【ESAT-J 模範解答考察】この状況で鳥に対してsitは使えるのか?
東京都では、2022年11月27日(日)に中学校英語スピーキングテストが実施されました。公開された問題には、言語テストとしては致命的な誤りがあり批判されています。さらに、模範解答にも疑義が指摘されています。ここでは、Part C の4コマ描写問題での『鳥が帽子に止まる』に関して考察します。
結論としては、この問題状況では模範解答に示されているsat(sitの過去形)を使って表現するのは不適切だと分かりました。以下でその理由を述べます。
該当のESAT-Jの問題
4コマで描かれた状況を英語で表現する問題です。問題の箇所は3コマ目の鳥が主人公の帽子に止まる場面です。この状況を英語で表現するにはどんな表現を使ったら良いのでしょうか?なかなかすぐには英語が出てこない方も多いと思います。
該当のESAT-Jの問題の模範解答
こちらが模範解答になっています。3コマ目の鳥の動作は以下のように説明されています。
これに対して、sitは適切なのかとの疑いが生じています。sitは中学生にとって教室英語では馴染みのある表現であるのは確かです。しかし、英語と日本語では、表面的には同じ意味が当てられていても、使える場面が異なることが多々あります。例えば、『見る=look』と機械的に訳すと、場面や状況にはそぐわない英語になることがあります。『見る』と言っても、視線を向けるという動作にはlookが使えます。しかし、テレビなどをじっと見るのはwatchです。自然と視界に入ってくるならseeです。機械翻訳を使って安易に日本語を直接英訳すると失敗するのは、こういう理由のためです。
sitは腰を落として体重を身体で支える状況
では、鳥が止まったのをsitで表現することは可能なのでしょうか?まず、私が実際に母語話者に尋ねた結果は、Noでした。
なぜなら、sitは腰を下ろす動作を表す表現だからです。このイラストでは、鳥は腰を下ろすというよりは、足で帽子の上に立って止まっています。この状況を英語でどう表現するかを尋ねたところ、land(着地する) や rest(休む) がまず彼から出てきました。さらに、質問をすると、perch(羽を休める) も可能との解答が得られました。ただし、難しい表現なので、perchをそもそも知らない母語話者すらいるそうです。
もう一つの根拠としては、English Language Learnersというサイトでのイギリス英語を母語とする話者の説明*3です。以下に引用します。
ここでは、『もし足を折り曲げていて身体によって体重が支えられているなら、sitしているといえる。足で体重が支えられているならstandと言える。人間に対して表現するのと同じことだ』と簡潔な説明がされています。
実際に、Google 画像検索で" birds are sitting" に対してヒットする画像を見ると、以下のような画像が見つかります。確かに、身体で体重を支えているような状況になっていますね。
この鳥は足だけで帽子に止まるためsitではない
もう一度該当の問題を見てみましょう。以上の説明を踏まえて鳥の動作はsitがふさわしいかどうか、お考えください。自ずと、答えは出てくるかと思います。
まとめ
東京都が実施した中学校英語スピーキングテストの模範解答を考察しました。結論としては、sat(sitの過去形) は不適切であることが分かりました。どうしてこうなってしまったのでしょう。テストの作問者に、英語ができる方はいなかったのでしょうか。非常に遺憾です。
引用文献
*1 中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J) 令和4年度 問題
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/esat-j/r4_script.pdf
*2 中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J) 令和4年度 解答例
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/esat-j/r4_kaitourei.pdf
*3 English Language Learners When do we say "the bird is standing/landing/sitting"?
https://ell.stackexchange.com/questions/269837/when-do-we-say-the-bird-is-standing-landing-sitting
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