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行動モデルに沿った意志力に頼らない良い習慣の作り方

こんにちは、Wantedlyでデータサイエンティストをしているひぐ(@zerebom_3)と申します。

1年ほど前に、社内の先輩(@potsbo)との1on1で、"仕事ができるようになりたくて高い目標(ex. 業務外で毎週X時間勉強する)を建てるが、結局続かず、能力も伸びない。自己肯定感も下がってしまう。どうしたら良いか。😭"と相談しました。

そのとき、”意志力に頼らず、仕組みを使って習慣をコントロールできると成果を上げられるようになるよ"とアドバイスをいただき、隔週で自分の習慣の作り方についてレクチャーしてもらいました。

その結果、仕事・業務外でもアウトプットの量を増やし、能力を身につけられたと感じています。例えば、業務外においては、2023/01 ~ 07の7ヶ月で下記のようなインプット・アウトプットができました。

Zennへの記事執筆7本
外部登壇2本
- Kaggle 銀メダル取得
- ChatGPTを使ったOSS2つ(pdf要約アプリ, issueコメント要約アプリ)公開
- 読書11冊

過去の自分より成果を出せたことを受けて、レクチャーしてもらった意志力に頼らず、仕組みを使って習慣をコントロールできる方法はとても役立つと感じました。なので、本記事ではそれらについて紹介します。

なお、筆者は行動心理学等の専門ではなく、この記事の内容は経験や1on1、書籍に基づいたものであるため、なにか語弊のある表現や誤りがあった場合はコメントいただけると嬉しいです🙏



習慣の原理を説明する行動モデル

Fogg Behavior Model(B = MAP)

まず最初に習慣を身につける上で非常に重要な示唆を得られる、Fogg Behavior Model(FBM)に紹介します。

FBM はStanford大学のB.J. Fogg教授によって提唱された行動モデルで、人がある行動をするかどうかをモデル化したものです。

FBMでは行動(B = Behavior)が起こるためには3つの要素が同時に存在する必要があると提案しています。

  1. 動機(Motivation):行動をとる意欲や欲求。

  2. 能力(Ability):行動をとるスキルや資源。

  3. プロンプト(Prompt):行動を開始するための刺激やきっかけ。

FBM で提案されているB = MAPの式は、下記の図のように、人間が行動を起こすかどうかは、"MotivationとAbilityで反比例するAction Line"を超えるタイミングでPrompt(きっかけ)が与えられるかで決まるということを表しています。

B = MAP


この図は下記のように、Motivationが高くても、Abilityが低ければAction Lineを割るので実行されず、逆にMotivationが低くても、Abilityが高ければ実行される、ということを表しています。

B=MAPの実例

また、B=MAPを理解する上で重要なのは、下記の性質です。

  • Motivationは時間経過で勝手に低下する

  • Motivationは気分や環境などにより日によって変化する

  • Abilityは同じ習慣を繰り返すことで高くなる

B=MAPの性質

このような性質を持つため、いきなりハードな習慣を毎日続けることはできないです。(開始以降、Motivationが低下しAction Lineを割る)

習慣を続ける際は、Abilityを非常に高くし(=タスクを簡単にする)、Motivationに左右されず続けられるようになってから、だんだん難しくするという方針が基本になります。

上記方針に従って習慣を使って能力を身につける場合、その成果は線形でなく、指数関数的に得られるというイメージをもつと良いでしょう。

成果量のイメージ


きっかけ → ルーチン → 報酬のループ

次に習慣を構成する要素のきっかけ・ルーチン・報酬とそのループについて紹介します。

そもそも習慣とは、脳のエネルギーを節約するための効率的な仕組みとして発展してきました。脳は日常的な行動を自動化することで、新しい情報や複雑な判断を必要とするタスクに集中する能力を向上させています。

人間は、必要な習慣だけを効率的に利用できるように、きっかけ・ルーチン・報酬の3つの要素をもとに、いつ、どんな習慣を発動するべきかを取捨選択しています。それぞれの役割と効果は下記のとおりです。

  1. きっかけ:日常の情報や刺激から行動の開始信号を検出し、特定の状況や感情で行動を始めるように脳に指示する。

  2. ルーチン:特定のきっかけと関連付けられた行動が自動的に行われる。これは脳が行動を効率的にするための仕組みで、繰り返し行動することで脳の神経回路が強化される。

  3. 報酬:行動後の報酬は、その行動が価値があると脳に示す。報酬を得ることで、その行動が再度行われる可能性が高まる(このプロセスにはドーパミンが関与)

報酬をより際立たせて、習慣のループを強固にし、よりヒットするようになった商品は数々あります。

  • 歯磨き粉 →スースーすることで、歯を磨いたという感覚を強化

  • ファブリーズ → 香料を加えることで部屋をきれいにしたという感覚を強化

  • シャンプー → 泡立たせることできれいになったという感覚を強化

自身の習慣がどんな、きっかけ、ルーチン・報酬をもっているかを自覚し、どこにどんな修正するか?と考えるとより習慣の改善に対する解像度・正確性が上がると思います。

良い習慣と悪い習慣の例


また、B =MAPと結びつけると、習慣の報酬を明確にすることでMotivationが向上、 きっかけを明確にすることでPromptの与えられる頻度やタイミングが最適になると言えそうです。

