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【読書】『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』

 本書は、ストレスに対する思い込みを変え、上手に付き合う方法を提示している。
 なにより、ストレスとうまく付き合っていくためには、科学的な知識があったほうがいい。
 理由の一つは、人間の性質に関する研究は、自分自身や大切な人たちに対する理解を深めるための、良い機会になるから。
 二つ目は、ストレスの科学は驚くべき発見があるからだ。
 「なぜそうなのか?」という科学的根拠を理解できれば、学んだ方法を身につけることができる。

ポイント
・ストレスに対する考え方を変える―――――大切なものだからストレスを感じる
・ストレスには、「闘争・逃走反応」「思いやり・絆反応」「チャレンジ反応」の3つがある。
・ストレスを力に変える
①ストレス反応を選ぶ
②マインドセット介入・マインドフルネス
③大切な価値観を思い出す
④大きな目標に貢献する
⑤成長する

ストレスに対する考え方を変える

それ「ストレス」ではなく「拷問です」

 1936年、ハンガリーのハンス・セリエは、雌牛の卵巣から採取したホルモンをラットに注射しました。ホルモンがどのような影響を与えるかを、ラットで実験したのです。
 もちろん、ラットたちは病気になる。
 しかし、それは、本当に雌牛の卵巣ホルモンのせいだったのか?
 対照実験のために、食塩水をはじめ、様々なものを注射する。
 いや、中身の問題ではない、注射が問題なのでは?
 いや、チクチクする「苦痛」が問題だったのでは?
 暑さ寒さで苦しめる、休みなしに運動させる、騒音で驚かせる、毒物投与、脊髄を部分的に切り取る、などなど。
 実験の結果、ラットたちは48時間以内に発症し、その後、死んでしまう。
 そもそもセリエは医者だったので、数多くの苦しんでいる患者を診てきていた。
 そこから論理が飛躍する―――――「ストレスのせいで、病気が発症するのだ」と。

 いや、ちょっと待って。落ち着いて考えてみよう。
 もし、実験用ラットが味わった苦痛を、人間が味わったら?
 それは、ストレスではなく、拷問です。
 病気になって当たり前。

 私たちが味わうストレスは、些細なものから心的外傷を発症するものまで、広範な範囲が含まれている。
 それに、すくなくとも、拷問ではない。
 そのことに気が付いたセリエは、「良いストレス」と「悪いストレス」があると認めるに至ったが―――――時すでに遅し。
 すでに「ストレスは悪いものである」と広まってしまっていた。

幸せな生活にはストレスがつきものである

 そもそもストレスとは何なのか?
 ストレスに関する一つの考え方は、
「ストレスとは、自分にとって大切なものが脅かされたときに生じるもの」
というもの。
 そう考えると、大切なものが何もなければ、ストレスを感じなくてすむのです―――――
―――――それって、幸せ?
 「ストレス・パラドクス」(ストレスをめぐる矛盾)と呼ばれている現象がある。
 世界各国の人びとが「ストレスが多い」と言うとき、その内容は、客観的に見て明らかな社会的な悪条件とは、必ずしも一致しないことが明らかになっている。
 もっとも幸福な人たちは、大きなストレスを感じていながらも、精神的には落ち込んでいない人たち。
 逆に、もっとも不幸な人々は、屈辱感や怒りを強く感じているいっぽう、喜びはほとんど感じてはおらず「ストレスの欠如」が見られる。
 大切なものがあると、ストレスを感じるが幸せも感じる。いっぽうで大切なものがなければ、ストレスを感じることもない代わりに幸せを感じない。
 つまり、「幸せな生活にはストレスがつきものである」ということ。
 満員電車に乗るのも、渋滞に巻き込まれるのも「ストレス」だが、そのストレスを避けていたら、生活費が稼げないし、遊びにも行けない―――――そもそも家に帰れない。
 プロスポーツ選手が活躍しているのを見てかっこいいと思うけれど、その陰では人並み以上の努力をしているのだ。人並み以上の努力をストレスと感じるか、幸せへの道のりと感じるかは、その人しだいだ。

