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文科省英語力調査は鵜呑みにできない!?

日本の英語教育は、近年大幅にテコ入れがされています。その結果、日本の中高生の英語力は調査によると大いに向上しています。また、優れた成果を上げている自治体とそうではない自治体があるとも指摘されています。しかし、本当に英語力が向上しているのでしょうか。自治体格差はそれほどでしょうか。少し批判的な立場から、文科省の英語力調査を捉え直してみます。


調査では中高生の英語力は向上傾向

文科省は毎年、英語教育実施状況調査を行っています。その調査の中には、子どもたちの英語力の調査項目があります。国は中学生は卒業時英検3級、高校生は卒業時英検準2級が60%となることを目標に掲げて調査を実施しています。

令和5年度実施調査では、中3で英検3級相当以上の英語力を身につけた生徒は50.0%、高3で英検準2級相当以上の英語力を身につけた生徒の割合は50.6%となっています。近年、子どもたちの英語力は上昇傾向であり、中学生では、44.0%(R1)、47.0%(R3)、49.2%(R4)という結果になっています。また、高校生でも、43.6%(R1)、46.1%(R3)、48.7%(R4)と向上してきています。

英語力の調査方法

では、子どもたちの英語力はどのように測定されて報告されているのでしょうか。英語教育実施状況調査では、主に以下の項目を教員が報告しています。

中学生

  1. CEFR A1レベル相当以上を取得している生徒の割合

  2. CEFR A1レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒の割合

高校生

  1. CEFR A2レベル相当以上を取得している 生徒の割合

  2. CEFR A2レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒の割合

  3. CEFR B1レベル相当以上を取得している生徒の割合

  4. CEFR B1レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒の割合

『有すると思われる生徒の割合』という不可思議な表現が使われているのは理由があります。この項目は検定試験など公的な記録をもたない生徒も英語力が国の水準を満たすものとして調査にカウントしているからです。以下に、調査方法の注釈を引用します。

※「CEFR A1レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒」とは、実際に外部検定試験の級、スコア等を取得していないが、2技能または3技能を測る試験におけるスコア、公式な記録としては認定されない試験のスコア、CAN-DOリストに基づくパフォーマンステストの結果、各教育委員会でモデル校での検証に基づいて定めた目安等により、それに相当する英語力を有し ていると英語担当教師が判断する生徒を指す。

※「CEFR A2/B1レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒」とは、実際に外部検定試験の級、スコア等を取得していないが、2技能または3技能を測る試験におけるスコア、公式な記録としては認定されない試験のスコア、CAN-DOリストに基づくパフォーマンステストの結果、各教育委員会でモデル校での検証に基づいて定めた目安等により、それに相当する英語力を有していると英語担当教師が判断する生徒を指す。

令和5年度「英語教育実施状況調査」概要

つまり、客観的な指標ではなく、教員の主観としての判断で回答する項目というわけです。これは国の調査としては明らかに方法に問題があると思われても仕方ありません。実際に、自治体ごとの英語力の差から、調査に対する疑念がさらに出ています。

英語力全国最低は宮城県!?

宮城県では、国が求める英語力の水準(英検準2級)を達成した高3の割合が、39.6%と全国で最低でした。宮城県の高3の英語力はなぜ全国最低なのでしょうか。宮城の教育が劣っているからでしょうか?そうとも限りません。

実は宮城県より英語力が低い自治体もある

令和5年度「英語教育実施状況調査」概要

上記は、英語教育実施状況調査の高校生での自治体ごとの調査結果です。青で塗りつぶされている部分は客観的なスコアによる報告です。青の斜線で示されている部分は主観的な報告です。5つの赤枠は筆者によるものです。

客観的な指標のみでは、宮城県より劣っている自治体が他にもあることが分かります。つまり、秋田県や愛知県、山口県などです。しかし『CEFR A2レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒の割合』を加えると、結果は逆転しています。主観的な報告で、いわば数がかさ増しされているからです。

主観を調査報告に含める危険性

当然のことですが、主観的な報告では、公平性・客観性は保てません。また、国は英語力向上に躍起になっており、自治体ごとの結果も公表されるため、悪い結果を出すことは不名誉なことになります。すると、県教委から現場の管理職へ、管理職から調査報告をする英語教員へ、と圧力がかかることにもなります。そのような点が実際に筆者の身近では起きています(管理職が前年度より良い結果になるように報告を修正する、など)。このような結果が用意に歪められてしまう方法は、大いに問題でしょう。また、教員の主観を自治体間の比較としては採用するのは、不適切でしょう。

まとめ

文科省の英語教育実施状況調査の結果と、その手法の不適切な点、そして、実際にその手法によって起きている問題を紹介しました。この調査は、手法の問題点から、鵜呑みにするべきではないというのが私の見解です。皆さんはどう考えますか。

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