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【読書】『残酷すぎる成功法則』【証拠を出して科学すると「微妙」な結果になる】

第一六章 気前良さとけちについて

マキアヴェッリ『君主論』より。
 マキアヴェッリは「けちという評判は気にする必要はない」と言っている(例外はあるけれど)。
 「気前が良い」より「けち」のほうが良いのか!
 そうだったっけか? は後述。

 バーカーは、「役に立たない成功法則」を「間違った木」と言っている。
 会社で出世したり、幸福な人生を手に入れたりするためには、「正しい木」をちゃんと選ばなければならない。
 問題なのは、「正しい木」と「間違った木」を知る方法がないことだ。
 それなら、証拠(エビデンス)を挙げて、検証しよう!
 証拠を挙げ、それに対して議論を展開し、検証する。
 それが「科学」なのです。

<注>
 今回、「囚人のジレンマ」を説明をしているため、長いです。
 ご存じの方は、飛ばして読んでください。

ポイント
・エビデンス(証拠)を出して考えよう
・世間一般の成功法則が、間違えている可能性がある
・微妙な結論になるかもしれない
・失敗するよりマシだ

短期的には、嫌な奴が得をする

デューク大学教授ダン・アリエリー

誰かがズルをして逃げおおせるのを見ると、やがて皆がいんちきをするようになる。ズルは社会通念として容認されたと考えるようになるからだ。

 誰かがズルをしても咎められないのを見れば、大丈夫なんだと思う。
 自分だけが規則を守ってバカを見たくないと思うようになる。
―――――と言われたら、当然、こんな反論があるだろう。
「じゃあ、みんなが同じことをしたらどうなるの?」
「だって、みんながするはずないもの」
 それを検証しよう。

不幸な国:モルドバ

 オランダの社会学者、ルート・フェーンフォーヴェンは「世界幸福データベース」を作成し、もっとも幸せからほど遠い国は、「モルドバ」と言っている。
 モルドバ人はたがいを全く信用しない。
 ほぼすべての生活面で信頼が欠如している。

 この国で、集団の利益のために人々を一致団結させることはとうてい不可能だ。誰も、他者の利益になるようなことをしようとしない。信頼感、協調心の欠如は、この国を利己主義のブラックホールに変えてしまったのだ。

 恐ろしい国だ。
 職場なら、退職でも、異動でも逃げ道はある。
 それが国家になったら、亡命?
 国家単位で発生するのなら、もっと小さな、会社・職場・ご近所付き合いでも発生するに違いない。
 あなたが利己的になれば、いずれ、他の人間がそれに気づく。
 権力の座に就く前に報復されれば、有害だ。
 また、たとえ成功しても、問題を抱え込むことになる―――――みんなが利己的になって、成功しようと目論むからだ。
 成功するには、利己的になること、とあなた自身が教えたことになる。
 結果、モルドバのように、あなたの職場は働きたくない場所になる。
 そして、善良な人、能力のある人、は職場を去っていく。
 利己主義的な行いは、すべてを壊すのだ。

悪いモラルは伝染する

 「そんな職場ではない」という人は、幸運だ。
 「モルドバではない」と言われたら、そうだ。僕たちは日本人だ。(翻訳しないで)
 職場や国だと腑に落ちなかったとしても、「自転車」だったら腑に落ちてくれるだろう。
 オランダのフローニンゲン大学の研修者らの実験がある。
 実験の下準備として、マナーの悪い人たちの”形跡”をわざと仕込む。
 「駐輪禁止」とでかでかと書いてある看板のすぐわきのフェンスに自転車をチェーンでつなぐとどうなるか?
 そうすると、ほかの人がやったことを真似して自転車をフェンスにくくりつける―――――だけではない。
 ごみを投げつける、通り抜け禁止の路地に入っていく――――悪いマナーは感染するだけでなく、さらに悪くなる。
 このことを知った時、赤信号を渡りづらくなった。
―――――「渡らなくなった」と言わないところが、僕らしいんだけど。

