#5 三角食べができるようになりたい23歳

保育園の頃か小学生の頃からか、三角食べが推奨されていた。

三角食べとは、一品ずつ完食するのではなく卓上に提供された各料理を少しずつ分けて食べることであり、すべての料理が同じペースで減っていくことからバランスよい食事のとり方とされている。和食の場合(右手前に汁物、左手前に米類、中央に魚や肉を用いた主菜)だと、汁物、米、主菜、汁物、、、といった順に少しずつ食事を進める際に箸が移動する軌跡が三角形のようであることからもわかると思う。

三角食べを意識している際は実行できるが、一度意識しなくなると私は味噌汁を先に平らげ、米を平らげ、、、といったように特定の料理をひとまず食べきる「ばっかり食べ」にすぐさま移行してしまう。

なぜそうなってしまうのか考えてみると、三角食べの方が自分にとってストレスだからだという結論が出た。味噌汁を飲んでいるときに他の副菜や主菜、ご飯など複数の品に同時に注意を向け、どのくらい味噌汁が減ったら次の品に移ろうかというタイミングを計算し品全体で食べる量を調整するということは多少の集中力や思考が求められる。「ばっかり食べ」の場合、他の品のことは考えず一つの品を完食することだけに注力すればよいので楽である。

そういえば高校生の頃から、定食というよりはラーメンや牛丼など丼一杯で済むメニューばかり頼んでいたのは、ばっかり食べの方が馴染んでいるからなのだろうかと今気づいた。

丼ものを食べている分には構わないが、この「ばっかり食べ」の性格は、年齢を重ねるにつれ変えていかなければならないと思い始めるようになった。


大学受験では某国立大学を目指していたため、受験科目が多いことに加え、センター試験(今でいう共通テストのこと。予備校の先生がセンターテストのことを前の言い方で「共通一次」と言っており古いなと感じていたが、こんなにもすぐに自分が古い側の立場になるとは思いもよらなかった。私が浪人した年でセンター試験は最後だった。)と二次試験に形式が分かれているため、それぞれの対策も要求された。

私は一浪の末、第一志望に落ちたわけだが、その敗因の一つとして、科目や試験形式ごとの勉強配分をうまくできていなかったことが考えられた。配分の失敗は、自分の学力を正確に分析して問題点を洗い出し、優先順位をつけて勉強に取り組むという受験生として当たり前のことができていなかったからだといえる。

数学や物理の問題を解く際に、すぐ考えるのをやめてしまうことはよくないと思い、私は一問にかなりの時間をかけてしまっていた。確かに、一定時間考え抜くことは大事だが、限度というものがある。私は、一問にかなり時間をかけてもわからなかったら燃え尽きてしまい模範解答を見ずに放置する、または模範解答をみてもパッと見ただけで次間違えないようにしっかりと復習しようとしなかった。今思えばそりゃ落ちるだろうというかんじだ。
また、化学の無機分野(覚えることが多い分野)に関してルーズリーフに移してまとめるのに1か月ほどはまるという謎の期間もあった。「ばっかり勉強」である。

大学生になってからは受けたい授業を選べるほか、アルバイトをはじめ自由に時間を組めるようになった。対面授業が始まったことで通学時間が入り込んだ一方、オンライン授業時と同様のペースでアルバイトを入れた大学2年の前期は特に大変だった。

複数のレポート課題や建築学科の製図・模型課題が重なった時期はうまく予定を組めなかったため必要以上にアルバイトに出られないこともあった上に、製図や模型、レポートのクオリティも不十分なものになってしまった。その経験の影響で、後期は一旦バイトを辞め学業のみに集中するようにした。それでもなお、レポートの時期には複数のレポートを同時並行できず、ひとつずつ順番に片づける形となってしまった。「ばっかり大学」である。

昨年は卒論でちょっとした実験があったが、材料の発注から届くまでには時間がかかるため、短期的に実験準備を考えることは不可能である。実験棟の予約や実験の各作業にかかる時間・卒論までの締め切り等を考慮し、前々から計画することが必須である。また、私は実験結果を再現する解析も同時並行していたた。「ばっかり卒論」だったため、また不必要にアルバイトを減らしたり他の時間を無駄に削ることになってしまった。


これまで苦戦してきたことも、私が「三角食べ」の人間であれば何の問題もなくうまくいっていたであろうと思うと、なんて要領の悪い人間なのだろうと情けない気持ちになる。

「ばっかり食べ」は集中して取り組んでいる物事が完遂できる前提を持つが、社会に出たら一つのことを100点満点にすることは学生の頃に比べて困難になり、妥協点を見つけて折り合いをつけることも重要なスキルとなるだろう。片っ端から100点を目指すのではなく、複数の物事で80点をとり終わった後から余力があれば100点に近づける姿勢がよくできる人なのだろう。それが社会人としての三角食べである。

三角食べできるようになるということは複数の物事を同時並行で進められるということだが、そのためには、各物事で目標や取り組む段階を予め設定する、つまり目標に向かってレールを敷いてあげることが大事だと最近気づいた。そのためには普段の食事から同時並行の癖を付けることが近道になるのではないかと思っている。


とはいうものの、食事くらい何も考えないで好きなように食べたいものだ。





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