デジタル庁の創設には緻密な戦略があった【思いつきじゃなかった】
菅政権が発足してから、ハンコをなくすとか、デジタル庁を新設するとか、なんだか時代が変わり始めている空気を感じる方も多いと思います。そして訳のわからないことを言われて混乱している方も多いと思います。
* 言っていることは分かるんだけど、結局どうしたいんだろう
* どういう姿を目指していて、自分の生活にどう影響するんだろう
なんというか。ゆったり川を下っていたら急に流れが早くなってきて。面白さを感じつつも、この先に滝でもあるんじゃないかという不安感みたいなもの。便利になるのは歓迎するけど、それで自分の仕事とか社会保障とか税金とかがどうなるのかが分からず、両手をあげての賛成は難しいかも。。。
僕もそう感じていました。
そんな中、2020年10月21日に行われたイベントで、平井デジタル相による「デジタル庁のミッション」に関する講演がありました。講演内容が記事になっているので紹介します。
平井デジタル相、新設デジタル庁は「とてつもない権限」とスタートアップ精神で、まずIT基本法改正【AI/SUM & TRAN/SUM with CEATEC 2020】 - INTERNET Watch
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/1284367.html
この記事を読んだ感想としては、「ああ、このひと理解っているな」「なるほど、政府はこれからこうしたいのか」が腹落ちできて、それまで感じていた得も言われぬ不安を低減することができました。
今回は、DX推進の現場で10年以上働いてきた僕の視点で、「このひと理解っているな」について考察してみたいとおもいます。
①技術よりも業務を変えることが重要
平井氏はいいます。
日本の今までの状況を考えたとき、デジタル化で「今までのやり方を根本的に変える」ことが必要。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の「トランスフォーメーション(変革)」の方が重要だ。
まさに仰るとおり。
DXを考える上でもっとも大切なことのひとつは、
デジタル化 → 業務 → データ → 機能 → 技術 の順番で考える
ということです。どういうITを作るのかという議論からではなく、デジタル技術を踏まえてどういう業務にするかの議論からはじめること。「国民のデータを適切に管理するハコを作る」からはじめるのではなく、「国民の利便性を向上させるためハンコをなくす」からはじめる。その後に、ハンコをなくすためのハコがいる。という順番で考えること。
なんだか当たり前の話に聞こえるかもしれません。ですがDXというと、とかく技術論から考えていく発想に陥りがちです。たとえば、これからの時代はデータ分析が大切なのでデータ分析基盤を用意するべきだとか、各種協業が大切なのでAPI連携基盤を用意するべきだとか。
ITから考えていく。そういう進め方もありますが、大半のケースでは「社内政治」に振り回されます。そしてプロジェクトは頓挫し、デスマーチが生まれ、結果残るのは誰にも使われないハコだけです。
トランスフォーメーションから始める、業務から変えるという順番は絶対的に大事です。コレがしんどいんですが。
②未来の正解を予知することはできない
平井氏はいいます。
決めたことに縛られるとデジタル庁は立ち行かなくなる。アジャイルガバナンスと呼べるかもしれない。正解が最初から分かっている訳ではない。皆さんと一緒に考えて、実行に移していく。
これもまた仰るとおり。
あらかじめ「正解」を決め、最短距離でITを構築する方法をウォーターフォール開発と呼びます。一方で「正解」は分からないという前提を置き、そのときどきの最優先のみを開発する方法をアジャイル開発と呼びます。
実は過去にも大きなデジタル化の潮流がありました。エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)です。EAとは、企業内のすべての業務とITについて、数年後の「理想姿」をあらかじめ計画したうえで、その計画に従ってIT化を進めていくべきという考え方です。言ってしまえば、企業全体のウォータフォール開発です。代表的な適用事例としては米国財務省や国防総省、そして日本の電子政府構築などがあります。ある程度の大企業では一度は取り組んだ方法論だと思います。
ですが、僕は日本企業でEAがうまくいった事例を知りません。うまくいかなかった原因はいろいろありますが、もっとも根本的なところは、数年後の「正解」なんて誰にもわからないからです。誰もコロナが予見できなかったように未来はわかりません。
正解はわからないと明言する。これ、なかなか言えません。「正解がわからないのに投資するの?」と言われます。ですが分からないと言い切った上で、アジャイルのアプローチを取る。これは過去に相当苦労した方でなければ言えないことだと思います。
③戦略、体制、プロセス、技術
平井氏の講演内容を抜粋します。
縦割りの打破とは、別々の会社(役所)が別々のサービスを提供していた状態を、国民目線で一つのサービス形態として欲しい、ということなので、「とてつもない権限」をデジタル庁に持たさないとできない。
体制の話ですね。
今後、IT基本法の抜本的改正案、(デジタル庁の)設置法、番号法、個人情報保護法など、法案を一気に出す。
プロセスの話ですね。
DXを進めるためには「戦略、体制、プロセス、技術」の4つの観点で整理しましょうといわれます。こういった一般的なフレームが頭に入っているからこそ体制とプロセスの話を出したのでしょう。そして、肝心の戦略は「デジタル・ニッポン2020」に書かれている、というわけです。なるほどね。
まとめ
この講演内容をみるにハンコを無くすとか「なんだか思いつきで言っているんじゃね?」という不安は払拭されました。
僕としてもとても重要だと考えている
* 技術よりも業務を変えることが重要なんだ
* 未来の正解を予知することはできないんだ
* 戦略・体制・プロセス・技術の観点で考えるんだ
という部分をキチンと言語化して講演しているは正直スゴイと思いました。
戦略である「デジタル・ニッポン2020」自体には是々非々な部分もありますが、これら政策は単なる思いつきではなく、緻密な戦略のもと、優秀な人たちが集まって検討を進めているんだということが分かりました。
おわり。
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