ゲーム理論「囚人のジレンマ」

 あなたと友人が銀行強盗をして捕まったとする。
 警察は二人を別々の部屋で尋問する。
 隔離されているので、相談することができない。
 そして警察から次のような取引を持ち掛けられる。
・友人が首謀者で、あなたに不利な証言をしなければ、友人は五年の刑で、あなたは保釈される。
・あなたが友人に不利な証言をせず、友人があなたに不利な証言をすれば、あなたは五年の刑で、友人は保釈される。
・双方がたがいに不利な証言をすれば、二人とも三年の刑になる。
・双方が証言を拒否すれば、二人とも一年の刑になる。
 これが一回限りのゲームだと、「双方が証言し、二人とも三年の刑」になる。

「囚人のジレンマ」の図解

 図解しよう。

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 黄色く塗ってみてが、お互いのことを思いやれば、二人とも黙っている方が得をする。
 しかし、そうならない。
 それは、友人(友人から見れば自分)が何をするか分からないからだ。
 友人の行動が分からないように、黒く塗ってみました。

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 友人が証言しなかったとしても、「自分さえよければいい」のなら、証言してしまったほうがいい。

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 友人が証言してしまったら、さあ大変。
 あなたには5年の刑期が待っている!
 しかし、自分も証言してしまえば、3年で済む。
 「自分さえよければいい」―――――と考えたら、証言してしまったほうがいい。
 かくして、自分も友人も仲良く証言して、お互い3年ずつの刑期に服す。
 「自分さえよければいい」と考えると、二人とも損をするトータル6年の刑期が待っているのだ。
 これが、職場で起きている。モルドバで起きている。自転車でも起きている。
 ああ、やっぱり赤信号は渡りづらい。

「囚人のジレンマ」を20回繰り返してみよう

 人間関係が一度きりということは―――――ないとは言わないが―――――実際には繰り返すもの。
 実際の人間関係に近づけるべく、このゲームを20回繰り返してみよう。
 一四種の戦略(加えて、「でたらめ戦略」の一プログラム)を携えて戦った結果、利得の合計が最も高かったのは?
 もっとも単純で、だれでも知っている戦略―――――「しっぺ返し」
 「しっぺ返し戦略」はいたってシンプル。
 初回ラウンドではまず協力する。その後は相手の選んだ戦略を真似し続けるというもの。
 さらに多くの専門家に呼びかけ、六二種類のプログラムで再度総当たり戦を繰り返したが、勝利したのは「しっぺ返し戦略」
 さらに頭を絞った結果、ついに「しっぺ返し戦略」を超えるプログラムを見つけた!
 それは、「寛容なしっぺ返し戦略」―――――たまには裏切られた後でも協力する、というものであった。

エビデンスからわかる最強の対人ルール

 せっかくなので、このエビデンスから学習したことを書き留めておこう。
 「この本読んでくれ」というのも不親切なので。

①自分にあった池を選ぶ

文字通り、また比喩的にも、モルドバに移住するのはやめよう。

 そりゃそうだ。
 「裏切られる」とわかっていたら、はじめから自白する。そしてお互い損をする。
 そもそも銀行強盗をしない。
 妙な言い方だが、悪いことすらできなくなるのだ。

②まず協調する

 「囚人のジレンマゲーム」で高得点を挙げたプログラムは、すべて最初に協調行為をとっていた。
 自分が「自白します」なんてことが、ばれていたら、相手も「自白」を選ぶだろう。
 だから、信頼を得られるよう、協力するのだ。
 自白をしない。自転車を置かない。赤信号は渡りづらい。
 やはり、妙な言い方だが、悪いことをするにも、協力が必要なのだ。

③無私無欲は聖人ではなく愚人である

 迷惑なことをされても何一つ抵抗しなければ、なめられるのは人間社会の常だ。
 「囚人のジレンマ」選手権で成功するにはプログラムに「報復」を取り入れることが必須だと気づいた。
 これを現実社会に応用するなら、利己主義者を罰する方法は「噂話」だ。
 その利己主義者に用心するように周囲に伝えれば―――――気が晴れるだけでなく―――――実害も減るだろう。
 これからの被害者を減らすこともできる。
「あいつ、自白するんだぜ」
「あいつ、自転車置きやがった」
「あいつ、赤信号・・・・・」

④懸命に働き、そのことを周囲に知ってもらう

 こちらが、
「協調します」
「役に立つ人間です」
ということを教えなければならない。
 それはそうだ。
 誰が無能な裏切り者と、一緒に何かをしようと考えるだろうか?
 やはり、妙な言い方だが、悪いことをするにも、能力が求められるのだ。

