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村上春樹presents 山下洋輔トリオ再乱入ライヴ

昨夜はタイトルの配信ライヴを楽しみました。
記事がどのくらい残るかわからないけれど、雰囲気を知ってもらいたいので、先に2つご紹介。

山下洋輔さんとは直接お話していないけれど、8年前、豊橋で行われた画家の松井守男さん(お二人は55年を超える友情だった)とのコラボディナーの時に初めて生の演奏をお聴きした。
(その時をきっかけに、私は守男さんと知り合った)
昨年は、洋輔さんと守男さんのブルーノート東京でのコラボをやはり配信ライヴで楽しんだ。本当は会場へのお誘いもいただいていたけど、コロナ(デルタ株)が盛りだったので控えた。

今回、守男さんが生きていたら、この大隈講堂にも行っていたかもなあ~と思いながらチケットを買った。

メインライヴの前座として、早稲田のモダンジャズ研究会(通称ダンモ)のメンバーによる演奏が行われた。
大学時代、なじみがあった大隈講堂での、現役の学生の演奏を見て、様々な分野の一流を目指す面々が集っていた大学、様々な分野の一流を輩出してきた大学で過ごせて良かったなあと思った。

ちょうど参院選の直後だったので、政治も経済もオリンピックもプロ野球も作家も映画監督も、現にその場に村上春樹がいて・・・など思っていた。
(司会が村上春樹と坂本美雨)

学生と山下洋輔トリオの演奏の間のトークに、私も好きな都築響一さんが加わり、それだけでも満足だったのに、さらに、大好きな菊地成孔さんも急きょ参加でうれしかった!(菊地さんには一時期音楽も文筆にもトークにもハマっていた。2回お会いしているw)

その後のメインでは、配信のスタートが遅れてヒヤヒヤしたけど、カットインで現れた演奏風景は圧巻だった。
大学生の汗をかきながらの演奏も良かったのに、80歳の山下洋輔さんをはじめとしたトリオの3人(ドラム・森山威男さん77歳、テナーサックス・中村誠一さん75歳)が、熱過ぎて、エネルギッシュで、円熟の魅力で、学生より力強く、アナーキーでクレイジーでびっくりした。

MCの坂本美雨さんのにこやかさや美声や立ち居振る舞いにもうっとりしたけど、アマとプロの姿勢(取り組みという意味での姿勢ではなくて、単純にプロは立ち姿がきれい)の歴然とした違いにも驚いた。

私も人前で話すことが多いので、立ち居振る舞いや姿勢に関してとても勉強になった。美雨さんのゆったりとしたトークや、音感やリズムを心得ている人の間の取り方なども・・・。

トリオの血が沸き立つような演奏にも感動したけれど、別口で購入したアフタートークも良かった。
山下さんが、当時の自身の演奏と、学生運動との関連を聞かれ、
「あるものをぶち壊す」という点で共通していた、と言った。
権威や制度をぶち壊したいという欲求。
「あるものは悪い」「権威はぶち壊す」
自分も「今までの音楽は全部忘れてぶちやぶる」という気持ちでやっていた、と。

私自身の小学校高学年からの筋金入りの権威への反抗や、小説を通して固定観念を壊したいと思った気持ちにも似ている。

そして、最後に、涙が出るほど感動したこと・・・
アフタートークの終わり頃、アンコール演奏のために考えていた曲について山下さんが説明する時に、「自分がふだんからアンコールで演奏している曲を今日もやろうとしたら、村上さんとの間で偶然があった」と。
山下さんの話では、司会の村上春樹さんにちなんで、事前に「ノルウェイの森」を読んだら、7ページに、これから弾くアンコール曲と同じ一節が出てきたと。

ポケットからコピーを取り出して、山下さんが読み上げた部分を、私も引っ張り出してきた『ノルウェイの森』で改めて確認した。

村上春樹の小説の中で最も好きな本。
いつか息子らにも読んでもらいたいと思い、ハードカバーと文庫本と両方持っている。

山下さんが読み上げた部分・・・

「記憶とはなんだか不思議なものだ」

村上さんは「そんなこと書いたっけ?」と忘れていたけれど、山下さんがその日演奏した曲は、オリジナルの、
「Memory is a funny thing」
だった。

その一致もおもしろかったけれど、それ以上に私は、山下さんが大物になっても(大物だからこそ)、イベントで一緒になる相手に配慮し、下調べする姿勢に感動した。

私も当然のようにそのような配慮をするけれど、しない人の多さにも驚くし、慣れた中で、山下さんは、早稲田大学に新しくできた村上春樹ライブラリーにも足を運んだことが窺えるコメントをしていた。
【アーカイヴを見ての追記】「記憶とはなんだか不思議なものだ」の一節と、自分自身がアメリカ人のメル友から知った「Memory is a funny thing」というフレーズから作った曲について、ライブラリーに、『ノルウェイの森』の英語訳を確認しに行ったところ、やはり「Memory is a funny thing」とあったそう。私自身も不思議な偶然をよく経験するので、山下さんがわざわざ調べに行った時に、やはり思っていた英文だと発見した時の感動に共感します。

イベントの結びで、不慣れな村上春樹さんをアテンドする美雨ちゃんも良かったし、音声のギリギリで村上さんが発した「(長年のファンの)ヤクルトスワローズが(コロナで)非常事態になってますけど」と言ったその夜は、豊橋での中日対ヤクルト戦が雨で中止になった夜でもあり(楽しみに足を運んでいた親子の様子を複数facebookで見ていて)、いろんなつながりを感じた。

自分が過ごした早稲田大学で、卒業生の村上春樹さんが司会し、話したことはないけどご縁を感じる山下洋輔さんたちの演奏、そして、会ったことある菊地成孔さんの登場、さらに、坂本美雨ちゃんも、一度だけメールのやり取りをしたことがあり(『赤土に咲くダリア』の頃に、ともさかりえちゃんを通じて)、私が最初の小説を出した作品社の編集者は、美雨ちゃんのお祖父さん(坂本龍一さんのお父さん)に関する本を担当したなあと思い出していた。

こちらも引っ張り出してみた。
坂本龍一さんのお父さんは、三島由紀夫などを担当した伝説の編集者だった。

登壇したみなさまの誰一人として私を記憶しているわけではない、こちらからの勝手な思い入れではあるけれど、昨日のライヴに、私のこれまでの人生の歩みも含まれていたようで、不思議な感慨深さがあった。

Memory is a funny thing(笑)

現場に行けたら良かったけれど、アーカイヴ配信も楽しめるので、期限まで振り返ろうと思います。




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