ストレスに対する考え方を変える

 多くの人はストレスのない生活にあこがれているが(ぼくを含め)、ストレスを避けてばかりいるのも問題がある。

  • チャレンジを避ける

  • 問題を隠す

  • 支えとなる人間関係を築こうとしない

  • 失敗や孤立を招くリスクが高くなる

 一方で、ストレスが役にたつと考えていれば、

  • 強いストレスを感じる出来事が起きた事実を受け止め、現実として認識する

  • ストレスの原因に対処する方法をしっかり考える

  • 情報やサポートやアドバイスを求める

  • ストレスの原因を克服するか、取り除くか、変化を起こすための対策を講じる

  • 困難な状況をなるべくポジティブに考え、成長する機会ととらえることで、その状況において最善を尽くす

 幸せな人生を送るためには、ストレスは避けられないのであれば、
「ストレスを感じたら、どうしたらいいか?」
を考えておくことだ。
 嵐を避けることはできない。しかし、嵐に備えて準備することはできる。

ストレスに対する3つの反応

闘争・逃走反応

 「拷問にされされているマウス」なら「逃げる」しか選択はない。
 しかし、私たちは拷問にさらされているわけではない(もしそうだと判断したら、余計なことを考えずに逃げるべし)。
 現代社会に生きる我々にとって日常的に、闘争・逃走反応が必要なわけではない。
 闘うか、逃げるか―――――それは極端すぎる。もっと中間の、バランスの取れた反応ができるのだ。
 ただ、その方法を知らないだけだ。
 ストレスに対する反応を、現代社会に適応しやすい形に変化させるのです。

思いやり・絆反応

 多くの場合、ストレスを感じると、人とのつながりを求める気持ちが強くなる―――――オキシトン、「愛の分子」「抱擁ホルモン」と別名がついているものが分泌される。

  • 周りの人の考えていることや感情に気づき、理解する力が強まる

  • 思いやりを深める

  • 直感を鋭くする

  • 大切な人達への信頼が深まり、思いやりが強くなる

  • 勇気をもたらす、恐怖反応を鈍らせ、逃げ出そうとするのを防ぐ

 「思いやり・絆反応」は、自分たちにとって大切な人やコミュニティを守りたいという気持ちを高める。そのために勇気が湧いてくる。
 一方で、卑劣な行為をする相手に対しているときに向社会的なストレス反応の効果―――――
―――――自分たちにとって大切な人や、コミュニティを壊されたくないのだ。
 自分が感じているストレスを、他人に与えたいとも思わないし、それで困っている人がいるのなら、助けたいと思う。
 人間には「思いやり・絆反応」という本能がある。だからこそ、これだけの文明を築き上げることができたのです。

チャレンジ反応

 ストレスによって生じるエネルギーは行動を促すだけではなく、脳を活性化させる。
 集中力が高まり、恐怖反応を抑える効果がある。一心不乱に仕事に取り組んでいる、アーティストやアスリートのようなもの。
 いわゆる、「フロー」状態(自分のやっていることに完全に没頭している望ましい状態)にある人は、「チャレンジ反応」の特徴が明確に表れている。
 ストレスで生じるパワーは、他人を助けることに役立つばかりでなく、自分自身が成長できるパワーも生じる。

ストレスを力に変える

ストレス反応を選ぶ

 私たちは、
「どのストレス反応が起こすか」
を選択することができる。
 時と場合に応じて最も適切なストレス反応が起こし、自分の持っている力を最大限に利用できるのが理想である。
「闘争・逃走反応」なのか?
「チャレンジ反応」なのか?
「思いやり・絆反応」なのか?
 体がストレスに反応しているのを感じたら
「今、自分に最も必要なのは、ストレス反応のどれだろう?」
を考えてみよう。

