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宝探し

泣くことから始まった
名前さえ知らない命

それはただ声だった

今在るということ 
それは
両手でも抱えきれぬ程のものを
初めに与えられていたということ 

誰も皆そのようにして始まった

それから
喋るための言葉を覚え
書くための言葉を学び
想い伝え合うための言葉を
ひとつひとつ拾い集めてきた
穴のあいたポケットに

与えては、与えられ
気づいては、気づかされる

愛も
若さも
幸福も 
満足感も
充実感も 
達成感も

盛んであればあるほど
苦しみ また多く
主体はいずれ崩れ去る

まるで道具であるかのように
まるで手段であるかのように
使い捨てては見殺しにしてきたもの

一切のがらくたが並び立つこの世界で
ただひとつ真実なるもの

それは言葉だった
それはただ声だった

色もなく、かたちもない
見ることも、手に取ることもできない
とてつもなく大きな宝
求めていたわけでも
探していたわけでもないのに……

嗚呼、今生を措いて 
如何なる生で再び出偶えよう。

これ以上の宝に!


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