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【エッセイ】世界史の女教師と文化祭のライブ

最も、記憶に残っている教師は、
高校時代の世界史の女教師だった
ヒステリックかつ、威圧的で、冷たく、
投げやり、常にイライラしていた。
当然、生徒からは嫌われている教師だった。
彼女はある日、授業中に、何の脈絡もなく、

「人間は死ぬために生きてます」

と突然に言い始めて…クラス中が、
しーん、と引いてしまった。
僕は(何を急に言い出したんだ!この教師は!)
って面白くなっちゃって、
「人間は生きる為に生きてると思います!」
と挙手して反論してみた。
(僕は僕で生意気な生徒だったと思う)
するとその世界史の女教師は、
悲しそうに首を振って。 まだ授業の途中なのに
そのまま教室から走って退場した。
後には地獄みたいな空気が漂った。
クラスメイト達は「ヤバイネー」とか言って、
へらへら笑っていた。

話は変わって、高校3年の秋、
僕は文化祭でバンドを組んで歌うことになった。
当たって、簡単なオーディションがあった。
カセットに録音したデモテープを、
学校側に提出するという。それだけなのだが
そこで大きな問題が発生した・・・。

なんと、デモ音源の審査を担当するのが
先ほどの世界史の女教師だったのだ。
「ええええええええええええ!!!
なぜ、そこ音楽の教師じゃないの?
オーノー!不合格確定だぜベイビー」

僕は「このオーディション落ちるわ....」とメンバーに謝った。
また青春の暗い1ページがまた増える...と

凹んだ。

と思ったら、驚くことに。
文化祭ライブに応募したバンドは、
僕らのバンド一組だけだったのだ、やっぴー!
もはやオーディションなんて必要ないのだ
しかし世界史の教師は審査すると言い出した。
なんでやねん!って心の中で100回ツッコんだ
そして目の前で録音したテープを聞かれるハメに
何を言われるんだろうと、
内心ヒヤヒヤした、僕は歌が下手だし、
バンド演奏もひどいものだった。
でも出てきた言葉は意外なものだった。
「あんた、いい歌声してるわね !
きっと顎の形がいいんだわ」
って世界史の教師は僕の歌声を。
とても褒めてくれたのだった。

話を聞くと、彼女は実は、教師になる前に、
本気でミュージシャンを、
目指していた過去があったらしく。
両親に猛反対されて、夢にやぶれて、
悲しさや、悔しさが、やるせなさが、募り、
あの変な発言や、変な行動に、
現れていたのだと、
そう思った、多分そうだろう。
夢って悲しいよな。
あのオーディションで、僕の歌声を、
「良い」と言ってくれたのは、
音楽に対してだけは正直でいようという、
彼女の姿勢だったのかもしれない。

ライブ前日に校舎内のあらゆる壁に、
ゲリラ的にライブ告知の張り紙を、
貼りまくったからだろうか、ライブは満席。
校歌をパンクverにして歌ってみたり、
客席にダイブしてみたり、唾を吐いたり。
ギターを地面に叩きつけて壊したり、
ライブは大盛り上がりだった、
客席の一番奥で、世界史の教師が腕組みして。
微笑んでいたのが印象に残った。

ボブディランはこう歌っている、
「生きることは悲しいよ、生きることは騒ぎだよ」

そう生きることは簡単じゃないし、
夢って悲しいものなんだ、多分。
今では僕もたまに思うんだ、
やっぱり人間は 、
死ぬために生きてるんじゃないか?と。
あの日の授業で、先生が言った意味とは、
先生もあの頃、死にたかったのかもしれない。
なんてことも考える。
それでも生きるために生きなきゃダメだ。
僕は生きるということに命を賭けてみたい。
先生、今でも音楽を、
愛していますか?

笠原メイ(2020/01/12)

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