マインドセット介入・マインドフルネス

 幸せな生活を送るためには、ストレスは避けれないものである。そして、ストレスに対する反応の仕方は選ぶことができる。
「その経験が忘れがたいのはなぜですか?」
「そのときに、どんなことをしたのが役に立ちましたか?」
「自分自身について、どんなことを学びましたか?」
 ストレスを感じた時に強力な感情が生じることがある。それは、強烈な感情によって記憶力を高めるという側面があるから。
 それなら、自分の感覚や感情をシャットダウンしたりせず、自分の中に沸き起こってくる考えや、感情や、感覚に注意を払い、受け入れることです。

 そして、困難にうまく対処できるという自信ができれば「ストレス免疫」ができる。
 マインドセット介入や、マインドフルネスは、迷信やおまじないといった魔術的な方法ではない。
 「うまくストレスに対処することができる」という経験を積むことができれば、自信を手に入れ、自分自身や周囲の大切な人を守ることができるのです。

大切な価値観を思い出す

「誰がゴミ出しをやるか?」
は極めて重要な問題である。
 しかし、それで家庭平和が保たれるのであれば、「ゴミ出し」程度のストレスは受け入れたほうがいいだろう。
 少し時間を取って、あなたにとってもっとも大切な役割や、人間関係や、活動や、目標を、リストに書き出してみよう。
 いくつか書けたら、自分に向かってこう問いかける。
「このなかでときどき、もしくは頻繁に、ストレスを感じるものはありますか?」
 「ストレスの多い人生」か「ストレスのない人生」のどちらかを選ぶことはできない。
 そうであるなら、大切な価値観を思い出し、そのために生じるストレスに対処する方法を編み出すしかない。

 たった10分間だけであったとしても、自分の価値観を一度紙に書いただけでも、その効果は何か月、あるいは何年たっても、持続する。
 それは自分の価値観を紙に書いたからではなく、それをきっかけに自分の考え方が変わったからだ。

大きな目標に貢献する

 ストレスには、いたわりや、協力や、思いやりを強める作用がある証拠が発見された。
 上述した「思いやり・絆反応」である。他者をいたわると「恐怖」が弱まり「希望」が強くなる。

  • 社会的いたわりシステム
     オキシトンによって調整される。
     思いやりが強まり、人とのつながりを求め、相手を信頼する気持ちが強くなる。
     絆を強めたり、親しい人のそばにいたくなる。
     脳の恐怖中枢の働きを抑え、勇気を強める。

  • 報酬システム(報酬系)
     ドーパミンを分泌する。
     やる気が強まる一方で恐怖が弱まる。
     重要なことをやり遂げる自信を持つことができる。
     体の行動を促進し、プレッシャーのせいで動けなくなるのを防ぐ働きがある。

  • 調律システム
     セロトニンによって作動する。
     知覚や自制心が強くなる。
     何をなすべきか瞬時に理解し、最大限の効果をもたらす行動がとれるようになる。

 まったく逆に「自分の価値を証明しよう」と躍起になると、つねに他人との競争を意識し、周囲に実力を知らしめなければならないと考えてしまい、疲労困憊する。
 そのうち喜びを感じなくなり、人間関係にも対立や争いが生まれる。
 もっとも重要な目標は「自分よりも大きなもの」に貢献することだと考えると、同じ努力をするにしても、自分をやる気にさせる動機が変わってきます。
 そうすると、自分自身の成功だけにとらわれずに、大きな目標の達成に向けて、周りの人を応援したくなる。
 自分はコミュニティのなかでどんな役割を果たすべきか―――自分はどんなふうに貢献したいのか、どんな変化をもたらしたいのか、ということを目標にします。
 「自分よりも大きなもの」に貢献しようと考えて動く人は、結果的に強力なネットワークを築くことになり、仲間と共に支えあうことができる。
 やがて、周囲に人から尊敬され、好かれるようになる。

成長する

 ストレスを避けるのは、短期的には合理的な方法に思えても、長期的には必ずと言っていいほどしっぺ返しを食らう。

  1. 機会を逃す
     その結果、あなたの生活は向上しましたか
     それとも、活動範囲が狭まってしまったでしょうか?
     せっかくの機会を逃したことで、どのような代償を払いましたか?