KeyStone Habit

KeyStone Habitとは、個人や組織の他の習慣や行動にポジティブな影響を与える、特定の中心的な習慣のことです。KeyStone Habitには下記のようなものを指します。

  1. 変革の起点となる: 他の多くの習慣に影響を与える中心的な役割を果たす。採用することで、生活の多くの側面が自然と良い方向へと変化させる。

  2. 連鎖反応をもつ: この習慣を確立することで、他の習慣や行動も改善される連鎖反応が生じさせる。

平たく言うとKeyStone Habitとは、”ある良い習慣の終了が次の良い習慣のきっかけとなりチェーンしてできる大きな習慣”の最初のものと言えます。

KeyStone Habitの典型的例には下記のようなものが挙げられます。

  1. 定期的な運動: 体を動かす習慣は、健康、気分、生産性を向上させるだけでなく、食習慣やストレスの管理にも良い影響を与える。

  2. 日記を書く: 毎日の出来事や感じたことを書き留めることで、自己反省の機会が増え、目標に対する意識が鮮明になる。


自分の中のKeyStone Habitを作り、それを磨くことでより効率的によい習慣を身につけることができます。

行動モデルを用いた自身の取り組み

上記のように、B = MAPの各要素や、きっかけ・ルーチン・報酬のどこかに手を加えることで、良い習慣を得られると考え、いくつか自身の取り組みを
変えてみました。

習慣の負荷を極端に下げ、頻度を上げる(Ability向上)

Fogg Behavior Modelの章で紹介したように、あらゆる習慣を始める際は続けることを最重要項目とし、小さく始めることにしました。例えば下記のとおりです。

  • Kaggleを続けたい → 毎日コンペのサイトを開く

  • 日記をつけたい → 毎日1~5段階評価で点数だけつける

  • 筋トレを続けたい → Youtubeで筋トレ動画のURLを開く

このように小さく始めることで、Abilityを上げてMotivationに左右されず続けることができました。またどんなに小さく始めても、なんだかんだ作業興奮が発生し、作業を続けるので、日々の実際の作業量は明記したものより多かったです。

また明日もやりたい、と思えるように、作業やルーチンはもうチョットやりたいくらいで切り上げるのも効果がありました。

習慣の具体度を上げる(promptの明確化, Ability向上)

習慣を続けるために、自分は習慣の具体度を上げることで、Promptを明確にし、Abilityを向上させました。具体的に下記の通りです。

  • 筋トレを週3でやる → 月・水・土は退勤直後 or 入浴直前にYoutubeで筋トレの動画を再生する

  • Twitterで情報発信する→ 9:00 ~ 就業前にNotionのDBに入れていた記事を閲覧し、感想を述べる

いつどんな動作をするかを明確にすることで、習慣までの意思決定を減らせるので、簡単に実現できるようになっています。

習慣の結果として見える高い目標を置く(Motivation向上)

目標を置くことで、習慣達成に対するMotivationやその効果を最大化しようとしました。そもそも仕事をうまく進めるために習慣力を強化したかったので、それが達成されたかがわかるような目標にしています。

自分は2023年は下記のような目標を置きました。

  • O: DSとしてプレゼンス向上

    • KR: 年3回以上登壇

    • KR: Twitterのフォロワー を2倍にする ↑2,000

  • O: ハードスキル向上

    • KR: ブログ発信 12件

    • KR: 本を読む 12冊

    • KR: Kaggle Master

  • O: 上記のObjectiveを仕事に活かす

    • KR: 樋口面談経由の内定者をだす

    • KR: 施策4回成功

目標の置き方、というのはそれだけで1冊の書籍が書けるようなテーマですが、自分は特に下記のことを意識して置きました。

  • 必死に頑張っても成功率40~60%くらいの高い目標にする

  • 習慣と結びつく行動指標(ブログn本)とその効果を示す結果指標(フォロワー数xxx人)をそれぞれ置く

  • アクションと必要量が明確な定量的な目標を置く(登壇n本)

詳しくは下記の書籍に載っています。人間は1日にできることを過大評価し、長期的にできることを過小評価する傾向にあるらしいので大きな目標を立てると良いとおもいます👍

目標と習慣を他者に報告・管理してもらう(Motivation向上)

これはよく聞く手法ですが、自分の目標と習慣を人に管理してもらいました。@potsboさんとの隔週の1on1では習慣が続いているか、技術顧問との1on1では目標がどれだけ近づいているか報告しました。

人に宣言してそれが達成できないと、有言不実行になり恥ずかしいという気持ちがあるので、習慣を続けるというMotivationが向上しました。

また、決まったタイミングで習慣を見直すきっかけを生めること、また目標や達成に近づいてない場合どうしたら良いのか、とそのまま相談できたので良かったです。

技術顧問との1on1のメモ
@potsboさんとの1on1のメモ

悪い習慣に取り組むのを難しくする(Ability低下)

