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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【16】 5日目 枝幸〜中湧別(〜遠軽)② 2015年8月2日

真夏の強い日差しの中、オホーツクの海岸線を南下してきました。枝幸から80キロ余り、単調な道を駆け抜けて、間もなく紋別。
ところが、体調に異変を感じました。全身に力が入りません。
水分摂取しながら走ってきたつもりですが、脱水かと思われる症状。朝食もコンビニのサンドイッチだけだったので、低血糖かもしれない。また、こういう天候の日に水分補給に失敗すると、血管が拡張し、その結果血圧が急降下する「運動後低血圧」になる恐れもあるそうです。

リカバリーを図る。

よたよたと踏み続け、紋別の市街地に入るあたりで、若干視界がぼやけてきました。さすがに、このまま走り続けることには危険を感じます。

脱水なのか、低血糖なのか、それとも運動後低血圧なのか、ともかく水分と栄養補給の失敗と思われます。こんな日には、運動中だけでなく休憩時間中にも、水分をしっかり摂取することが必要。症状が出た時の対処方法も、まずは冷水を飲むことが肝要らしい。
取り敢えず、目に入った最初のコンビニで、ポカリスエットと水を1リットルずつ購入。
いったい身体のどこにそんな空き容量があったのか、というくらいにポカリスエットが身体に吸収され、ペットボトルは瞬く間に空になりました。水も半分ほど飲み干し、残りはボトルに移し替えます。
日陰に腰を下ろし、アンパンを頬張って糖分補給。
海辺の直射日光はきついけれど、そこは北海道、日影に入れば爽やかで快適です。
しばらく休んでいるうちに、体調はかなり回復しました。

紋別はオホーツクの中心都市だけに、見慣れた外食チェーンの看板なども目につきます。
本当は、腰を落ち着けてゆっくり食事をした後、一渡り市内を見て回りたいところですが、遠軽まではまだ50キロほどもあります。15時17分の特急に乗るには、これ以上時間を費やすわけにいきません。

バイパスを一直線に走り抜けては紋別に対してあまりに失礼、と言おうか、何のために時間と体力と資金を費やしてここまで来たのか訳が分からなくなってしまうので、せめて旧市街地を抜けて走ろうと思いました。
紋別は札幌からも旭川からも遠く、交通の便も良くはない地域故か、小規模ながらも独立した、一通りの物事を済ませられる経済圏となっているようで、バイパス沿いのロードサイドビジネス地域には人の集まる都市らしい賑わいは感じました。ただ旧市街地は人影もなく、シャッターを下ろした商店が並んでいました。

オホーツクの短い夏の風景

思いのほか起伏のある市街地を抜けると、沖合には幾つもの白帆が見えます。
国道を再び走り出すと、上空を全日空機が飛んで行きました。1日1往復の羽田便の到着です。
 
突然、ラベンダーの香りに包まれました。海を見下ろす高台が、一面ラベンダー色に染まっています。市街地にも空港にも近いためか、駐車場は混雑し、大変な賑わい。
地図を見ると、「オホーツク流氷公園」とあります。ラベンダー園のほか、広大な広場、パークゴルフ場などが整備された、紋別市が開発した公園のよう。
絶好の休憩ポイントなのに、今日は時間がなく、横目に走り過ぎるしかありません。改めて、またきてみたいスポットです。

オホーツク流氷公園のラベンダー園 

差し当たり、運動性低血圧でダウンするリスクは低下したものの、アンパンと水とポカリスエットでは、エネルギーが足りるはずもなく、普段ならば平地同様に感じられる程度の坂道でもしんどくてなりません。
そこで、もう何年も口にしたことがない、パワージェルを取り出しました。正直、この人工的な甘みは好きになれないのですが、今回は二日連続のセミ・センチュリーライドなので、念のため持参していたのです。
効果はてきめんで、再び走り出してほどなく、腰回りから大腿筋にかけての疲労感が解消され、気持ちまで前向きになっていることに驚きました。何か興奮を促す物質も含まれているのでしょうか。

紋別から湧別への道は、森の中の緩やかなアップダウンと、コムケ湖、シノブツナイ湖などの海跡湖の連続。
もっとも、コムケ湖は木の間越しに水面がわずかに見えたのみ、シノブツナイ湖は遠く湖面を横目で見ながら走ったのみでした。

中湧別〜遠軽

パワージェルの効果か、紋別から中湧別までの30キロ強は、覚悟していたよりも短く感じられ、13時35分、湧別川を跨ぐライム色のトラス橋を渡りました。ゴールゲートをくぐったような気分です。遠軽まではもう20キロ足らず、今日はなかなか味方になってくれなかった風も、ここからは背中を押してくれます。15時17分の特急には問題なく乗れそう。
 
