#6「とか」の違和感

「○○とかありますか」「△△とかしますか」のような言い方にどこか疑問を抱いたことはあるだろうか。

私は令和になったくらいからこの手の言い回しに違和感を覚えるようになった。「とか」の使い方である。

「とか」というのは並列関係にある物事を説明する際に用いる言葉で、「AとかBとかCとか…」のような言い回しをするのが普通である。しかし実生活の中でよく聞かれるのは、並列関係でなく単品で「Aとか」という言い回しである。Aが並列関係に位置付けられていないのにも関わらず、並列関係に関して用いられる「とか」が使われているのは気持ちが悪い。「彼氏さんとかいますか」「趣味とかありますか」などは何となく聞いたことがあるだろう。

とはいえ、言葉は変化していくものだから、多くの人々に馴染んでいる言い回しが正しい言葉の使い方として変化していくこともあり、違和感のある言い回しを頭ごなしに否定することはできない。ここで、単品の事象に付随する「とか」についての私の解釈を発表したい。

一つ目に、「Aとか(BとかCとか…)」のように、並列している内容を省略した形であるという解釈がある。例えば(ぱっと良い例えが出てこないが)、食事中にこぼした食べ物をふき取りたいとき、咄嗟に「ティッシュとかある?」と周りに呼びかけた場合、省略しないでいうと「ティッシュとか(ダスターとかウエットティッシュとか何か汚れをふき取れるものは)ある?」といった意味が考えられる。
会話は文章を書くのとは異なり、短時間で伝えることが大事なので綺麗に言葉を並べる必要はない。拙い言い回しでも取り合えず伝わることが大事なのだ。丁寧に伝えようとしてかえって言葉が出てこなかったり遠回しでくどい言い方になってしまうのは何も伝えられていないのと同義である。

先ほど紹介した「彼氏とかいますか」だったら、「彼氏とか(彼女とかパートナーは)いますか」というように多様性に配慮した省略だとも解釈できる。「趣味とかありますか」なら、「趣味とか(趣味とはいえなくても何かはまってるものは)ありますか。(今からのトークの話題にしたいので)」といったようにも理解することもできるだろう。

省略した言い回しの中で私たちに一番身近なのが「こんにちは」「こんばんは」などの挨拶である(この「など」は並列関係で使っていることは明らかだろう。「など」を「とか」にもできる。)。「こんにちは」なら「今日は(寒いですねえ、忙しいですねえ)」というように最初の話題を切り出すような挨拶であるが、簡単に済ませたい場合もあるため省略して「こんにちは」に凝縮される。「こんばんは」も同様に「今晩は(満月ですねえ)」のような日が暮れてからの挨拶の省略版である。(これは十年ほど前に国語の授業で聞いた内容で記憶がはっきりしていないので誤りがあるかもしれない)

こうしてみると、昔から言葉を省略する文化はあったのだと気が付く。そもそも、日本語はみなまでいわない含みをもった言語であることが特徴であることを踏まえれば、「とか」が省略の中で用いられることは不自然なことではないのかもしれない。

そういえば、若者はよく言葉を省略する。現代では若者でなくても、様々な種類のハラスメントに対応する「○○ハラ」という言い回しがある。こちらは含みを持つというよりは情報過多の社会で情報量を少なく収めたいことから生じる流れだと考えられる。

二つ目は、私が体験したハッとした出来事と共に説明する。
何年か前に大学のある授業でグループワークがあった。私は同じグループの人に何か聞こうとして「○○(数年前なのでなんと聞いたかは覚えていない)したほうがいいですか」と言った。周りがしゃべっていることに加え、私の声が小さかったため、はじめは聞き取ってもらうことができなかった。そこでなぜだか「○○とかした方がいいですか」と聞き直した。普段はこのような言い回しはしないが、こういう言い回しをする大学生は割と多いので使ってみた。その結果、なんと聞き取ってもらうことに成功した。

自分でも口に出してみて感じたが、「とか」を追加することで、一言の中にリズムが生まれ、言葉のつなぎ目がはっきりとした感覚を味わった。それで思い出したのが、高校生の頃に学習した古文や漢文で文中に出てくる「か」や「や」といった助詞である。意味をもった助詞もあるが、直接的な意味が特にない助詞もあった。それらは、強調の効果があるなどと教えられたが、その当時はよくわからず、覚えることが増えて嫌だなぐらいにしか思っていなかった。しかし、今になって単品の事柄に対して「とか」を使うことで、強調の効果を実感することができた。

以上に挙げた2点の理由から「とか」を単独で使うことも一応理にかなっているのだと自分なりに理解できた。ただ、私は「とか」よりも「など」の方が上品な感じがあって好きだ。

「本を読むなどする」「テープを貼るなどして補強する」「窓の外を眺めるなどする」といった表現の方がなんだかしっくりくる。

こんなかんじで単発の「とか」を理解することはできるが、「○○とかしたりしますか」というように「したりしますか」とセットになると、さすがに違和感がマシマシになったりとかはしたりする。



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