【第3回 リプ短歌感想企画】
こんばんは。
今回も当企画に短歌を賜りましたので、ひたすらに感想を述べていこうと思います。
よろしくお願いいたします。
今回は、以下の五首を扱います。
※字間や改行などは詰めて表記しています。あしからず。
では、順番に感想を述べていきます。
一.垂乳根の母の役目を終えた乳房檸檬のかたち手にいとおしむ
・この垂乳根は、「母」にかかる枕詞。
女性の胸は40歳を境に垂れはじめると言われており、まだ「檸檬のかたち」を留めている主体の胸の形状から察するに、主体は、子が10歳頃になった、30代後半の女性であると思われます。
男性と違い、女性は自身の胸に関し、年齢によって違う印象を覚えます。一次成長時や思春期、そしてこの子育て時期と、長い時間をともに成長してきた相棒のような印象を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。「いとおしむ」という表現は、子育てを終えていよいよ垂れていくだけになった相棒を称える表現なのだと思いました。
・「かたち」「いとおしむ」という平仮名表記には丸みがあり、上の句~檸檬にかけての漢字の生硬な感じとは対照的です。檸という字には「寧」という字も入っていますから、主体の、一段落ついた安らかな心情も暗に示していると言えるのではないでしょうか。
二.万歳の円は今夜の色見本君を彩る補色になるよ
・補色と言えば、例えば自然界にはいくつもの補色関係があります。砂浜と海、月と夜空、紫陽花の花弁と葉、などがそれに当たります。相補的な(家族や恋人といった)人間関係も、補色関係と喩えることができます。
・「万歳の円」を必ずしも正確に想像する必要はないと思い、その語感から光景を想像しました。その日、「君」に良いことがあり、夜になって主体に伝えた。それを聞いた主体は大喜びで、「君」もつられるように喜んで思わず万歳三唱……主体はそんな良いことがあった「君」をさらに祝おうとする。想像したのは「試験の合格」「妊娠の報告」「就職の内定」などの光景でした。
・自分がスッキリした解釈としては、祝いに万歳しまくるような明るい男性が黄色で、落ち着いた女性が紺色だとして、まるで満点の夜空のような彼女を、月のような男性が煌々と照らす……というものが浮かびました。
良いお二人ですね。
三.この瞬間、右手の私の親指に宿れ、縁結びの神様よ
・「縁結びの神様」の祀られている神社に、有名な出雲大神宮があります。それで出雲大神宮の夫婦岩のページを見てみたら、以下のような表記がありました。
この短歌は出雲大神宮の夫婦岩の前ではないか、と推測してみました。
・では、「右手の親指」にどんな意味があるのでしょうか。例えば右手の親指につける指輪(サムリング)は勇気をもたらすとか、あらゆる願いを叶えるとか言い伝えられているそうです。指輪による願掛けと縁結びの神様の二段構え……さらに「この瞬間」ということは、本当にその瞬間こそが勝負の瞬間であり、告白の瞬間なのでしょう。
・「神様にも願った、指輪もある、後は目の前のコイツだけ……!」という一世一代の気勢が感じられます。
四.化け桜心携え凍え散りいつか見た世の露と消えゆく
・上記のような理由で、福島の普賢像桜は化け桜と呼ばれているそうです。今から500年前は室町時代。北山文化と東山文化が栄えた時代でした。その時代は俗にいう「わびさび」や「枯山水」、「銀閣寺」などの日本らしい風景が盛ん。その頃から生きているこの桜からすれば、今の日本の景色はどこか息苦しいものなのかもしれません。
・「凍え散り」「露と消えゆく」という表現は、桜の心がいかに寒々としたものか、今の日本の寄る辺なさも表している気がします。「いつか見た世」とは、かつて栄華を誇った日本らしい日本のことだったのでしょうか。なんにせよ、化け桜と揶揄され、その容貌も他と違う孤独な桜には、安らかにあってほしいと思います。
五.鼻ほじりほじほじすんなと声かけてそれでもやめない彼は田中
・「田中」という名字の、なんとほのぼのと無個性(決して田中さんを悪く言っているわけではありません)なこと。名字とは難しく、例えば私は「日笠山」ですが、日笠山らしさというのは案外手に入れづらい。どうしても名字負けしがちというか、珍しい名字が必ずしもレアで良い、とは限らないんですね。それに対して、「鼻をほじる田中」の田中らしさたるや。絶対に彼は田中で、周囲には田中のことを「なんて平凡で普通な奴なんだろう(決して田中さんを悪く言っているわけではありません)」と思ったりしているに違いないのです。これほど短歌に使いやすい名字が他にありましょうか。「田中」は無数にいますが、何かの代名詞のようなキャラクター性がある……鈴木や伊藤では果たせない役割を、彼なら果たせる気がするのです。名字と短歌の可能性について考えさせられました。
おわりに
今回も、素晴らしい短歌をお寄せいただき誠にありがとうございました。
当企画は、毎週の金曜と土曜に行われます。
今回お寄せ下さった方も、またお越しください。
今後もお楽しみに。それでは。
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