小さな成功体験を見つけて、気軽に一歩を踏み出してみる
今回取材させていただくのは、京都市東山区でシェアキッチンとオーガニック食品の量り売り店「the kind」をオープンされた冨浪悠佳さん。東山へ移住したい人をサポートする『東山くらしよし』でもお試し移住担当として活動をされています。生まれも育ちも東山の冨浪さんに、海外での経験がどのように活動に活かされているか、地域でやりたいことへの想いと葛藤を話してもらいました。
視野を広げた海外での経験が活動のきっかけに
ー今のお仕事を聞かせてください。
自宅を改装して事業をしているんですけれど、今のメインは1階の量り売りのお店で、その横でシェアキッチンをしています。2階にはレンタルスペースがあって、一部は撮影できる場所にして着物の販売もしています。ほかには民泊をしたり、最近はヴィーガンやベジタリアン向けの朝ごはんを始めましたね。
ー本当にいろいろなことをされていますね。私もお店にお邪魔したんですけれど、量り売りはどうして始めようと思ったんですか?
オーガニックの食品への興味は前からすごくあったんですけれど、量り売りに興味を持ったのは、単純にオーガニックは値段が高いので、安く販売できる量り売りの形態にすれば、お客さんも販売するこちら側も負担が少ないと思ったからですね。でも、海外だったら結構どこでも量り売りで普通に商品が裸で売られているので、逆に日本には少ないことにびっくりします。
ー海外経験をお持ちなんですね。
中2の冬から高校卒業まで、4年間ぐらい留学をしていました。留学して一人で旅行に行ける程度の英語は身についたので、海外にはよく行くようになりましたね。
ー海外旅行の経験が今の仕事に影響していることはありますか?
例えば民泊は、昔ヨーロッパに1か月ぐらいバックパッカーで旅行に行ったことがきっかけなんです。ドミトリータイプの宿ばかり泊まって、いろいろな人とコミュニケーションを取ったのがすごく楽しくて、「ゲストハウスしたい!」と思い立ったことから始めました。
ブラジルでコーヒー豆を探していた時には、現地の人から「いいコーヒー豆は全部海外に持っていかれる」みたいな話を聞いて、先進国がそうやって搾取しているのが、すごく寂しいなと感じました。
海外では、暮らしの中で見てる視点が日本人と全然違うと感じられて面白いです。旅行するたびに仕事が増えたり変わったりしているのも、そんな影響からかもしれないですね。
ー冨浪さんが海外で見てる視点は、観光地を旅行するのとはまた違ってますね。その土地で暮らしたり、現地の人とすごくコミュニケーションをとられたりしてますよね。
最初に留学して、英語がちょっと喋れるようになったおかげで、現地の人とコミュニケーションが取れるというのはやっぱり大きいのかもしれないですね。民泊や朝ごはんの事業では、外国の方がたくさん訪れてくださるので、そうした方々との交流にも海外経験が活かされています。
地元に根付いた活動への想いと葛藤
ー民泊については、お試し移住担当で小原亜紗子(こはらあさこ)さんと東山くらしよし※の活動をされていると聞きました。
はい。民泊の部屋をお試し移住に活用してもらっています。
ーどういった経緯で関わることになったのでしょうか?
これまで地元に根付いた仕事をしていなかったので、今回お店を始めるにあたって、東山にどういう人がいるのか知りたいと思っていたんですね。そんな時に東山いきセン主催の「しゃべくり大作戦」という交流イベントが開催されると聞いて、そこで小原さんと知り合いました。
しゃべくり大作戦ではあまりお話しできなかったのですが、後日、小原さんに急に居酒屋に呼ばれて、「くらしよし、やりません?」と声をかけてもらって。「なんですかそれは?」みたいなやり取りから始まりました(笑)
ーお店を立ち上げられて、東山との繋がりの場を作って、冨浪さんのやりたいことが実現できましたか?
どちらかと言うと、本当はもうちょっと地域に根付いてやりたいって思っていたんですけど、やっぱり住んでる方が少なかったりするので、地元の方よりは、海外の方にすごく来ていただいていて。もうちょっとうまく地域の人たちが集まる場所にしたいと思っています。
近所では、70歳ぐらいの方が自宅を改装して喫茶店されているんですよね。そこには結構、近所のお年寄りが集まってるみたいなんで、そういう場所があるのはすごいいいなと思っているんですけれど、事業として考えると、海外の方にも来ていただきたいのでその葛藤はありますね。
なので、量り売りだけでも地元の人がふらっと来てもらえるような場になればいいなと思っています。
シェアキッチンは、やりたいことの「ステップアップの場」
ーシェアキッチンは地元の方がふらっといけそうな感じもしますね。
そうですね。私は、「これやったらどうですか」と自分がアイデアを出すのは苦手なので、何かアイデアがある人にシェアキッチンを使ってもらえたらいいなと思っていて。オープンした次の日は高校生が使ってくれたり、今日使ってくれた方は、将来カフェを開きたいとかおっしゃっていて。他にも、金曜と土曜にランチでスパイスカレーをされている方がいらっしゃったんですけれど、ここで練習を重ねて、5月からはステップアップして、週5でできる場所に移転されたんです。
ー新しい事業を立ち上げる“きっかけの場”として使っていただくイメージでしょうか?
