見出し画像

様々な国の教育制度

日本の公教育では、国が教科書を検定し、教育委員会が採択し、教員に教科書使用義務があります。しかし、そのような制度をもたない国もあります。二宮 皓 (監修)『こんなに違う!世界の国語教科書』などを参考に、世界の国々の教育制度の特徴をまとめてみました。


アメリカ

やはり自由の国だからでしょうか。教科書の制度が日本と大きく異なります。教科書は各出版社が自由に発行し、州が審査して採択リストを作成します。学区の教育委員会がリストから教科書を選び、学校が購入します。学校は教科書を子どもに貸し出し、年度が終わると回収します。教科書は何年間も使われるため、分厚いハードカバーでできており値段も高いです。教科書に落書きなどしたら、子どもは弁償することになるほどです。

州ごとに教育行政が働き自治されており、教育の目的方法制度などが異なります。そのため、州ごとに教える内容が異なることすらあります。例えば、進化論を教えずに創世神話を教えるなど、独自の教育が行われる事が特徴です。

イギリス

検定制度はなく、教科書は自由発行、自由採択になっています。さらに、教員も複数あるものから自由に教科書を選ぶことができます。複数の教科書を使い分けたり組み合わせたりすることもでき、授業での使用は教師の裁量や力量によるところが大きいです。教室に置かれた教科書を授業で子どもに貸し出すため、子どもは教科書を持ち帰ることはありません。

フランス

出版社が自由に発行し、学校が自由に選択し、さらに教員の教科書使用も自由です。教員には教育方法の自由が保障され、教科書を使うか否かすら、選ぶことができることがフランスの教育制度の特徴です。教科書がない教科すらあるということが驚きです。例えば、音楽美術体育などは、小中学校の教科書がそもそも存在しません。

フランスは移民国家のため、入学段階で皆フランス語を流ちょうに話せるという前提が成り立たない国です。そのため、フランス語の習得を目指す内容の授業があります。日本でいうところの、英語の授業で文法や表現を学ぶような内容を、フランス語の習得目的で行っています。

教科書は分厚いものの、子どもは教科書を持ち帰ることが必要で、教科書の重さは日本と同様に問題になっているそうです。また、フランスは世界一進級が厳しく、小学一年生でも落第することがあります。

ドイツ

州ごとに教育が行われています。上記で紹介した欧米やヨーロッパの国々とは異なり、各州の文部省が独自の学習指導要領を定めて、教科書検定を行います。ドイツは教科書検定を実施している数少ない国なのです。そのため教科書会社は検定に合格するよう工夫を凝らして教科書を発行しています。

珍しい制度も残っています。生徒の能力や適性に応じて、中学校段階から3つの学校に進学先が分かれます。その3つは、基幹学校(5年制)、実科学校(6年制)、ギムナジウム(8年制)です。基幹学校(5年制)と実科学校(6年制)に進学した生徒は、その後職業訓練のための専門学校に進学し、職人や美容師、銀行マン、営業マン、事務職などの職に就くことになります。ギムナジウムに進学した生徒のみ、大学進学のための資格が得られます。ドイツは4年生の段階で将来の進路を決めることになるというのだから驚きです。

フィンランド

日本が何かとその教育を理想の形として参考にしているのがフィンランドです。フィンランドでは、教育省が独自の学習指導要領を定めています。しかし、教科書検定制度はないようです。この国では、読解力、読書を楽しむこと、ITに関する教育などが重視されています。そして、就学前から大学院まで授業料を徴収しないことが特徴です。学習支援や補習、9年間の義務教育の間での留年制度などで、落ちこぼれを出さないことを目指しています。

ほとんどの大学生が修士号を取得し、教員の最低条件は修士号です。、1人一台のタブレット端末の整備、ウェルビーイングへの配慮、プログラミング教育、学校で 学んだ知識と能力を日常生活に適用する理念なども特徴です。つまり、日本が近年取り入れてきた教育政策は、フィンランドを真似していることが分かります。

中国

中国の義務教育では国語が重視されています。国語の授業は外国語や数学の2倍近くの授業数があります。また、大学入試では、作文が必修で課されています。科挙の影響でしょうか。中国では1980年代半ばまで、教科書は国定制で一種類のみでした。しかし、それ以降は検定制に移行し、現在は各地域用に様々な教科書が編纂されるようになっています。

韓国

韓国では長らく教科書は国定制で一種類のみでした。2006年に国定制から検定制への変更が発表され、2023年時点で少しずつ検定制に移行しています。アジアで最も英語力の高い国を目指しており、大学卒業時にはTOEICの受験が必須です。また、大企業に入社するには満点に近いTOEICのスコアが求められるほどの英語重視です。これは英語偏重主義と言われるほどで、小学校3年生から英語教育が始まるのが特徴です。韓国では教育にかかる予算はとても高額で、一般家庭では収入の3分の1が教育予算につぎ込まれているほどだそうです。

まとめ

アジアでは国の関与が強く教科書検定制度による質の担保が目指される一方、欧米では出版社の自由な教科書と学校の教科書選択の自由が特徴のようです。

毎年新しい教科書、教科書の持ち帰り、学習指導要領、など日本では当たり前のことは、実は海外に目を向けてみると決して一般的ではないようです。

引用文献

文科省資料 表2 諸外国における教科書制度の概要
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/04060901/20210810-mxt_kouhou02-8.pdf

フィンランド教育概要https://www.oph.fi/sites/default/files/documents/151277_education_in_finland_japanese_2013.pdf

フィンランドの教育、日本の教育(岩竹美加子)
https://rci.nanzan-u.ac.jp/europe/ja/journal/item/01_%E5%B2%A9%E7%AB%B9%E7%BE%8E%E5%8A%A0%E5%AD%90.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?