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【解説】AKMU- 어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지(How can I love the heartbreak, you`re the one I love)

 誰しも一度は、人生を変える音楽に出会ったことがあるのではないでしょうか。歌の翻訳を始めた私にとってそれは、AKMUであったと言えます。当時高校生だった私が同世代の彼らの音楽を聞き、「彼らの”音楽”をもっと多くの人が知らなければならない」という焦燥感に駆られ、歌詞の翻訳を始めました。本格的に韓国語を学ぶのも、歌詞の翻訳を始めるのもずーっと後の話ですが、私にとってAKMUは、出会うべくして出会った人生の伴走者なのです。

 K-popの翻訳プロジェクトを考え始めた当初から、最初の発表曲はこの曲にすると決めていました。2019年秋に発売された彼らの3rdアルバム『항해(航海)』のタイトル曲「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지(How can I love the heartbreak, you`re the one I love)」。発売から一年以上経った今でも、音楽チャートTOP100に入り続ける名曲中の名曲です。この曲を作詞作曲したイ・チャニョクが「これ以上いい曲が書けるだろうかと思う」と述べるほど、作品としても非常に優れた楽曲です。AKMUは、この歌の中で”別れ”という愛が持つ深海のように暗い側面を表現しています。

 日本語字幕のあるライブ映像をここで皆さんに紹介しましょう。一度、動画の日本語字幕で見た後に、再度動画を再生して、下に記載した翻訳歌詞を見ながら聞いていただくと、AKMUの歌詞の世界を十二分に楽しんでいただけるかと思います。


原題「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지」
邦題「別れまで愛することなど」
作詞作曲:イ・チャンヒョク
日本語歌詞:ひみ

일부러 몇 발자국 물러나
わざと数歩離れて
내가 없이 혼자 걷는 널 바라본다
一人歩く君 遠く見つめる
옆자리 허전한 너의 풍경
寂しそうな背中が
흑백 거리 가운데 넌 뒤돌아본다
モノクロの世界でそっと振り向く

그때 알게 되었어
きっと知ってたんだ
난 널 떠날 수 없단 걸
これが愛なんだと
우리 사이에 그 어떤 힘든 일도
どんなつらいことも別れよりは
이별보단 버틸 수 있는 것들이었죠
耐えられること、息できること

어떻게 이별까지 사랑하겠어
別れまで愛することなど
널 사랑하는 거지
もうできやしない
사랑이라는 이유로 서로를 포기하고
別れが最後の二人の記憶と
찢어질 것같이 아파할 수 없어 난
愛の深さにおぼれていく

두세 번 더 길을 돌아갈까
回り道をえらんで
적막 짙은 도로 위에 걸음을 포갠다
静寂の中で重ねる足並み
아무 말 없는 대화 나누며
音のない会話たち
주마등이 길을 비춘 먼 곳을 본다
走馬灯が照らす道を眺める

그때 알게 되었어
ずっと知ってたんだ
난 더 갈 수 없단 걸
きっと別れは来ると
한 발 한 발 이별에 가까워질수록
確かに近づく最後の時
너와 맞잡은 손이 사라지는 것 같죠
それまでどうか手を離さなずに

어떻게 이별까지 사랑하겠어
別れまで愛することなど
널 사랑하는 거지
もうできやしない
사랑이라는 이유로 서로를 포기하고
別れが最後の二人の記憶と
찢어질 것같이 아파할 수 없어 난
愛の深さにおぼれていく

어떻게 내가 어떻게 너를
この海がこの空が
이후에 우리 바다처럼 깊은 사랑이
長い長い時間の先に
다 마를 때까지 기다리는 게 이별일 텐데
なくなるまで想うのが愛なのに

어떻게 내가 어떻게 너를
この海がこの空が
이후에 우리 바다처럼 깊은 사랑이
長い長い時間の先に
다 마를 때까지 기다리는 게 이별일 텐데
なくなるまで想うのが愛なのに


 私が、この曲を翻訳するときに一番困ったのが、タイトルとサビの歌詞になっている「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지」の部分です。直訳すると「どうして別れまで愛せるだろうか、君を愛しているんだ」(拙訳)となります。韓国語特有の言い回しを用いているために、自然な日本語に翻訳するのさえ少し骨が折れる一文です。歌の翻訳では、そこに音程と音数という制約がついてきます。

 歌によっては、歌の他の箇所からモチーフを持ってきたり、似たイメージと入れ替えたりして訳すこともありますが、今回はできるだけ原曲が持つ情景をそのまま表現することに重きを置きました。曲の中核であるサビ部分は原曲のサビの歌詞をそのまま生かすと心に決めていました。

