【小説】 圏外になった

スマホが圏外になった。
電波のアイコンには✕印がついている。
少し待ってみたり、スマホを再起動しても状況は変わらない。

通信障害という単語が脳裏に過ぎった。
先日も大手キャリアで大規模な通信障害が発生したばかりだった。

そういえばあの時もこんな感じだったな。
これは通信障害と見て間違いないだろう。
どこかでWi-Fiに接続できれば現状についての情報も調べられるだろう。

今いるところは自宅からそう遠くない場所だ。
Free Wi-Fiを探すよりも一旦自宅に戻る方が確実そうに思える。


自宅に戻ったところ、Wi-Fiには無事に繋がった。
しかし、どれだけ検索しても通信障害についての情報は出てこない。

通信障害ではないとなると、私のスマホが不調なのだろうか?

依然として圏外表示のままなのであまり意味はないだろうが、通話機能がどうなっているのか確認することにした。

時報にでもかけようと思ったが、番号が思い出せない。
とりあえず自分の携帯番号へかけることにした。
番号を入力して発信ボタンを押したが、すぐにブツッと切れてしまう。

やはり前回の通信障害の症状に酷似している。
まだ情報が出てきていないだけで通信障害が発生している可能性も捨てきれないように思えてきた。

LINE Out Freeを使用し、再度自身の携帯番号へ架電した。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません」

何かの間違いかと思い複数回チャレンジしてみたが、同様の機械的なアナウンスが繰り返されるばかりだった。

もしかすると携帯料金を払い損ねていたのかもしれない。
未納によって回線を止められている可能生もゼロではない。

しかし、自動引き落としにしているし、口座の残高が不足していた記憶はない。


考えていても埒が明かない。
これはショップに行くしかないかと思い始めた矢先、突如として玄関のドアが開いた。


眼前には見覚えのある二人が佇んでいた。
私の両親だ。

両親はいずれも生気のない顔で私の部屋を見渡している。

「あれ、どうしたの?来るなら言ってよ」

「……」

両親からは返答がない。
突如として母が泣き出してしまった。

父は母を宥めつつ、外へと促した。
両親はそのままどこかへ行ってしまったようだ。


何かがおかしい。

両親は私の呼びかけに反応がなく、私と目も合わさなかった。
二人が勝手に入ってくるのも変だ。

これは夢なのだろうか?
妙にリアリティがあったが有りえないことばかりが続いている以上、そうとしか思えない。

夢ならばいつか醒めるだろう。
そう思ったものの目覚めの時は訪れず、場面転換もない。

Twitterを開くとトレンドに容疑者逮捕という物騒な文字が並んでいた。
何やら大きな事件があったらしい。

該当のニュースを検索した私は絶句した。

ニュースには私の名前が載せられていた。
数日前に発生した事件で、女子高生を狙った通り魔を止めようとして刺殺されたらしい。

お願いだから全部夢であってくれ。



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