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僕と志磨遼平のビューティフルな夜~the dresscodes TOUR2023「散花奏奏」at 大阪BIGCAT~

 10月22日、日曜日、17時。心斎橋にドレスコーズのライブを観に行った。まずは一言、最高でした。ありがとう志磨さん。また会いに行くよ。

 今年足を運んだライブはいくつもあるけれど、個人的にはこの日のドレスコーズが2023年のベストパフォーマンスだ。その証拠に僕は、丸裸にされた脳みそを彼らに差し出して、どうぞここに素敵な音楽を余すことなく詰め込んでくださいと懇願していたのだから。
 と、余韻が心地良いあまり気色の悪い表現を用いてしまったが、要するに今年観たなかで最も心奪われた最高のライブだったと言いたいのだ。
 志磨遼平も、バンドメンバーも、ステージも、鳴り響く音楽も、観客も、全てがこの世の出来事とは思えないほどにきらきらと輝いていた。何日経っても、あの景色はペテン師・志磨遼平に見せられた幻だったんじゃないかと疑ってしまう。きっと、みんなが同じ時間に同じ夢を見ていたのだ。そう錯覚するほど、奇跡みたいな夜だった。

 現在の僕は、溢れんばかり感動が発散できないまま体内に蓄積された状態にある。一人で参加したため、誰かと感想を語らい合うこともできず仕舞いだ。どうにかしてこのモヤモヤを解消しなければいずれは私生活にも差し支えるだろう。そこで、久しぶりに文章を認めて束の間の気休めを得ようと思う。もうツアーは終わったということで、セトリのネタバレも随所に散りばめていくので悪しからず。

◆志磨遼平、登場。

 17時を5分ほど回った頃、バンドメンバーから少し遅れて、聖職者のような衣装に身を包んだ志磨遼平が登場した。神々しいだなんて月並みな言葉で形容することが憚られるほど圧倒的な存在感。あのまま1曲も歌わずにしばらく立ち尽くした挙句、そのまま颯爽と立ち去られていたとしても満足できたと思う。そんな彼が歌って動くなんて、いくらなんでも贅沢すぎる。ちなみに、正面を蹴り上げるようなあの動きが個人的にはお気に入りだ。(見たことのある人には伝わるはず)
 そんな魅力的なステージングの数々を眺めていると、以前どこかで彼が「その人が立っているだけで成立するような存在を目指している」的なニュアンスのことを言っていたことを思い出し、溜息が漏れる。志磨さん、アンタもうとっくにそれになってるよ。これよりも上があるってんなら、来年のツアーで見せてくれよな。

◆良いにもほどがあるセトリ

 楽曲は『式日散花』の収録曲を中心に、対となる『戀愛大全』から数曲、1stアルバムから2曲ほど(たしか「Lolita」と「レモンツリー」だったはず)と、2ndアルバム『バンド・デシネ』からも2曲(「ハーベスト」と「Silly Song,Million Lights」。白状すると、この2曲の名前がどうしても思い出せなかった。公式がセトリを公開したことでようやくはっきりしたので、コッソリ追記。)が演奏された。
 とくに今作はリリース日からたくさん聴き込んで思い入れも深まっていたので、毎回1音目で反応して恥ずかしげもなくバンザイしてしまった。「少年セゾン」の陽気な掛け声も、「襲撃」のいかしたイントロも、「罪罪」で志磨遼平が撒いた花びらも、なにもかもが最高だ。
 MCでも触れられていたが、『式日散花』のテーマは“別れ”らしい。そう言われればたしかに全体を通してうっすらと悲壮感の漂うアルバムだ。思わず「もしやドレスコーズとも近々お別れすることになってしまうのでは」なんて縁起でもないことを考えてしまいそうになる。しかし、ライブで演奏された本作の収録曲たちからはスタジオ音源とは違って、別れの悲しみを振り払って前に進もうとする力強さが感じられた。
 もちろんいつかは志磨遼平にさよならを言わなければならない日が来るのだろうけど、こんなライブをやってくれるのならまだしばらくは大丈夫そうだな、ととりあえずは信じることにする。
 そういえば、「メルシー、メルシー」と「在東京少年」が聴けなかったな。てっきり全曲聴けるものだとばかり思っていたので、少し残念だ。

