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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.16

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第三章 「料理長」を見据えて

vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ

16.モナリザ恵比寿本店のシェフとしての日々

原点からの新たなスタート

「嬉しい!」
モナリザ恵比寿本店のシェフ就任が決まった時、率直にそう思いました。もちろん、丸の内店も大好きでしたが、恵比寿本店は自分がプロの料理人として第一歩を踏み出した場所、いわばフランス料理人・柴田秀之の原点です。
それに僕の中で、丸の内店で出来ることはやり切ったという思いもありました。シェフとして、お客様のニーズを把握した上でモナリザの料理を楽しんでいただけるメニューを作り、スタッフと協力して心地よいサービスと共に味わっていただく。そして店としても、期待された売り上げレベルを保ち、ミシュランの星を維持することができた。70席が昼夜満席になる店を星つきレストランのレベルを保ちながら問題なくまわしていけることは大きな自信になりましたが、どこかで「(店の規模が)大きすぎる」と感じ始めてもいました。まあ、恵比寿本店も50席あるので小さいとは言えませんが・・・(笑)
専門学校を卒業して紆余曲折の末、スタッフとして入った厨房に、約12年を経てまた立てる嬉しさ。そして、様々な経験を重ね、誇りを持って“シェフ”という立場で帰ってこられたことへの感謝を胸に、2012年、モナリザ恵比寿本店シェフとしての日々が始まりました。

シェフになって初めて見えた恵比寿店のハードル

立地も規模も客層も違う恵比寿本店と丸の内店ですが、シェフ視点で見た場合、大きな違いの一つが厨房の大きさです。戻った時は「こんなに狭かったっけ?」と思いました。広さ自体、丸の内店の2/3ですし、使い勝手の違いも大きいのでしょう。というのも、丸の内店がオープンしたのは、恵比寿本店オープンから5年後の2002年。その厨房を作る際、河野シェフは恵比寿本店で感じていた使いづらさの改善を随所に反映させていたのでした。

もう一つが、スタッフの数です。50席に対して、厨房スタッフはシェフを入れて6~7人。一般的なフランス料理店から見ると少なめかもしませんが、「料理人1人にお客様10人」というのが昔からの河野シェフの考え方でした。シェフは、工程数も含めその人員で成り立つ料理を考えなくてはなりません。もちろん、お客様が“モナリザの料理”として満足できることは大前提。各コースの皿数も、両店同じと決まっていました。

つまり恵比寿本店は、満席時、ひとまわり小さい厨房と少ないスタッフで、丸の内店と同じかそれ以上のクオリティのお料理を50名様分仕上げなくてはならない、ということです。20席少ない分、楽なのでは?と思われるかもしれませんが、丸の内店ではシステマティックに出来る部分もあり、厨房の負担は50席と70席とで大差ないというのが実情でした。

9割を仕込む

そうなると、メニューを考える中で「丸の内店では出来たけれど恵比寿本店では出来ない」という料理が出てきます。それでも僕は、それに合わせて工程を減らすということはしたくありませんでした。そこでまず行ったのが工程とプロセスの見直しです。事前にどこまでやっておけるか、プロセスの入れ替えは可能か等々をとことん考えました。それに合わせてスタッフの思考も変えていきました。下ごしらえの考え方や手順など慣習的になりがちなので、考え方から変えないと新しいやり方を受け入れられません。

河野シェフもそうですが、ル・グラン・ヴェフールなどフランスの星つきレストランではよく「仕込み90%、サービス10%」と言われます。料理はお客様が来る前に9割方完成させておいて、注文が入ったら最後の1割を仕上げてお出しする、という考え方です。だからこそ「料理人1人×お客様10人」が成り立つ。そして無理と思えた料理も、「9割」への工夫次第でお客様にお出し出来るようになるのです。

改めて感じたフランス料理を作る喜び

常に工夫に頭を悩ませ、物理的なハードルもありましたが、恵比寿本店のシェフとしての日々は本当に楽しいものでした。元々働いていたので厨房の造りには慣れていましたし。スタッフともスムーズにチームワークを築けました。丸の内店にいた時から恵比寿本店に顔を出していてお互いに見知っていたのもありますが、初めてシェフになった時の挫折から得たものも大きかったですね。
それと、恵比寿本店のお客様は、フランス料理が本当に好きな方や古くからの河野シェフのファンの方が多いことも、料理を作る喜びを膨らませてくれたと思います。クレリエールの料理を召し上がったことのある方はお分かりだと思いますが、やはり僕は正統派のフランス料理が好きなんです。だからモナリザのフランス料理を作れることが喜びでしたし、フランス料理が本当に好きな方の反応は良くても悪くても大きな励みになりました。恵比寿本店のシェフ時代は、そのことを改めて実感した期間でもありました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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