自分にはつい長時間Twitterやスプラトゥーンをしてしまう、という悪い習慣があったので、これを難しくするようにしました。例えば下記の通りです。

  • スマホでSNSを見てしまう

    • アプリを消してPCだけから開くようにする

    • Chromeのサイトブロック拡張機能を入れる

    • Passwordを50桁にして、毎回ログアウトする

    • 二段認証をONにしてログインをめんどくさくする

    • スマホのスクリーンタイムをonに一定時間で見れなくする

    • 充電器を仕事机でなく視界に入らないところに置く

  • スプラトゥーン

    • セットしたタイマーになるまで開かない箱を買い、そこにコントローラーを入れる

    • 見守りモードをオンにして時間が経ったらできないようにする

すごくたくさんのルールを作っていたのですが、魔力に負けてついやってしまうこともありました。。。次の習慣を見直す習慣で、ルールや仕組みの見直しをすることである程度回避していました。

無意識的なものを含め、自身の習慣をすべて言語化する(きっかけ → ルーチン → 報酬の見直し)

完全に習慣化しているものは、実は自分は意識していないことも多いです。

先の章では習慣は、"きっかけ → ルーチン → 報酬"の3要素で成り立っていると紹介しましたが、この無意識な習慣を含めすべて言語化すると、自身の習慣がどこに改善点があるかを洗い出すことができます

自分は下記のように一日の習慣を細かいこと含めすべて書き出して、どこが改善できるかを確認しました。

習慣の例

習慣を見直す習慣の設定(KeyStone Habit, 習慣の質向上)

毎週土曜日に自分の習慣はうまくいっているのか?を確認するための習慣を作っていました。

毎週やっていたタスクや、その週の気分やKPTなどをまとめていました。いわゆるKeyStone Habitになっていたかなと思います。

Notionテンプレートの例

ちなみにNotionのタスク管理テンプレートは下記の動画を参考にしました。

習慣を身につける上でのメンタリティ

最後に習慣を身につける上で、自分が意識したメンタリティについて紹介します。
下記で紹介する考え方は、習慣を身につけるためにも、そもそもなぜ習慣を身につけるのか?といった前提をブラさないためにも重要だったと感じています。

達成できなかったときは意思力を責めず、仕組みを疑う

自分はこれまで悪い習慣(ex. SNSを見続ける、際限なくゲームをする)をしたとき、なんて自分は駄目なんだ。。。と自身の気質や意志力を責めてしまっていたのですが、これを辞めました

人間は生来的に変化を恐れるので、悪い習慣を続けているとそれを無意識的に選び続けてしまいます。また、悪い習慣を続けている自分をアイデンティティと認識して、それを守ろうとするのです。このような現象をセルフサボタージュと呼びます。

セルフサボタージュ(自己破壊行動)とは、自分で自分がやりたい事をできないようにしたり、可能性をつぶすような行動や思考パターンの事をいいます。

これは受け入れがたい状況や危険が迫ったときに、自分自身を守るための「防御」のメカニズムです。

わたし達は「知っている事」や「いつものパターン」を快適に感じます。

自分の中の「安全地帯」を越えようとしたときに、不安や恐怖や不快を感じて、元の安全地帯に戻ろうとする力が働きます。

もちろんその結果、「危険」や「恐怖」から守られることもあります。

でも、それが「夢」や「成功」にも働くとセルフサボタージュとなってしまうのです。

https://oluolu.blue/self-sabotage/

自分を責める考えは負のアイデンティティを増強させ、セルフサボタージュを起こしてしまいます。

自責の念をやめ、行動モデルのどこに原因があったのか?と仕組みに意識を向けることで、セルフサボタージュを防ぎ、習慣を修正することができます

習慣を実行する実行者の人格と、実行者が心地よく習慣を取り組んでもらうための習慣の計画者の人格を明確に分けると良いかも知れないです。

完璧を追い求めない

FBMで説明したように、行動に必要なモチベーション等は、環境や突発的な予定などコントロール不可能な要素によって左右される可能性があるので、習慣を身につける上では完璧を追い求めないようにしました。

これは上記の自責の念を減らすためにも重要です。

まとめ

行動モデルに沿った意志力に頼らない良い習慣の作り方に付いて紹介しました。これだけ色々考えても、ついサボってしまうこともありますが、まあ気楽に続けたいです。

なるべくしんどくならずに成果を出し、目標達成するためのTipsなので、これらのルールに縛られて逆にプレッシャーに潰されたり、タスク消化自体が人生の目的化、にならないように適度に取り入れるのが重要だと思います。

また、意志力に頼らないことをテーマにしましたが、どういう習慣を作るべきか、とか目標をどう置くか、を考えるのにはどうしても意志力が必要になってきます。そのような重要なタスクのために、有限のリソースである意志力を割り振り、実行はなるべく習慣で省エネ化している、とも言えそうだなと思いました

参考文献

この記事を書く上で非常に参考になった他の記事・書籍を紹介します。


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