 子音のrとs、さらに母音のバランスを日本語と韓国語で合わせ、単語の中間で音を区切るAKMUの特徴をここで利用しました。日本語のサビのフレーズと邦題は「別れまで愛することなど」と決めました。意味的には「どうして別れまで愛せるだろうか、君を愛しているんだ(直訳)」=「別れまで愛することなど(できない、君を愛しているんだから)」と解釈しました。歌中では「別れまで愛することなど」の後ろに「 もうできやしない」と続けています。「できやしない」は、現代の若い人たちの間で日常的に使われているフレーズではないため、最初訳した時は、「ちょっと歌う時に耳に引っかかるかな?」と思ったのですが、前後続けて歌ってみるとそれほど違和感はなく、むしろ原曲の持つ強い意志が伝わってくると感じました。今では結構気に入っているフレーズです。

 もう一か所、この曲において非常に重要な歌詞があります。AKMUイ・スヒョンが歌う時に”最も力を入れる部分”と述べている一番最後の部分です。少し長いですが、原曲歌詞を引用すると、「어떻게 내가 어떻게 너를 이후에 우리 바다처럼 깊은 사랑이 다 마를 때까지 기다리는 게 이별일 텐데」とあります。日本語に直訳すると「どうやって私がどうやってあなたを この先私たちの海のように深い愛が すべて干上がってしまう時まで待つのが別れであるはずなのに(拙訳)」となります。当初私は、この部分を原文歌詞にできるだけ忠実に「この海がこの空が長い長い時間の先になくなるまで想うのが別れなのに」と訳していました。しかし、音数的にも意味的にも、どちらもしっくりこないのです。ここで言う「私たちの海のように深い愛がすべて干上がってしまう時まで待つ(中略)別れ」とは、一体何なのでしょう。それを考えるには、この曲の全体の解釈を整理する必要があると考えました。

 ”愛”と”別れ”がこの曲のキーワードだということは、タイトルや出てくる回数ですぐ分かります。しかし同時に、この”愛”と”別れ”とが単なる愛と別れではないことにも気づくかと思います。この2つの持つ特別な関係とは一体何なのでしょうか。その謎を解くヒントを、私はAKMUの出演する音楽番組で見つけました。

 AKMUが「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지(How can I love the heartbreak, you`re the one I love)」を制作する前、2ndアルバムを出し、韓国の有名音楽番組「ユ・ヒヨル(유희열)のスケッチブック」に出演したときのことです。番組MCユ・ヒヨルは、自身も作詞作曲をする歌手であり、またデビュー当時からAKMUの2人と親交があります。番組の中でユ・ヒヨルはAKMUの2ndアルバムタイトル曲「오랜 날 오랜 밤(長い日長い夜)」の話をしながら、歌手ユン・サン(윤산)の歌詞が思い浮かぶと話しました。その時引用したのが「愛とは(사랑이란)」という楽曲の「別れまでもが愛なのだろう(결국은 이별까지도 사랑인걸)」という歌詞でした。

 「愛とは(사랑이란)」の歌詞を見てみると、AKMUの3rdアルバム『항해(航海)』と通ずるテーマがいくつか見受けられます。昔の曲を好んで聞くイ・チャンヒョクがこの曲に影響を受けたと考えても不思議ではないでしょう。むしろ「愛とは(사랑이란)」の延長線上に「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지(How can I love the heartbreak, you`re the one I love)」を置いて考えると話がきれいにつながるのです。

私が考えたこの曲のストーリーは以下の通りです。
 恋人と別れた主人公は、過去を回想するうちに、自分の中にある相手に対する深い愛を自覚します。「愛という理由でお互いを諦め(原曲歌詞)」や「別れまでもが愛なのだろう」に象徴されるような他者が示す”深い愛”と”別れ”のジレンマの中で、主人公は「どうして別れまで愛せるだろうか」と苦しみ、恋人との別れを嘆くのです。

 そう解釈すると、この曲の最も核となる部分は「別れの痛みを通じて知ってしまった恋人への深い愛」ということが分かります。この経験を通して、主人公の中では本質的に別れと愛が同じ意味を持つことになったのです。「別れ=愛」という楽曲の解釈と、音の制限考慮し、私は最後のパートの「別れ」と「愛」を原曲とは逆に訳すことにしました。

 今回、「어떻게 이별까지 사랑하겠어, 널 사랑하는 거지(How can I love the heartbreak, you`re the one I love)」の翻訳には、現在私の持てるスキルをすべて詰め込みました。解説は簡単にしようと思っていたのですが、やはり最も敬愛するAKMUの楽曲とだけあって、抑えようとしていた熱量が文章量として溢れでてしましました。「別れまで愛することなど」の翻訳では、今回解説した箇所以外にもいろんな仕組みを詰め込んでいるので、韓国語と日本語のわかる方は、読み比べて、歌い比べてみてください。「この翻訳歌詞がダメだな~」と思ったら自分で訳してみたりしても面白いと思います。翻訳を通して、良質な楽曲の持つ魅力がもっと多くの人に伝わればいいなと思っています。

次回は、まったく異なる色味を持つK-popの楽曲を翻訳&解説する予定です。お楽しみに!

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