サル痘に関して玉川徹さんは口をつぐみ、小坂健先生は奮戦する

サル痘という病気でWHOが緊急事態を呼びかけた。これで「ニュースで扱うべき問題」に昇格したのだが、地上波では言えないことがある。同性愛コミュニティで流行しているのだ。下手に触れてしまうと炎上を招きかねないと思ったのだろう。地上波各局の動きは揺れていた。

なおアメリカではファウチ博士がMSM(男性の同性愛者)への優先接種を呼びかけている。これをやるためには「あなたは男性とセックスする予定がある人ですか?」と公衆衛生当局者が聞かなければならない。当然議論を呼んでいるが、それでも専門家がやるべきことをやらなければならないというのがアメリカ流だ。

一方日本人は難しい問題には口をつぐむ。当局者は「爆発的感染が市中に広がる心配はないから大丈夫だ」と根拠を提示せずに主張している。「的確な情報発信」の内容がアメリカと日本では異なるのだ。

おそらく誰もこのNOTEは読んでいないと思うので、まず初めに言ってしまうとこの病気に関しては

ワクチンを打つまでは不特定多数の人とSEXするなよ

ということを同性愛コミュニティに言えば解決する。もちろん同性愛コミュニティではなく全てのセックスワーカーに言えることだが、今流行しているのはMSMコミュニティだ。つまり、もともとこの病気が同性愛の人特有の病気というわけではないのだがヨーロッパの同性愛コミュニティで流行している。テドロス事務局長が緊急事態宣言を決めた理由はこの辺りにある。

  • 多くの文化で異端視されやすい同性愛が絡んでいるために実態がわからないままで広がる恐れがある。実態がよくわかっておらず有効な対策が取れないので各国に情報提供してほしい

  • 必要なハイリスク者たちが自主的に感染予防対策を取れるように各国政府が情報発信する必要がある。

そもそも地下化を恐れているのだから「恥ずかしいから」と言って隠すべきではないのだ。NHKは事務局長が緊急事態宣言に踏み切った事情をきちんと報じている。

地上波でも細かく情報が提供できる文書媒体ではきちんとこの辺りが伝えられている。またストレート・ニュースでもこのあたりのことはきちんと表現された。

だがワイドショーの視聴者ターゲットにはおそらく同性愛者は想定されていないのだろう。例えばタブーに切り込むという印象がある玉川徹さんは「それこそ文字通りの濃厚な接触がないと感染しないんでしょ?」とニヤニヤと笑いながら周囲に同意を求めていた。同性愛行為がないと広がらないんでしょ?ということなのだが、それに反応する共演者はいなかった。

玉川さんでも言えないことがあるんだなあと妙に感心した。すでにどこに広がっているのかを知っている人は意味がわかっただろうがそうでない人たちには何のことだかわからなかったに違いない。

このタブーに果敢に挑戦したのが東北大学の小坂健先生だった。感染症の専門家なのできちんと伝えないと理解が広まらないと思ったのだろう。同性愛という言葉を使っていた。だが、周りの共演者たちは「まるで何もなかったか」のようにこの発言をスルーした。

小坂先生は頑張ったと思う。だが、これをさらに変な雰囲気にした人がいる。バービー氏である。先生「感染を防ぐためにはどういう対策をとればいいのですか?」と真顔で聞いたのだ。小坂先生は感染症の専門家ではあるが、そちらの筋の話には詳しくないはずだ。現場で何が行われているのかわからなければ答えようがない。一瞬、妙な空気が流れたが小坂先生はとりあえず頑張って答えを出していた。

番組は大谷昭宏さんの「変な差別はないようにしたいですね」という良識的なコメントで締められたのだが、そもそもこの微妙な雰囲気がすでに「取扱注意の話題だなあ」という社会の差別意識と困惑を表している。

これをプレゼンテーションとして成り立たせるためには、実際に同性愛を公表している人をゲストに呼んできて感染症の専門家に具体的な注意事項を質問させるような形にしないといけないんだろうなあなどと感じた。小坂先生はポリティカルコレクトネスの専門家ではないのだから、全てを専門家に「丸投げ」ではあまりにもかわいそうだ。

当然のことながら多くの専門家は「現場」のことがわからないし「現場」のことを知っている人たちは有効な薬があるのかとかワクチンはいつ頃入手可能になるのかなどの医療情報を持っていない。だから情報を交換しその様子を伝えるのがテレビの本来の役割ではないかと思う。

マツコ・デラックスさんなのかミッツ・マングローブさんなのかはわからないが、おそらくそういう人材はいるんだろうし、YouTubeあたりできちんと情報共有すれば済む話なのだろうと思う。伝わる人に伝わればいいだけのはなしだからである。

北村義浩先生は「性質が変わっている以上、未知のウイルスと言ってもいいくらいだ」と懸念を表明している。つまり流行っているのが同性愛コミュニティ(そんなものがあるのかはわからないが)なのであれば、そのコミュニティが自治体と協力して情報を積極的に上げなければそもそも実態がつかめないのである。

だが、地上波はもはやこの手の話題は扱えないんだろう。

「面白い」などと言っては不謹慎なんだろうが、面白いなあと思ったのは、すでに外国のメディアの日本語記事などではバンバン情報が出ている「当たり前のこと」を日本のテレビがあたかも重大な秘密であるかのように恐る恐る伝えるという点である。見ている人は実はもう知っていたりするのである。NHKもきちんと書いているしBBCも妙な工夫はせずにそのまま伝えている。差別しないというのはこういうことだ。

日本人はマスコミをマスゴミなどという人が多いが、おそらくマスコミで働いている人たちも視聴者のことを信じていないのだろうなと思う。YouTubeのように「見たい人だけが見ればいい」という番組が作れないために相互不信が生まれているのだろうと考えると、なんだか切ない思いがした。


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