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梅雨前の夜

寒気を伴った低気圧が上空を通過した東京は、先ほどまで、眩い閃光と重低音の轟きが夜空を切り裂き、打ちつける雨が街に迸った。
今は、静けさが舞い降り、とはいえ、雨がゆっくりしなやかに天から注がれている。
梅雨入り前ではあるが、その様は梅雨の如くである。

この「梅雨」。その本来の意味とニュアンスを英語で伝えるのが難しい。結局「rainy season」となってしまうのだが、とどのつまり「雨季」にしかならない。
まさか「plum rain」などと直訳するわけにもいかない。

雨も含め、気象に関する日本語は、実に表現が繊細で豊富だ。
いちいちここでは書かないが、雨の表現だけでも、およそ3〜400ある。世界の中でも日本特有、独特の文化である。この五感をフル活用した言葉の表現は、美しくもあり知的でもある。
世の中が続く限り、大事に伝えていくべきものの一つだ。

最近の言葉の変化または間違いは、よく話題になる。
「漸く」を「しばらく」と読む人が増えたため、さらに言葉は生き物であり時代に即したものへと変化する、などというそれらしい理由で、言葉本来の意味を理解しようともせず、言いやすいから読みやすいから変えてしまう。
合理的なものも確かにあるが、変えてはいけないものもある。

「梅雨」も「うめあめ」などと、英語の直訳風に読みが変わらないことを切に願う。



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