 それと、前作からの演奏曲が好きなものばかりだったのが個人的には非常に嬉しい。ろくでもない自分だって人と愛し合っていいんだと思わせてくれる「聖者」。自分は志磨遼平と幼馴染だったのかと錯覚してしまう「やりすぎた天使」。あの曲、鍵盤から始まるイントロのアレンジがたまらないんだよな。個人的に味園ユニバースのライブ盤バージョンが好きで聴きまくっていたから、曲が始まった瞬間の高揚はいつまでも忘れないと思う。

 そして観客のボルテージが最高潮に達したのは、毛皮のマリーズ時代の大名曲「コミック・ジェネレイション」からの「ビューティフル」の流れだろう。ドラムが「だんだんだだだん」と鳴らした瞬間の歓声、「私は人生複雑骨折」と歌い始めた瞬間の拍手喝采。新曲もいいけど、結局昔の曲が流れると喜んじゃうよね。僕は基本的に、一人で黙々と音楽を聴き込むのが好きなのだけれど、たまにはこうして音楽とその空間を共有するのも悪くない。
 とくにビューティフルは今年再燃して聴きまくっていた曲のひとつだったので、歌い始めた瞬間無意識のうちに両手で口を覆っていた。あの時の僕、絵に描いたような限界オタクだったんだろうな。
 自分も含めて観客全員が大声で歌いすぎていて、志磨さんの声が聞こえづらかったけど、そんなことどうでもよくなるくらい幸せな時間だった。この曲はいつだって僕たちの人生を美しいと言ってくれる。僕は友達もそれほど多くないし、未だに仕事でミスをして周囲に迷惑をかけてしまうし、総合的に見ても冴えないタイプの男だけれど、生きがいにしている音楽や小説・漫画がたくさんあって、この日もこうしてドレスコーズのビューティフルなパフォーマンスを全身に浴びている。どうせ歳をとって死ぬのなら、自分の人生の中に美しいものをいくつも見出しながら生きていく方がよっぽどいい。「ビューティフル」はそんな、当たり前だけれど案外難しい思考に僕たちを導いてくれる。

 終演を飾った楽曲は「愛に気をつけてね」。直前に披露された「最低なともだち」の感傷に浸る間もなく、気づけば中指を突き立てていた。今回の志磨遼平は衣装や照明も相まってどことなく荘厳なオーラがあったけれど、観客を挑発するような表情や仕草を見ていると、結局彼はどこまでいってもロックミュージシャンで、僕たちのスターで、昔から変わらず志磨遼平なんだと思い知らされた。年齢に応じて良い具合の歳のとりかたを見せるのもひとつの美しさだが、いつまでもぎらぎらと輝き、夢を見せ続けてくれる彼もまた美しい。

 思い出したものから順にだらだらと書いていったが、こうして振り返るとめちゃくちゃいいセトリだったな。もしこれを読んでいる方で順番を完璧に記憶している方がしらっしゃいましたら、コッソリ僕にだけ教えてください。
(追記 : 公式が教えてくれましたね。サンキュー志磨さん。)

◆総括

 noteでライブについて語る記事を書いていると、毎度こうして“総括”とかいう驕り高ぶった小見出しをつけてしまう。そして搾りかすのような駄文をひっつけて記事を締め括ることになるのだ。
 そんな御託はさておき、本当に良いライブだった。今回は急遽行くことを決めてチケットをとったのだけど、次は余裕をもって応募して、もう少し良い整番を狙いたいところだ。

 ところで、僕は2023年のテーマとして、“音楽を体験として楽しむ”というのを個人的に掲げている。先述したように僕にとっての音楽は基本的に一人で黙々と楽しむものだった。たしか志磨遼平も似たようなことを言っていた気がする。(たぶん影響受けてますねこれ)
 そんな価値観を最も揺さぶってきたのは間違いなく今回のライブだろう。生演奏だからこそのアレンジやアーティストの立ち振る舞い、照明などはこれまで観に行ったライブでも十分に楽しむことができたが、言ってしまえばそれらはライブ盤やDVDなどでもある程度摂取できる要素だし、ある意味ミュージシャンと僕が一対一で向き合っている状態ともいえる。しかし今回は、“音楽と空間を共有する”楽しさを大いに実感したライブだった。みんなで一緒に声を出して、歌って、手を挙げて。こうした誰かがいないとできないことこそが生でライブを見ることの意義のひとつなのだろう。すごく単純なことだけれど、そんなことを再認識した。

 最後にドレスコーズ並びにその関係者の皆様、ツアーお疲れ様でした。素晴らしい時間をありがとうございます。必ずまた行きます。
 そして志磨遼平さん、愛してます。

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