カマラは「悪ガキ」...ではないやろ!?Charli XCXの"brat"が日本のメディアで拡大解釈されてる件をファンが考察してみた
「カマラはガキ」って…意味不明なんだが
2024年7月25日、日経新聞を読んでたら、私の大好きな歌手「チャーリーXCX」の名前が載っていて思わず目をガン開きしました。その記事がこちら。
ほうほう。「カマラはガキ」、ですか。
…………….。
いやいやいやいや待て待て待て待て、全く意味がわからない。 「カマラはガキ」ってなんだ。直訳にもほどがあるよ!?
しかも"brat"ってCharli XCXの最新アルバムの名前で、これ辞書に載ってるまんまの「ガキ」って意味じゃないでしょ…
この記事にモヤモヤした私はインターネットを検索した。すると、テレビやネットニュースで「カマラは悪ガキ」という見出しが出るわ、出るわ。しかも、「悪ガキ」にポジティブさが付加された意味不明な解釈が出回っている…
いやいやいやいや…
日本のメディアのみなさま… まず、Charli XCXがどのような人物か、ご存知でしょうか。彼女のアルバム"brat"を、ご存知でしょうか... あんまよく知らずに取り上げてません???
私について
ところで、私がどんな人物かをここで示しおきたいと思います。なぜなら、私がメディアに対して疑念を抱くのと同じように、このnoteを読んでいる方は私に対して「じゃあアンタは何なんや!?」と疑念を抱くと思うからです。(特に興味がなければ飛ばしてください)
私は、Charli XCXのファンの端くれです。端くれと言ったのは、ファンというと「どこからがファンか」みたいな論争がある気がしてビビってるからですが…
彼女を知ったのはヒット曲が目立ち始めた2014年ごろで、コンスタントにアルバムを聴き始めたのはたぶん2018年頃からだと思います。CDを買ったり、彼女の来日ライブにも行ったりしました。ここ数年はSpotifyの「あなたが今年一番聴いたアーティスト」の上位にだいたいCharli XCXが入り、(私の知り合いならご存知ですが)スマホの背面にはCharli XCXの写真が貼ってあります。
Charli XCXとはどんな人物か
Charli XCXとはどんな人物か?これについては正直、「ワーナーミュージック・ジャパン洋楽」のこちらのnoteを読むのが手っ取り早く、私が説明するよりはるかにわかりやすいので置いておきます。
ワーナーの記事にもありますが、Charli XCXはクラブやレイヴ大好き、生粋のパーティーガールです。彼女の音楽性にもそれが現れており、アグレッシブなエレクトロ・サウンドが特徴的です。
そんな彼女が2024年6月にリリースした最新アルバムのタイトル、それこそが渦中の"brat"です。
【意味の整理】辞書に載ってる"brat"と、Charliのアルバムコンセプト"brat"は別物
さて、本題のCharli XCXによる「kamala IS brat」の投稿について。"brat"という単語は、辞書上では「悪ガキ」という意味。それ以上も、それ以下もありません。直訳すると、当然ながら「カマラは悪ガキ」となります。
では、なぜ日本のメディアで「"brat"は『悪ガキ』だけでなく、良い意味でも使われており…」「カッコいい、イケてるという意味もあって…」と異常な拡大解釈をされてしまったのか。
確かに、英語ではスラングを皮肉っぽく逆の意味で捉える側面もあります(たとえば、文脈によって"bitch"を"イケてる女"としたり)。だとしても、"brat"はがんばっても「ブチアゲギャル」くらいにしかならないような気がするのです。
これは仮説ですが、彼女が"brat"について語ったあるインタビュー動画が、メディアにおける拡大解釈の要因になっているのではないかと私は考えています。そのインタビューが、こちら。
このインタビューで語られているのは、今回のアルバムのタイトルに選んだ"brat"という言葉の、Charli XCX的解釈、つまり、アルバムコンセプトと捉えるのが自然です。
ここで語られている"brat"は、まさにCharli XCXのパーソナリティそのもの。パーティーでハシャギまくり、独自路線を貫き通す自身を、皮肉っぽく「悪ガキ」と表現したと考えれば、とても彼女らしい。一方で「悪ガキ」も様々な感情を抱え、強がりの裏には脆さだってある、そんな繊細さ、複雑さがこのアルバム"brat"に込めた意味なんだと、私は思います。(収録曲からもそのような思いを感じます)
ただ、実際のところ"brat"は、ここで語られた意味どうこうよりも、アルバムの世界観・バイブスをファン間で共有し楽しむための単純な「合い言葉」としての要素も大きいです。
日本のメディアは、この"brat"に関するCharliの世界観と、辞書に載っている意味を混同して解釈してしまったのではないか。そう思えてならないのです。
そう思う理由としては、これらがあります。
"brat"の意味の紹介のされ方が、メディアによってあまりにもバラバラでぼんやりしている
Charli XCXがインタビューで語った彼女が定義する"brat"の意味が、様々なメディアで中途半端に引用されている
Charli XCXが定義した"brat"の意味が、あたかも辞書に載っている・あるいは最近の若者言葉の意味として紹介されている
【時系列整理】"brat"を最初にバイラル化させたのはCharli、しかも2024年2月から
それから、日本のメディアやインターネットで発言力のある人によって、一連の時系列や発生した出来事がぐちゃぐちゃに伝えられています。例えば、このような時系列での紹介をよく目にします。
これは、時系列も出来事の内容も違います。
