この瞬間も記事を書きつつ聴いているわけです。
ジャケットの沈思黙考するような彼の表情を見るたびに、私は生き生きと、けれどさみしくこんな疑問を抱いたりするのです。




「この人は何を見つめているの?」

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