  2. 逃げる
     ストレスから逃げる方法は、あなたが時間やエネルギーをうまく使い、良い生き方をするために役立っていますか?
     深い意味を見出したり、成長したりするために、役立っていますか?
    (上述しましたが、「拷問」だと感じたら、逃げること。)
     自己破壊的な方法で、問題から逃げていませんか?

  3. 自分の将来に限界を設ける
     もし、生活にストレスが生じるのを恐れさえしなければ、やってみたいこと、経験したいこと、受け入れたいこと、変えたいことがありますか?
     もし挑戦せずに諦めたら、あなたはどんな代償を払うでしょうか?

 ストレスを避けようとすることの最大の問題点は、
自分自身や人生に対する見方が変わってしまうこと
です。
 これまでの人生をふり返って、ストレスの多かった日をすべて取り除いたら理想の人生になれるかというと?―――――そうではない。
 それどころか、あなたが成長するきっかけとなった経験や、もっとも誇りに思っているチャレンジや、あなたに大きな影響を与えた人間関係も、消え去ってしまう。
 生活からストレスがなくなったら、不快な思いをしなくてもいいかもしれないが。同時に意義も幸せも失ってしまう。

 にもかかわらず、ストレスのない生活に憧れるのは、決して珍しいことではない。
 ある意味では当然の願望とはいえ、ストレスのない生活には大きな代償が伴われる。

【注意】苦しみに感謝するわけではない

「もし誰かに、ご主人が亡くなってつらいだろうけれど、よかったと思えることも見つけなさいなんて言われたら、地獄へ落ちろ、といってしまうかもしれません」

 その通り。
 今現在ストレスで苦しんでいる人に、「ストレスが役に立つ」と言ってしまったら、末代まで恨まれるでしょう。
 逆境のなかにも、よい点や得るものがあると考える「ベネフィット・ファインディング」という方法がある。
 「どんな試練も乗り越えれば強くなれる」ということわざに対して違和感を覚えるのは、当然のこと―――――だれでも、ストレスも逆境も、避けられるものなら避けたいからだ。
 しかし、幸せな生活を送るにはストレスがつきものである。そして、それを乗り越えれば強くなれるということは、知っておいたほうがいい。たとえ、今この場で理解できなくても。
 「ベネフィット・ファインディング」の訓練を受けたセラピストたちでさえ、患者に対しては、苦しみの中のよい面を見つめるよう無理強いしないように指導されている。
 患者が自分から苦しみの中から良い面について話し出すまで待つのです。その時も、セラピストは余計な意見を差し挟まずにに、だまって耳を傾けるのです。
 苦しみ事態に良いことがあるわけではない。苦しみを感じなくなったわけではない。トラウマ自体は成長の糧にもならない。
 しかし、苦しみによって成長するときには、成長の糧となるものが、あなた自身の中にひそんでいる。
 それはあなたの長所と価値観、そして逆境の良い面を見つめようとするあなたの態度です。
 そのことを知っておいて、気が付くことが出きれば、人間は成長できる。

まとめ

  • ストレスに対する考え方を変える―――――大切なものだからストレスを感じる

  • ストレスには、「闘争・逃走反応」「思いやり・絆反応」「チャレンジ反応」の3つがある。

  • ストレスを力に変える

    1. ストレス反応を選ぶ

    2. マインドセット介入・マインドフルネス

    3. 大切な価値観を思い出す

    4. 大きな目標に貢献する

    5. 成長する

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