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映画感想:ヴィーガンズ・ハム

ヴィーガンという言葉はここ数年でかなりメジャーになったと感じる。

以前はベジタリアン、という言葉で表現されていたのがいつの間にか置き換わったような感覚だ。

正確には「ヴィーガン」と「ベジタリアン」は似て非なる意味で、「ベジタリアン」は「菜食主義」に対して、「ヴィーガン」は食事だけにとどまらず、動物由来の製品の使用すら避ける。

人間は動物を搾取している、不必要に苦しめている、畜産業が環境破壊をしている、など様々な主義主張をもった存在が「ヴィーガン」だ。

主義主張思想をもつのは至極自由な話、だが

強引な手段で他者に押し付ける、と問題になってくる。


ヴィーガンは「善」か「悪」か、そんなことはわかんないし、どんな観点で評価すべきか、によって天秤はどちらにも傾くでしょう。

とはいえ、過激なヴィーガンによって事件が起きているのも事実。
これを面白おかしく、コンテンツ化した作品がコチラ。


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ヴィーガンズ・ハム

ファブリス・エブエ(2021)

簡単なあらすじ
肉へのこだわりが人一倍強いが故に、商売がうまくいっていない肉屋のヴァンサン。経営難に加え、夫婦仲も悪く、そんな日々で泣きっ面に蜂とでもいうべきか、過激なヴィーガンに店を襲撃される。

前置きでツラツラと記したように、自由な主義主張思想が故に問題化している。これはただの肉嫌いの野菜好きという話に留まらず、「環境問題」であったり「動物の権利」だったり「宗教」であったり、デカい課題がポロポロでてくるスケールの大きい問題なんだけど…

なんだけど…

うるせえ!!!
肉食ってねえ奴は頭に血が巡ってねえようだな!!!

とでもいうようなハイテンポお馬鹿映画でした。
観終わった末に何か考えさせられることもないっす。

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フランスの映画ってどれもこんなにテンポいいの?

1.ヴィーガンに店を襲撃される
2.襲撃者であるヴィーガンを勢い余って殺害してしまう
3.手違いで遺体の肉をハムにして販売してしまう

これだけの結構な出来事が映画の冒頭15分で描かれます。

これが邦画なら、夫婦の関係性や殺人や、遺体の処理に至るまでの葛藤、手違いで販売しちゃってからの展開など、、、倍以上かかるんじゃない?

何がすごいって人肉ハム食っちゃったのを知った奥さんが一切狼狽することなく、「とんでもなくうまい肉だからお前も食え」と旦那に勧めることよね。

倫理観どこいったんだよ。

でもそれでいいんですよね。

肉屋がヴィーガンを狩って、その肉を売る。
ヴィーガンは野菜や果物ばかり食べるからその肉は美味い。

っていうのが面白いところなんですよ、馬鹿馬鹿しくて最高じゃん。
ここをたっぷり描写してもらうのが、観客側の期待するところですよね。

なので、あってもおかしくない葛藤などの心理描写や倫理観と現実問題のせめぎ合いとか、そんなもんはないけどええんすわ。観客は一番おいしい所、サーロインが食いたいんすよ。

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作中の人物は全員漏れなく、善人がいない。肉を食う人も食わない人も、悪人とまではいかないでも、手放しに善人だといえる人はいない。

だからこそ、馬鹿と馬鹿の争いを観ている気分になれる。肉を食う側にも、肉を食わない側にも、どちらにも肩入れすることもなく「馬鹿な映画だったなぁ」とスッキリとした喉越しになっている。

この映画を観て

あなたの主義主張思想がブレたりすることはないだろう。それは肉を食う人も食わない人も同じく、だ。もし、ブレたりすることがあれば、それはあなたの主義主張思想が芯の通っていない大したものではなかった、というだけのことだろう。

ラストスパートからの、結末まで。

一切頭をひねらせる余地なく笑わせてもらった。

ヴィーガンという複雑なテーマで、ここまでスナック感覚の娯楽作品におさまっているのは見事じゃない?



あー、あと過激派ヴィーガンたちが事あるごとに

「 Vパワー!!」

っていうのが最高でした。

オススメです。

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