【インタビュー記事 : 後編】 「安心な豆腐を届けたい」を貫くお豆腐屋さんのお話し
2021年11月、鳥取県大山町にて「豆腐屋 葉月」を始めたられた森田さん。不思議なご縁から、森田さんと知り合うことになり、その豆腐作りについてお話を聞く機会を頂戴しました。
前篇「豆腐屋さんを始めた想い」に続きまして、今回は後編「想いに真っすぐな豆腐作り」についてお届けします。
※前編はこちら
――前回は、豆腐屋さんを始められるまでの経緯をお聞きしました。今回は、森田さんがおっしゃられる「家族に安心して食べさせられる豆腐作り」について伺っていきたいと思います。ずばり「安心な豆腐作り」のために欠かせないことは何でしょうか。
豆腐というのはとてもシンプルで、「大豆」「水」「にがり」の3つから作られます。ゆえに、この3つの原料を、可能な限り「得体の分かるもの」で作ることが「安心」を謳う上で重要だと思います。
――ではまず「大豆」について、どのようなものを使われてるか教えて下さい。
葉月で扱う大豆には2つの特徴があります。
1つは、鳥取県大山の山裾で、必要最小限な農薬に絞って育てられた大豆を直接買い入れている点。
現状、国内に流通する大豆の大半は「海外産」のもの。そのうちの8割は「遺伝子組み換え大豆」とも言われており、また長い海上輸送に耐えるための「ポストハーベスト農薬」の問題も考えれば、海外産よりも「国産大豆」である方が、安心な原料と感じられる方は多いと思います。
ただ、当たり前ですが「国産大豆」であったとしても、生育環境は千差万別。日本は、もちろん法律上問題の無い範囲ではありますが、世界各国と比較してもかなり農薬を使う国でもあります。大事なのは「国産」という言葉ではなく、畑の状況を自分の目で確認して納得した原料を使うこと。それが、安心な豆腐作りには欠かせないと考えています。
2つ目の特徴は、大豆の浸水を「流水」で行うことで、「外皮」を取り除いた大豆を用いている点です。
大豆の浸水に用いた白濁とした水には栄養価があると言われており、一般的には、この水を大豆を煮るのに使っていきます。そのため、大豆の浸水は「流水」ではなく「貯め水」によって行います。ただ、葉月ではこの「貯め水」を使いません。
なぜなら、これはお米に対する知見ではありますが、生育過程で散布された農薬のほとんどを「外皮」に貯め込むと言われており、大豆も同様のことが起こっている可能性が高いと見ているため。
確かに、大豆を浸水させた水には一定の栄養価があるのかもしれませんが、貯め水による浸水では大豆の外皮を取り除くことが難しく、外皮が残った大豆では農薬を取り込んでしまう可能性が否定できません。
安心な豆腐作りを志す葉月としては、「栄養価」よりも「農薬除去」を優先したいと考えています。
――なるほど。安心なものを届けたいという葉月さんのお考えがよくわかるお話ですね。次に「お水」について教えてください。
豆腐作りは、まず「大豆の浸水」からスタートします。大豆は、20時間程度かけてゆっくりと水を吸収することで体積は約2倍となり、この水を含む過程で発芽が促され栄養価の高い食品になっていきます。それゆえに「どのような水を使っているか」によって、豆腐の風味は大きく変わっていくと考えています。
では、葉月ではどのような水を使っているか。
大山町には、「大山隠岐国立公園」という35,000haを超える手つかずの大自然があります。西日本最大級の「ブナの自然林」と「火山活動によって作られた地層」が特徴で、この特殊な地形によって磨かれた「天然地下水」を使わせて頂いています。
飲食に適した水質であるかのチェックはもちろんですが、「美味しいお水の方程式(下記リンク参照)」に当てはめた客観的な検証も加えた上で、現時点では「大山の地下水」が葉月の豆腐作りには最適だと考えています。
*参考:美味しいお水の方程式
――「天然地下水」=「美味しいもの」と決め付けず、「方程式」に当てはめて検証もされているんですね。では「にがり」についてはどのようなものをお使いでしょうか。
葉月では、1億年前の地層から産出されたとされる「中国産の岩塩」をにがりとして使っています。もちろん、それには理由があります。
資本主義が発展した現代においては、「海洋汚染」という言葉に象徴されるように、得体の分からない物質が海に流れ出てしまっている可能性は否定できないかと思います。
そのような状況を踏まえると「海洋性」のにがりについては、たとえ「国内産」のものでも、どのような物が含まれているか、不安を拭うことができません。