⑤長期的視点て考え、相手にも長期的視点で考えさせる

 短期的に利己的な行いが利益をあげるが、最終的には良心的な行いが勝利をおさめる。
 だから、可能なかぎり、長期的スパンで事を行おう。
 一回限りの関係であればあるほど、人はあなたからより多くの報奨を引き出そうとする。「囚人のジレンマ」がそうであるように。
 関りが多ければ多いほど、共通の友人が多ければ多いほど、また遭遇する可能性が高ければ高いほど、他者があなたにとってあなたを丁重に扱う必要が増す。
 「囚人のジレンマ」を繰り返したように。

⑥許す

 現実社会は、喧騒に充ち、複雑なので―――――ようするに完全な情報を入手できるわけがない。
 事情がはっきりしないがゆえに、好ましくない人間だとみなすこともありうる。「噂話」が間違っている可能性がある。利己主義者がデタラメな「噂話」をまき散らしている可能性もある。
 偽の情報を流して敵を惑わせるのは、『孫子』以来、兵法の鉄則である。
 しっぺ返し戦略の勝因のひとつに、協調行動(互恵主義)を教える性質にある。
 つまり、相手に二度目のチャンスを与えることにある。
 あなたも、他の人々も決して完璧ではなく、それにときどき、混乱するものだ。
 自分を許すように、他人も許すことだ。
 モルドバの人だって、ほかの国に行けば、協力的になるだろう。
 職場の人だって、転職したら、いい人になるかもしれない。
 自白しないのがお互いのため、と知らなかったからかもしれない。
 トイレに行きたくて、最初の一台の自転車が置かれたのかもしれない。
 赤信号の話はやめよう。

それで、マキアヴェッリ

 冒頭にあげたマキアヴェッリの『君主論』第一六章。

気前良さととけちについて

 気前良い人の方が好まれ、けちであることは疎まれる?
 じゃあ、その「気前良さ」の財源はどこから出るの?
→重税かけよう
 そんなことになったら、「けち」どころの騒ぎではなくなる。
 だったら、「気前良さ」なんて評判は気にしない。「けち」という悪評なんか気にしない。
 ということで、マキアヴェッリは、教皇ユリウス、フランス王ルイ十二世、イスパニア王フェルナンド五世、カエサル、キュロス、アレクサンドロスという証拠=エビデンスを挙げて、説明したり、例外もあるよ、と教えてくれている。
 それが、マキアヴェッリのエビデンスが分からないのは―――――ヨーロッパ史に詳しくないからだ。それはともかく。
 歴史的事実や当時のニュースから、法則を導き出したら、ずいぶん「冷徹」な、あるいは「身も蓋もない」、またあるいは「微妙」な結論になってしまった。
 当時のヨーロッパ人だって、結論だけ読んだら、「けしからん」と憤慨したから、マキアヴェッリは人気がなかったのだろう。
 だけれども、「現実はこうですよ」と言ってくれる人がいない限り、人は失敗を繰り返す。
 気前良さなんていらない。けちという評判は気にするな、というように。
 利己主義者はすべてを壊すが、ひたすらいい人でも失敗するよ、というように。
 なんだかもどかしい結論だけど。

「エビデンス(証拠)ベース」で科学すると、微妙な結論が出る

 バーカーは、ブログのすべての主張に、それがどのようなエビデンス(証拠)にもとづいているのかのリンクを貼っている。このちょっとした工夫(コロンブスのタマゴ)によって、うさんくさいものの代表だった自己啓発に“科学”をもちこんだのだ―――。

 マキアヴェッリもエビデンス(証拠)に基づいている。
 「間違った木」に向かて吠えても何も解決しない。
 だから「正しい木」に向かって吠えよう。
 それにはまず、証拠を探そう。エビデンスを探そう。
 そして、その証拠・エビデンスを照らし合わせよう。
 それから検証して、あらためて「成功法則」を導き出そう。
 それが科学なのであり、正しい議論の姿勢であり、それができるのが「現実的」であるということだ。
 その結果が、なんだか微妙なことになったとしても、人生を失敗するよりはマシなのだ。

まとめ

・エビデンス(証拠)を出して考えよう
・世間一般の成功法則が、間違えている可能性がある
・微妙な結論になるかもしれない
・失敗するよりマシだ。

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