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『君と明日の約束を』 連載小説 第八十話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします🏵
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 ゆっくり歩いていき、目を瞑っている彼女を確かめる。見ると、管は繋がれているけれど、日織に掛けられている布団が上下に動いていて、ちゃんと彼女が呼吸をしているのがわかる。生きている。身体中の強張りが弛緩し僕はそのままその場にへたり込んだ。

***

 徐々に目の中に光が入り込んでくる感覚がある。喘息のような息苦しさはないけれど、呼吸しにくい。なんだか、浅いプールで寝転んで、水面から口だけを出しているみたいな。

 小さい頃から何度も見ている天井。この天井を見るのはいつも辛い思いをする時なのに、視界に入ると落ち着いていく自分を感じられた。

「ん……」
「日織!」

 お母さんの声が頭に響く。そんな大きな声を出さなくても。その声に続いて、椅子を動かした振動と足音が感じられた。

「おかあ……さん?」

 口を動かしたつもりなのに、その声は私の耳に入ってこない。

 視界の端に両親の顔が映る。と思ったら、その隣にミツ君と慎一君の朗らかな表情が覗く。みんな身を乗り出して私のことを見ている。

 日織、日織、と口々に出される声に返そうとするが喉の奥がつっかえて声にならない。精一杯力を込めて口角を上げようとしてもうまく力が入らず崩れてしまった感覚だけが残る。それでも、私の反応にみんなの顔が明るくなるのがわかった。

 その表情を見た途端。
 手術がおわったんだ、という自覚が、遅れてやってきた。

「よかった……」

 ミツ君の声だろうか。安心したようなその声を聞くと、私の心にも安堵が広がった。

「大丈夫。ありがとう」

 その言葉も、みんなに届いているかはわからないけど、安心して体の力を抜く。するとまた頭がぼやけてくる。
 その響きを頭の中に残しながら、私はまどろみのような感覚に包まれていた。

ーー第八十一話につづく

【2019】恋愛小説

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