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自伝小説 ままごとかあさん9 家族(5)

父の実家はお寺のすぐ近くにある

古い町家だった。

1階と2階があり

それぞれ別々の家族が使っていた。

父方の祖父母は2階に住んでいた。


木の格子がはまった窓。

色が黒くなって

登るとギシギシと音のする急な階段。

共同で使われている

古い土間と台所とトイレ。

古いけれど隅々まで手入れされていて

どこか懐かしい魅力的な家だった。


たまに家族で遊びに行くと

「よく来たね」

と祖父母は喜んでくれた。

小さな部屋は

いつも綺麗に片付いていた。

お菓子がたくさんあって

キレイな絵の描かれた茶碗にお茶を入れて

茶托にのせて出してくれた。

「うちはゼンゼン掃除してないよ」

とワタシが言うと

「お母さんは忙しいからね」

と祖母は言った。

そうじゃなくてタバコばっかり

吸ってるんだよ!

と言いたかったけどやめた。


父方の祖母は

父に似て痩せた常識的な人だった。 

ワタシの祖母とは違って

ちゃんと目を見て話しを聞いてくれたし

急に怒り出すこともなかった。


父方の祖父は痩せていて

頑固なちょっとコワイ雰囲気がした。

でも、ワタシが行くと喜んでくれて

膝に乗せてくれた。

父のイトコの法要で見た

緑の法衣姿の祖父は堂々としていて

ずっと見ていたいと思った。

祖父はワタシが5歳の時に癌で亡くなった。


もうすぐ旅立とうとしていた祖父に

会いに行くことが出来た。

身体中にチューブがついて

酸素マスクをしていた。

痩せ細って

肌は黄色くなっていた。

ワタシの方を見て

手を伸ばしてくれたけど

コワくて何も言葉が出てこなかった。

産まれたばかりの弟も連れて行き

祖父に見てもらうことができた。

親戚の誰かが

「死のうとしている人に

そんな未練の遺ることするんじゃない!」

と父を怒った。

父は未だにその時怒られたことを話すことがある。

ワタシは未練が遺るとは全く思わない。

父が祖父に見せたくて弟を連れて行ったのだから

それでいいではないか。

怒ってばかりいる父が

怒られたことをずっと気にしている。

たぶん父は怒られるのが何よりも怖いのだろう。

なんだか

とても

滑稽だ。


父は3人兄弟の長男だったが

母を妊娠させた責任を取ると言い

家を出たらしい。

父の弟2人もそれぞれで就職し

誰もお寺を継がなかった。


町家は無くなり

お寺の駐車場になった。


つづく




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