資本主義が生まれる遥か昔に生成された「中国産岩塩」と、昨今の海洋汚染の可能性も踏まえた「国産海洋性にがり」と、どちらが安心か。科学的検証ができている訳ではありませんが、葉月では「中国産岩塩」がベターではないかと考えています。
――確かに、原料に「中国産」と書かれているより「国産」と記載されている方が安心なイメージはありますが、本当にそうなのかを考えてみることも必要ですね。次に製造工程についてもお伺いできればと思います。葉月さんならではの作り方は何かありますでしょうか。
最大の特徴は「1メートルを超える鋳物の鉄釜」で、これを「薪」で炊いている点にあります。
――なぜそのような大きな鉄釜を用いるのでしょうか。
「遠赤外線効果」を最大限に引き出すためです。
まずは、鋳物の鉄釜だかこそ、炭火から発生する「遠赤外線」を無駄なく釜内に取り入れることができます。
また、鉄釜が1メートル超と大きいが故に、鍋内の温まり方に差が発生し、この温度差があることで対流が生まれます。この対流があるからこそ、呉(砕いた大豆に水を加えたもの)全体に、均一に、じっくりと、遠赤外線が加わっていきます。
この「鋳物の鉄釜」「1メートル超の大きさ」の2つが揃うことで、遠赤外線効果が引き出され、大豆のうま味が凝縮した煮呉が出来上がると考えています。
――薪で竈で炊いていくのには意味がありますでしょうか。
これだけのサイズの鉄釜に合うガス火台が無いので、竈炊き以外の選択肢が無いというのが本当のところではあります。
ただ、仮にこのサイズのガス台があったとしても、やはりガスではなく薪を使っていきたいと考えています。
山々に囲まれた自然豊かな大山エリアにおいては、薪というのは安価で安定して調達ができる自然由来のエネルギー源であり、薪として活用した後の炭は、畑の肥料になる他、余すことなく使いきれて無駄がない。今の時代にフィットした循環型のエネルギーだと思っています。
――鍋のサイズにも、炭火で炊くのにも意味があるのですね。その分、大変な面もありそうです。
呉を煮はじめてからの「温度管理」はかなり大変です。呉が「にがり」と反応するためには、80℃前後の温度にする必要がありますが、温度が低すぎると反応せず、温度を上げ過ぎると焦げてしまう。熱源を薪にすると、この温度の微調整が難しいですね。
あとはやはり「時間がかかる」ことですね。薪を焼いて炭にし、炭から熱源を取るためには当然手間がかかりますし、鍋のサイズが大きい分、お湯や呉を沸かすのにも時間がかかります。
このようなやり方をしているのもあって、1日に作れる豆腐はわずか「3箱 54丁」程度。これだけの量を作るのに、片づけも含め「7時間以上」かかってしまうのが実態ですね。
――「生産性」よりも「美味しいもの」を届けたい、そんな葉月さんの強い想いを感じます。
「生産性」ということはあまり意識していませんが、このような手間暇のかかる作り方をしているからと言って、必ずしも「美味しい豆腐」が作れているかは、正直分かりません。
何を美味しいと感じるかは人それぞれですし、脳や舌が感じる「美味しさ」を追求するのであれば、人工の添加物を加えた方が良いのかもしれません。
繰り返しになりますが、我々の想いとしては、「美味しい豆腐」というよりも「安心な豆腐」を届けたいということに尽きます。その想いに対して、噓偽りのない作り方をしているといった「自負」を持っていることが、豆腐屋 葉月ならではなのかもしれません。
――色々とお話をお聞かせ頂き、ありがとうございます。葉月さんほど「安心な豆腐作り」を愚直に追い求めている会社さんは、本当に少ないのではないかと思います。想いと行動の「一貫性」こそが、葉月さんのオリジナリティなんだと感じました。
最後に「豆腐屋 葉月」さんのこれからの展望をお聞きかせ下さい。
まずは、安心で嘘偽りのない豆腐を「選択肢」として世の中にお届けしていくこと。そういったことに価値を感じて頂ける方に「葉月のお豆腐」を知って頂くことが第一歩だと考えています。
そして「豆腐屋 葉月」がキチンと事業として成り立つようになり、豆腐作りというものにも脚光があたることで、この大山町国信エリアが豆腐作りの町として再び活力を取り戻すことが出来たら最高だなと思っています。
夢物語のような話かもしれませんが、そのような日が来ることを信じて、これからも「安心できる豆腐」を、愚直に、一所懸命に、作っていきたいと思います。
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