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『君と明日の約束を』 連載小説 第八十五話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家になりたい京都の大学生。
よろしくお願いします🌸
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
そろそろ終盤に差し掛かってきています!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

「……なんで?」

 呆気に取られたように首をかしげる慎一は、しばらくしてはっとしたように目を見開く。

「大学……?」
「そう。面談でちゃんと決めた。だから準備しないと」
「そっか……そっか! いいよ。受験までだったら貸し百くらいだな!」

 彼は嬉しそうに何度も頷きながら、バシバシと背中を叩く。



 彼女が生活に本を取り入れたと確認してから渡したのは、彼女自身の小説だった。

 日織が本を読みだしてから、数日後、流石と言うべきなのか、彼女は病室でのほとんどの時間、本を読むようになっていた。

 彼女の原稿は、学校に行って文芸部の部室で印刷をしてきていた。
 彼女が遺書を学校の印刷機に残していたのは、そういうことなのか、とそこで気がついた。彼女がもし亡くなっていたら、僕はおそらく彼女の小説を印刷して火葬の時に一緒に入れようとする。彼女の言葉のおかげでコンビニなどでの印刷は選択肢になかったから、必然的に部室の印刷機を使う。

 無事全ての原稿を印刷して彼女に渡した際、彼女は訝しげな顔をしていたけど、それが自分の書いた小説だと気づいた様子はなかった。

ただ「なんで、これだけ原稿なの」と不思議そうな顔をしていた。

 彼女に読んでもらっている間、彼女の様子をじっと観察していると、流石に視線が鬱陶しかったのか、集中できないと怒られたので、僕は待合スペースで時間を潰すことにした。

 彼女の集中できないという言葉。それも、受け流せた。

 まだ途中までしか書かれていない小説だから、ただでさえ読むのが早い彼女だし、読むのにそんなに時間はかからないだろう。そう思って、一時間くらいで病室に戻ったのに、思った以上のスピードで読み終えたらしい、彼女は他の本を読み始めていた。

「さっきの小説、途中で途切れてるよ」

 彼女の反応を見つめながら、僕は唾を飲み込んだ。なんともないと思っていたのに、背中の後ろで握った左の手にはじわりと汗がにじんでいる。

「これ、続きは?」

ーー第八十六話につづく

【2019】恋愛小説

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