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どうにかして使わせてもらいたい風景

鬱然と緑の木々が生い茂り、古色蒼然とした2階建ての住人のいないアパートが敷地の隅に埋もれている。
木々は、季節になるとオレンジ色や黄色の果実を実らせ、鳥達が集まり、賑やかに食事をする。
住人のいないアパートのトタン屋根には、数匹の野良猫が我が家同然のように寝そべり、寝そべっていたかと思うと、軽やかに屋根から飛び降り、敷地の中に姿を消していく。

小さな家々が密集した中に、広々と取り残された風景。
ベランダに出ると、すぐ目の前に広がる。
見るたびに、少し手入れすれば、森の古民家カフェでもできそうなのに、と、なんとももどかしい思いで猫を眺めている。

日帰り出張でくたびれ、今日は急遽、在宅勤務にした。
少し遅めに起きようと目覚ましもセットせず寝た。
朝、暑さよりもチェーンソーの響く音で目覚めた。
どこか家を解体するのかと、特に気にもせず、パンを焼いた。

しかし、音のする方向がおかしい。
気になってベランダに出た。
森の木がカットされている。
まさか、全部切り倒すのか。
さらに気になって現場に行ってみた。

黄色いヘルメットを被った作業員が数名、手際よく作業をしていた。
聞くと、どうやら伐採ではなく剪定とのこと。
たしかに生い茂り過ぎ、電線や隣の家々に覆い被さる葉々があった。
とりあえず、風景は保たれることに安心し家に戻った。

パンが原型を保たれることなく、黒焦げになっていた。


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