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北国の空の下 ー週末利用、自転車で北海道一周【12】4日目① 稚内〜北見枝幸 2015年8月1日

明けて8月1日。天気は、腰は、タイヤは大丈夫か…
カーテンを開けると、快晴の朝。濃紺の空には、うっすらと絹雲が漂うばかり。
陽光が燦々と降り注ぎ、心配事その一・天候悪化は、杞憂に終わってくれそう。
品数の豊富な、充実したバイキングの朝食を取って、午前8時に走り出しました。心配事その2・腰痛も、さしあたり違和感なし。問題なく走り切れそう。

宗谷の短い夏の朝

北防波堤ドーム

稚内のシンボル的な建造物である北防波堤を過ぎ、宗谷岬へ方向を転じます。
3つ目の懸念事項である後輪はどうか。振動や擦過音などに神経を集中。ごく僅かだが、タイヤが回転する毎に、路面の小さなギャップを拾っているような振動があります。止めて確認してみると、バルブ付近の膨らみが心持ち大きい。何箇所もパンク修理したチューブなので、均一に膨らんでいない様子。ビードが外れたりはしていないようだが、時折点検しながら走る必要はありそう。

港湾地区をしばらく走り、国道に合流すると、「北見枝幸まで117キロ 宗谷岬まで27キロ」の道路標識がありました。
さほど強くはないが、向かい風が吹きつけてきます。

気持ちの良い夏の朝なのに、なぜか今日は仕事のことが気にかかります。今日は、月次の締めのために休日出勤している社員も多いし、昨日若干のトラブルがあって、神経をすり減らしている社員もいたました。
自分の責任範囲のことは済ませて、迷惑をかけないようにしてきたし、仮に自分が出勤したからと言って何かしらプラスに働く訳でもない。要は、訳もなく後ろめたいのです。
そんな自分が何だか嫌。出発前に飲んだ降圧剤のせいで、うつ傾向でも出ているのでしょうか。

道路標識と管制塔の存在でやっと空港と知れるような、小ぢんまりした稚内空港を過ぎると、道路の両側は人家がとぎれ、熊笹と低い潅木の荒地を行くようになります。
正面には宗谷丘陵が緩やかに波打ち、なだらかに海へ裾野を伸ばしていました。樺太や沿海州は、こんな風景がどこまでも続いているのだろうなあ。
行く手の丘陵の稜線には、無数の風車が立っています。国内最大級といわれる宗谷ウィンドファームです。

風を遮るものがなくなって、風圧がきつくなりました。

宗谷岬まではウォームアップのつもりなので、ギヤを落としてゆっくりと回します。スピードを落とすと、路傍の花々に目をやる余裕が生まれます。仕事のことなど考えてしまう時は、こうやって意識的に五感で季節を感じるようにするのが良いものです。

花といえばタンポポしかなかった5月末のライドに比べれば百花繚乱。路傍に目を落とすと、ムラサキツユクサ、マーガレット、クサフジなどの可憐な花影が潅木の間に揺れ、アスファルトの上にまで、ハマナスが蔦を伸ばしています。


路上に蔓を伸ばすハマナス
短い夏に咲き乱れる花々

バイクが5台、追い抜いていきました。追い抜きざまにピースサイン。夏の北海道だなあ、と実感します。ところどころ、浜で昆布を干しており、いかにもミネラル豊富な感じの、濃い磯の香りが漂います。

富磯という集落に「日本最北」とツーリングマップに紹介されているコンビニがあり、ここで小休止をとりました。
振り向くと、背後に利尻富士の雄姿。出発からずっと見守ってくれているのに気づかないまま走ってきたのか、と申し訳ない気持になってしまいます。沢筋に残る雪渓がくっきりと浮かんでいました。

富磯から利尻岳遠望

宗谷丘陵を走る

5分ほどの小休止を終えて出発すると、宗谷海峡から、やや強い向かい風が、冷たい霧を運んできました。視界が利かなくなるほどではありませんが、日が陰り、ひんやりと肌寒さを感じます。

この先は海岸線を忠実に辿るのではなく、宗谷丘陵に入り込んで、内陸から宗谷岬を目指そうと思います。ロードマップには「牧草地の緑と海の青さのコントラストが素晴らしい」と紹介されている道です。

国道238号線から分岐し、沢筋に沿って、5%程度の坂を登っていきます。

ずっと前から丘陵の上に見えていた風車群が、指呼の間に近づいてきました。右手のひときわ高い丘の上には、レーダー基地らしき建造物が見えています。ノシャップ岬にもレーダー基地や自衛隊の駐屯地がありました。ある意味、北辺に近づいたことを実感させられる風景です。

坂を登りきると、熊笹、潅木群、それらを切り開いた牧草地が、緩やかに波打つ丘陵を覆っていました。北の方角には、丘の合間に水平線が覗いています。

内地ではまず出会うことがない風景であり、道央や道南のそれとも明らかに異質。

5月のライドで北緯45度線を越えてからの風景からは、東南アジアの国々あたりにいるより、遥かに強い異国感が感じられます。一気に駆け抜けてしまうのがもったいなく、ペースを落としてゆっくりと走りました。

ユーラス宗谷ウィンドファーム
異国を走っているような、宗谷丘陵の風景

分岐点に至り、方角を北に転じ、宗谷岬へ最後のダウンヒルにかかります。牧草地では黒毛の牛たちが、物珍しそうに私を見ています。何だか情が移ってしまうが、ここで潮風を受けた牧草で肥育した牛肉は、さぞ美味だろうなあとは思います。

本土最北端の牧草地
宗谷岬へ、最後のダウンヒル

本土最北端・宗谷岬

10時05分、宗谷岬に到着。札幌から延べ3日と少々、距離にして約360キロを走破して、本土最北端に至ったわけですが、前回のライドから間が空いてしまったし、今日はまだ30キロばかりしか走っていないし、それに、今日はまだ先が長いこともあって、前回猛烈な逆風の中をノシャップ岬まで走破した時のような、走り切った感慨はありません。


宗谷岬に到着

学生の時にきて以来の宗谷岬。当時は、ダ・カーポの「宗谷岬」が大音量で延々と流され、興醒めも甚だしかったものです。さすがに不評であったのか、今では余計なBGMは聞こえて来ません。
しかし、最北端の碑の基部では、若者が下ネタ芸人の真似をして、それを連れの女性に動画に撮らせていました。ゆとり世代は「空気を読む力」には優れていると認識していたのだが、例外はあるようです。

岬のモニュメントとColnago Primavera
伸びやかな夏の岬

ここにも中国人の観光客が訪れています。日本最北端、というのが、広大な国土で暮らす彼らにとって、然程の意味を持つとは思えないのですが。

ともかくも、宗谷岬は、北辺の寂寞感というよりも、開放感のある明るい岬であり、芝生の上に寝転がって体を伸ばし、しばし雰囲気を楽しみました。

北見枝幸までは、まだまだ90キロ走らねばなりません。

岬の集落を抜け、いよいよオホーツクへ

※次回は、オホーツク沿岸を南下。絶景の猿払原野を駆け、思い出の地・浜頓別へ向かいます。

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