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業(ごう)

たとえあなたが覚えていなくとも、自覚や実感があろうとなかろうと、納得できようとできまいと、あなたはあなたの業を背負っていくしかないのです。何があっても、何が起こっても、それはあなたが背負うべき業なのです。誰のせいにもできないし、誰かが代わってくれるわけでもありません。すべて、あなた自身で引き受けていくしかないのです。

その業を背負ってあなたは次にどんな世界に生まれていきますか?

自分の業なんて突然言われても、そんなものわからない。そう感じている方もいるでしょう。例えば、自分が毎日何をやって生きているか、どのようにして自分の命を繋ぎ止めているか。それを深く見つめてゆくだけでも、自ずと自分の業が見えてくるはずです。

この世界に「食べ物」という「物」はありません。生き物は物ではなく、全て命です。しかし、その命を私たちは便利で使いやすいかたちに加工し、食品や食材などと呼んでいます。私たちは知らず知らずに、命を何か命とは別のもののように観てはいないでしょうか?自分たちが命をとっているという真実をできるだけ日常生活では意識したくない。それが本音でしょう。しかし、ハンバーガーは紛れもなくミンチにされた命であり、お刺身は紛れもなく切り刻まれた命なのです。私たちは普段そんなこと考えもせず、気にもせず、来る日も来る日も旨い旨いと言って命を食べているのです。食べることで他者の命を奪っているのです。私は自分では殺していないと言われる方がいるかもしれません。それは自分が直接手を下していないというだけで、あなたが奪う命を誰かがあなたの代わりに殺し、用意してくれたということに過ぎません。

仏教では、「十悪」が説かれます。命を奪うことは「殺生」という非常に大きな罪であると言われます。毎日家族で囲む幸せな食卓。美味しい料理。とても素敵な時間ですよね。しかし、見方を変えれば、そこには奪われた命、つまり望まれなかった死が、ずらりと並んでいるのです。

命をとる私がいる。私にとられる命がある。これは紛れもない事実であり、現実です。だとしたら次は自分が命をとられる側になることだってあり得るはずです。そう考えるのが自然でしょう。次は自分の肉がミンチにされ、自分の身が切り刻まれるのです。そんなことはあり得ないと思われますか?

他者の死を喰らって生きる。そうすることでしか生きられない。これまでも、これからも、私たちは自分が生きるために殺生という罪を作り続けていくしかないのです。ところが、そうやって罪を作り続けている私の業はあまりにも深いのに、その自覚すらないのが私なのです。皆さんは、「鬼」と聞いて何を思い浮かべますか?私を一言で表す最も適切な言葉。それが「鬼」だと私は思います。私は自分が生きるために無意識に、無自覚に、恐ろしいことを毎日している鬼なのでした。

人間はいつも自分にとって都合の良い「枠」で、ものごとをとらえようとします。見たくないものは見ない、聞きたくないことは聞かない。自分に都合の悪い真実は信じない。その姿勢が私たちを真理から遠ざけ、自らを迷わせ続けているのです。

業といっても運命や宿命のように何か大きな力によってそうなることがすでに決まっているというようなことではありません。むしろその逆で、自分の行動、言動が業という種となるのであって、すべては自らに委ねられているということです。「自分が背負っていく」とはそういうことなのです。私は普段どんな種を蒔いているのかと想像してみてください。

仏教で説かれていることは何も特別な話ではありません。冷静に自分自身を見つめてゆけば誰もが頷ける、ごく当たり前のことです。なぜならそれが普遍的真理だからです。その真理を聞いても、嘘のように感じられる、そんなことあり得ないと思うのは、自分自身で都合良く作り上げた自己という枠で聞いているからです。それだけのことなのです。

その枠が、ある種のバイアスのようなものであれば、自分で意識することで取り除くこともできるでしょう。しかし、煩悩に眼(まなこ)さえぎられ、その自覚さえもなく、深い闇の中を迷妄している私たちは、ものごとをそのまま、ありのまま観ることができません。大多数の人は、自分の業と言っても、まあそういう考え方もあるだろう(自分は別に信じないけど)くらいにしか受け取れないでしょう。

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そんな気持ちわかるでしょ

 ザ・ブルーハーツ「情熱の薔薇」

人間は何を信じているか。自分がこれまで得た知識や経験によって作り上げた自己の認識という狭い枠を信じているのです。「我執」と言い換えることもできるでしょう。自己を知るとは、まずは自分がその枠の中にいることを知るということです。自分は一体どんな枠にはまっているのか、一度じっくりと考えてみるのも良いかもしれませんね。自分で考えてみないことには始まりませんから。





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