Charli XCXのアルバム"brat"がリリースされたのは2024年6月7日です。しかし、"brat"のアルバムプロモーションはそれよりもっと前、遅くとも2024年2月頃には始まっていました。アルバムビジュアルに奇をてらったグリーンのテーマカラーをあえて使い、解析度の低い「昔のインターネット」ぽいフォントがネット上のファンダム(ファンコミュニティ)にウケ、盛り上がり始めました。
2024年3月には、この独特なテーマカラーとフォントを使って好きな文章が作れるサイト"brat generator"も公開され、盛り上がりは加速。プロモがすごく上手ですね。
ただし、この"brat"現象はおもに彼女のファンダムを中心にウケていて、大衆的にバズっていた印象ではないです。(そもそも彼女は大衆的なポップスターというより、コアな音楽ファン、LGBTQコミュニティ、インターネット文化が好きな層などで支持を得やすい、どちらかといえば「狭く深く」タイプのアーティストのように感じます)
そして2024年7月、選挙戦でバイデン氏が撤退しハリス氏が後継とされたタイミングで、Charli XCXが自身のアルバムを引き合いにXで「kamala IS brat」と投稿。ハリス陣営は、英国のポップスターに「(ようわからんが)なんか言ってもらえた」こと、そしてインターネット上で起こっていた"brat"のミーム現象にここぞとばかりに(今さら)乗っかり始めた、という印象があります。
改めて時系列を整理すると、こんな感じかと思います。↓
「kamala IS brat」の"brat"は「悪ガキ」ではなくアルバムのバイブス
Charli XCXのこの投稿はかなり厄介です。特に、彼女にあまり馴染みがなく、アルバム"brat"の存在も知らない人にとっては、理解し難いと思います。
「kamala IS brat」に、「カマラこそブラット、素晴らしい人間」さらには「彼女を支持する」なんて、そこまで仰々しい意味はないと思います。Charli XCXのノリからすれば、ハリス氏の立候補というニュースに、自身が生み出した"brat"という言葉の世界観を引き合いにして「あんたが大将」よろしく「あんたがbrat」くらいのノリで投稿したのではないでしょうか。下手すりゃ「ネタツイ」の可能性もあると思います。
"brat"を「悪ガキ」ではなく、アルバム"brat"のバイブスのことだと考えれば、「カマラ、マジbrat」くらいのニュアンスです。そもそもこの"brat"はアルバムのバイブスであり概念なので、「悪ガキ」やら「かっこいい」やらどーたらこーたらと翻訳しようとすること自体がナンセンスなのです。
この投稿により、Charli XCXがハリス氏のことを暗に支持しているのか、アルバムの宣伝のためにビッグウェーブに乗ったのか、単に「ネタツイ」しただけなのか、その真意は本人にしかわかりません。
ですが、メディアがこの"brat"という言葉を「悪ガキ」起点に拡大解釈しようとするのは無理があると思います。だって辞書には「悪ガキ」としか載っていないですから。辞書に「悪ガキ」としかない中、他の意味を探す過程で、彼女が定義する"brat"について語るインタビューを見つけたのかもしれません。その上辺をすくって、「bratって『悪ガキ』じゃなくてパーティー好きな女の子って意味か?良い意味もあるってこと?じゃあこの歌手はハリス氏を支持してるってこと?うん、そうか!」と無理矢理こじつけてしまったのかもしれません。
米国メディアでも同じことが起こっており、英国人の、しかもメインストリームではなくニッチ層で人気を博すCharli XCXを知らないために、"brat"をそのまま「悪ガキ」としたり、Charli XCXの言葉を中途半端に引用して誤解釈するなど、混乱を招いているようです。
ただ、Charli XCXは英国人であり、米国の選挙戦に直接的に関わる立場ではありません。米国のアーティストが意図して政治的なブームを起こすならわかりますが、国外のアーティストの、さらには真意もわからないXの投稿によって、選挙戦に意図せぬカオスが巻き起こるとは… 彼女も想像していなかったんじゃないかな。
日本語⇄外国語のジョークの解釈の難しさ
今回の件は、外国語のミームや皮肉、ジョークを、裏の意図や文脈を無視して日本語にそのまま直訳し、意味が通じなくなる現象と似ていると思いました。私も、皮肉っぽいジョークを言われてるのにその裏の意図に気づかず、そのまま直訳して全く意味がわからない挙句、相手もスベらせる、という経験が何度もあります。
例えば、逆の立場に置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。日本のお笑い芸人のなかやまきんに君が、突然「パワーーー!」と叫ぶネタがあります。その脈絡のなさ、意味のなさが面白いのですが、それを海外の人が「彼が突然"パワー"と叫ぶのは、権力(power)を訴えているのか…?」と深読みしたら、いやいや、そんな意味ないよ!「パワー」は「パワー」でしかないよ!と言うでしょう。
今回の"brat"についても、「カマラは『悪ガキ』…?いや、裏を返せば素晴らしい人間ということか?」と深読みされているようですが、Charli XCXからすれば、え、それ私のアルバムの世界観なんですけど。悪ガキって何やねん。とりあえず"brat"聴いときな?と思うのではないでしょうか。
メディアは大量のニュースを報じるので、これも日々消化しなければならないニュースの一つにすぎなかったのかもしれませんが、いちファンとしてはモヤモヤする出来事でした。
今回noteを書こうと思ったきっかけ、そして参考にさせていただいたポストをこちらに貼っておきます。竹田ダニエルさんという方のXの一連の解説は非常に共感できたと同時に、当初「カマラはガキ」への違和感をなかなか言語化できなかった私にとって考察のヒントとなりました。
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