橋の上から見下ろすと、濁流が川幅いっぱいに渦を巻き、多数の倒木が橋脚などに引っ掛かっています。
7月中旬から続いた、山間部の大雨の影響でしょうか。

ゴールゲート気分で橋を渡る
濁流が渦巻く湧別川

河川敷は緑溢れるパークゴルフ場であるが、正午過ぎの炎天下、プレーする人の姿はありません。
5分ほど走ると、遠軽への道を分ける交差点に到着。ホクレンショップと、同じくホクレンのガソリンスタンドがあるばかりの、がらんとした交差点です。
北海道一周ルートは、ここが中断地点になります。次回は、遠軽からこの交差点まで走ってきて、まっすぐ海の方へ向かい、サロマ湖に沿って走る予定。

北海道一周 今回の中断地点

水分を補給しながら、日陰で一息つくと、日焼けした太股や二の腕がヒリヒリを通り越して、ずきずき痛みます。先月もあちこち走って、すでに一皮剥けていたのですが、さらに真っ赤になり、グローブを取るとまるで青白い手袋を穿いているような奇怪な見映えになっています。

内陸に入ると、中湧別の商店街が国道に沿って続き、その外側には伸びやかな農業地帯が広がっていました。遠軽まではクールダウンと決め込んで、海風を背に、のんびりとペダルを回しました。

かつて石北本線と名寄本線の合流する鉄道の要衝であったからでしょうか、遠軽は想像していたよりも遥かに賑やかな、開けた町でした。人口も2万人を超え、先ほど通り過ぎてきた紋別と遜色ありません。
市街地に入ってまもなく、ツルハのポールサインが目に入ったので、自転車を止めてシーブリーズを買い求め、まるで炭火焼にでもされているように痛む肌に塗りたくりました。

遠軽駅は、駅前ロータリーより一段高いところに駅舎が建っていました。薄緑色のトタン屋根の、昔懐かしい汽車旅の風情を残す駅舎に嬉しくなってしまいます。
時刻は14時30分。十分な余裕があります。

出発前、いろいろな心配事が重なりました。でも、ちょっと暑すぎるくらいでしたが晴天に恵まれ、腰痛も再発せず、パンクもせず、無事に走り切ることができました。
のんびり輪行準備をして、時間が余ったらコーヒーの一杯でも飲んでから、札幌へ向かうことにしましょう。

古き良き時代の風情を留める遠軽駅 

最後の最後に…

ところが、この段階になって、出発前の心配事の一つが、思わぬ形で現実のものとなりました。
その前日早朝、石北本線の下白滝~丸瀬布間で、大雨により路盤が流されているのが発見され、この日、遠軽~上川間は全列車が運休になっていたのです。
駅の改札口には現場の写真が貼り出されていました。線路と枕木が完全に宙ぶらりんになっています。この復旧は容易なことではないと一目でわかる状態。
ローカルニュースくらい見ていれば予めわかったことでもあるし、一体、何のために、脇目も振らず突っ走ってきたのか、と一瞬虚しくなってしまいました。

ただ反面、最初から19時18分の最終「オホーツク」をベンチマークしていなかったのは、不幸中の幸いでした。夜7時近くにもなって遠軽に到着しようものなら、もはやその日のうちに札幌に戻る手立てはありませんでした。
今ならまだ、札幌行きの高速バスがあります。
駅員にバスセンターの場所を教えて貰い、駅から信号二つほどを過ぎた交差点へ向かいます。
遠軽始発なのに、なぜか16時29分という中途半端な時刻に出発し、札幌着は21時。バスで4時間半はきついので、旭川でJRに乗り換えようかとも考えたましたが、到着時間は変わらないし、運賃も嵩む。結局、札幌までのチケットを購入しました。

せめてもの慰めは、バスターミナルの裏手に昔懐かしい銭湯が営業しており、待ち時間を利用して、一番風呂を使わせて貰ったことでした。とは言え、熱い湯が日焼けにしみて、のんびり身体を伸ばすというよりは我慢大会に近かったのですが。

〈 走行記録〉
走行距離  141.6 Km
走行時間  6時間12分
平均時速  22.8Km/h. 最大 43.8Km/h
消費カロリー  3242Kcal

- 第5日目 以上 - 

※ 次回は、夏の終わりのオホーツク。サロマ湖沿岸から常呂、網走、女満別にかけては、幾つもの素晴らしい道が待っていてくれました。


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