見出し画像

『君と明日の約束を』 連載小説 第七十話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします💠
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 病気に罹ってから、私はお母さんにできるだけ学校であった話を伝えるようにしていた。それは初め、私が病気に罹っているせいで友達とうまくいっていない、とお母さんに思わせないためだったのだと思う。
 喘息に病気、と迷惑をかけている後ろめたさもあった。

 話すと母はそれを嬉しそうに聞いていた。あまり笑わない母が自然な笑みを見せるその時間が好きだったし、だからそれが習慣になっていた。

 ミツ君と休日会うようになって、同じ部活に入って、嬉しかったのだろう。
 無意識のうちに小説を手伝ってくれているミツ君のことを話すことが増えてしまっていた。

「その子、日織の病気のことは知ってるの?」

 いつも楽しそうに私の話を聞いていた母が少し迷惑そうな表情を滲ませるまで、病気を抱えている娘と近い関係にある異性に対して抱く母親の感情に気がつかなかった。

 母がそんなことを訊いたのは多分、家に帰ってからも部屋で小説を書くようになったことが原因だろう。基本的に私がしたいと言ったことにはあまり口を出さなかったお母さんが、何度か注意するようになった。
 それから、私はわざと彼のことを話題にあげる頻度を下げるようになった。

 だから、私の病室にいるのがミツ君だと気づいたお母さんがミツ君に対して筋違い――お母さんにとってはそうじゃないにせよ――な怒りをぶつけないだろうかと懸念した。

 お母さんがミツ君に名前を聞いた時、その後の展開を想像し、私は慌てて止めようとした。でも、ミツ君は覚悟したような表情をしていた。
 話を遮ることは叶わなかったけれど、結果的に、母はどちらともとれない言い方をした。憤りを感じているのは分かったけれど、抑えてくれた。

 母が病室を出て行った後、ミツ君が誘ってくれていた水族館の話を持ち出すと、彼は病気が治ってから行こうと言った。
 彼もいつでも良いと言った。ただ、少しだけ。死ぬことはないと思っていても、手術が失敗する可能性だって、あった。

ーー第七十一話につづく

【2019】恋愛小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?