そうですね。アイデアを持っている人は沢山いるので、私はそのアイデアを活かしてもらう場を提供している感じですね。
ー何かをやりたい人が、半歩踏み出す場になっているんですね。
そっちの方がわくわくしますね。やっぱり、自分と一緒で自営業をしたい人を応援したくなる感じはあります。でも、ここにずっといて欲しいとは思っていなくて、将来的に自分の店を持つとか、そういったやりたいことのステップアップの場として使ってもらいたいですね。
逆に割り切って、趣味として利用される方もいます。昔、飲食店をやってたけど、廃業された方がいるんですね。その時楽しかったから、人生の趣味としてもう一回やりたいと仰っていて。そんな風に気軽に使っていただければと思っています。
でも、シェアキッチンを借りることすらハードルに思ってる人が結構いて、それにはびっくりしました。リスクを取りたくないと思ってらっしゃるのかな。そこは、そんなにハードルを高く感じなくてもいいのに、と私は思います。
「面白そう」と「失敗しない」の掛け合わせ
ーいろいろ事業をされてる中で、共通する思いはありますか?
うーん。自分の中では共通するところが、あまりないかもしれません。思いつきでしょうか。
ーその思いつきの「やろう」という決断って、どういう感覚なんですか?
“事業として失敗はしなさそう”、かつ“やったことないこと”がいいな、みたいな感じですかね。例えば過去にはオンライン販売をやっていたんですけれど、始めた理由は、民泊で人とたくさん会いすぎたので、引きこもってどこでもできる仕事をしようと思ったからなんです。その後、また人と会いたくなって店舗を始めることになりました。
ー事業としてのシビアな部分と、やったことがない面白さを掛け合わせるのがすごいですね。
何個か「これやりたいな、あれやりたいな」っていうものが自分の中であって、その中で「これやったらいけるかな」って、その時に一番思ったことをやっているって感じです。
周りを見渡せば、適材適所に誰かできる人がいて、その時にできることをすればいいと思っています。
ー出会う人によっては、次の商売のアイデアが浮かぶこともあるんでしょうか?
かもしれないですね。例えばAirbnbは日本であんまり浸透してなかったけど、外国人の誰かに教えてもらってやり始めたら、すごく人がいっぱい来てくれましたし。いろいろな人に教えてもらいながらやってますね。
ー情報を耳に入れたり、人と出会ったりする機会をすごく自然に作っていますね。そこで触発されたり、お母さんの状況とかを見ながら、「じゃあこれをしよう」と行動されたり、楽しそうにお仕事されているなと感じます。
好きなときに働かせてもらって、ストレスなくやれていますね。
ーこれから何かを始めたいけど、自信がない方にメッセージを送るとしたら、いかがでしょうか?
何でもやってみたらいいんじゃないですか。多分、成功体験がないんだろうなと思います。シェアキッチンだったら月数万円で始められるし、物を売りたい人だったら、とりあえずメルカリから始めるとか、小さいことから始めて、それをちょっとずつ増やせばいい。みんな多分どこかで止まってしまうんでしょうね。
「自分はこれができる」っていうのを知らない人が多いなと思います。私も自分が英語がちょっとできるっていうことを使ってるぐらいなので。みんな、自分のいいところがあるのに、「「こんな私じゃ......」と感じる人が多いのかな。もったいないなと思います。
ーそれはいい話です。ちょっと自分に置き換えて考えてしまいました。自分の成功体験ってなんだったのかなって。
少しずつ大きくするか継続していく感じでいいと思います。でも、私は正直失敗をしないところを選んでいるので夢を持ってされている方とは少し違うかもしれません。だから、そういう思いを持った人に成功してもらいたいと思います。その後押しをしたいですし、シェアキッチンがそのきっかけになってくればいいなと思います。
「何かしたいけど、どこでやったらいいかわからない」と困っている人は、ぜひ一度相談してもらえればと思います。
[取材・文]川嶋二郎 [編集]橋野貴洋
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