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【MMPI2RF学習4】MMPIと発達障害の私的レビュー ~ADHD

 本ノートは、MMPIについて学んだことをシェアするためのものです。レビューなんていってるけれど、論文はちゃんとよんでなくて、アブストくらいしか見てません。系統だってもおらず、おもいつきでまとめてみました。


1,はじめに ~質問紙は脳機能の夢を見るか?


 MMPIで、はたして発達障害のアセスメントでなにができるだろう。第一にうかぶのが「そりゃなんもできねえズラ、MMPIってのは発達障害をみるもんじゃあねえズラ!」というもの。たしかに、MMPIって「発達障害の診断の補助に!」なんて売り文句はだしていません。
 っていうかそもそも世にいう神経発達症という一群にはその背後に「脳機能」とか「脳の特性」の問題がある、とされています。それはつまり質問紙で「脳の特性をはかります」ということがわかるなら、わかる。そのはず。しかしまあ、残念ながら少なくとも心理学で「脳を計る」なんて簡単なことは言えない。心と脳とどうちがう?なんて話題なだけでも話題に事欠かない。少なくとも「質問紙」というアイテムが、「脳機能」を計測しているぞ、とはいいがたい。心理学でいえば神経心理学的検査は脳機能と近くかかわりのある検査、といえます。(実際発達障害に対しての神経心理学的検査の研究もされています。)
 てなわけで、もう前提から「無理じゃね?発達障害、とらえきれねんじゃねえかそもそもよ、質問紙だもんよ」となっちゃいそうですよね。
 
 でも反対に、「発達障害の検査ってみんな”脳機能”関連、つまり神経心理学検査なん?」っていうとそうでもないです。むしろスクリーニングには非常に多く簡易な質問紙がつかわれています。
 しかもドイツの研究では成人のADHDの一時的スクリーニングが系統的レビューとメタ分析によってその有用性をあきらかにしています。(Johanna Louise Ganzenmüller ,2024)。ちなみにASRS,WURS,CAARS,TRAQ10は有用性あり、との判断。おお!つかえるんだぜ、質問紙。

 じゃあさ、スクリーニングくらいの役にはたったりするんじゃねえの?MMPI?どうなのさ?そんなことをおもっていくつかみつかった研究をいかに並べてみたいと思います。

2,ADHD

 先の、レビュー論文もADHDのスクリーニング質問紙が高く評価。こりゃ期待がもてるんだろうね。

(1)ADHD×機械学習

 何より、がっつりMMPIでADHDを鑑別診断していこう、との気概を感じるのが韓国の研究(Kim,2021)。ただ、機械学習MachineLearingとかをつかってADHDが識別できるか、という視点。論文をちらりとみても中身がわからないです(汗)。わかる範囲で見ればMMPI-2に機械学習を搭載、ASRSも併用してつかって、はてMMPIー2に症状を予測できるか。結果は診断精度が高い。

~~本研究の目的は、機械学習(ML)技術を備えたミネソタ多面人格目録-2(MMPI-2)を使用して、成人のADHD症状を予測することが可能かどうかを判断することです。 (2)方法:5726人の大学生から収集したデータを分析しました。MMPI-2再構成フォーム(MMPI-2-RF)を使用し、注意欠陥・多動性障害自己報告尺度(ASRS)を使用して成人のADHD症状を評価しました。
(中略)
結論:大規模グループでMMPI-2を使用したMLは、成人ADHDのスクリーニングで信頼性の高い精度を提供できる可能性~~

Kim,2021.Can the MMPI Predict Adult ADHD? An Approach Using Machine Learning Methods
Diagnostics 2021, 11(6)
アブストラクトより google翻訳

  ほう、MMPIー2はスクリーニングにつかえるかも、とな。ただ中略してる方法がぜんぜんわかんないんですよね。機械学習のなにか、なんでしょうね。MMPI解釈の根幹「尺度解釈」は重視してないようにみえるんですよ。研究中ほどにある、ASRS低群とASRS高群のMMPI2RF比較の図は参考になります。そして図表からは、ASRS高群は、MMPI2RFが全体に高い数値になる、とみえます。ここは大切なポイントでしょう。
 (余談だけれどこんな研究を見ると、いつか質問紙をPCに入力、AI君がアンサー出力、という時代になるのでしょうか・・・たぶん妥当性尺度なんかを見る限り、AI君だけが心理検査のすべてとははならないんだろうな、とはおもいますが)
 

(2)ADHD成人のMMPI2RFプロフィール

真打登場。Keezer ら(2023)です。

目的
~(前略)~この研究の目的は、ADHD の成人患者における MMPI-2-RF プロファイルの特徴を明らかにし、併存する精神病理の影響を調べることです。
方法
 MMPI-2-RF を完了した 413 人の成人が対象。ADHD のみと診断された 145 人、ADHD と併存する心理的障害を持つ 192 人、 ADHD ではない比較グループ 55 人が比較検討。ADHD のみのグループでは、ADHD の症状タイプ (主に不注意症状 vs. 混合症状) に基づいてプロファイルも比較されました。
結果
ADHD+心理的障害および比較グループは、ほぼすべての尺度で ADHD のみのグループよりも高いスコアを示し、臨床的にも広範な上昇が見られた。逆に、ADHD のみのグループは、Cognitive Conpliants Scale(COG)で孤立した上昇を示しました。ADHD の症状の比較では、いくつかの小さな~中程度の有意差が見られ、その最大の差は外在化尺度と対人関係尺度で見られました。
結論
ADHD のみを患い、他の精神病理を患っていない成人は、Cognitive Compliants Scale(COG)の単独上昇を特徴とする独自の MMPI-2-RF プロファイルを持っています。これらの結果は、ADHD のみを ADHD/併存精神病理と区別し、患者の不注意症状に寄与している可能性のある関連する精神科併存疾患を特定できるため、ADHD の成人の評価に MMPI-2-RF を使用することを支持しています。

Richard D Keezer et al(2023).Minnesota Multiphasic Personality Inventory-2-Restructured Form Profiles Among Adults With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Examining the Effect of Comorbid Psychopathology and ADHD Presentation
Archives of Clinical Neuropsychology, Volume 38, Issue 8, December 2023, P. 1671–1682
(google翻訳をもとに一部翻訳修正)

 この論文本体はよめてません(有料でよめる)。注目はMMPI-2RFの上昇の仕方。ADHDのみ群だと「COGだけが上昇」。ADHD+心理的障害群は、ADHDなしの比較群とおなじく「全体が上昇」する、とのこと。先の韓国の研究と合わせると、ADHDがあると精神病理が全体に底上げされる、のかもしれません。そういえばかつてMMPIでは「浮揚プロフィール」(尺度全体が上昇する)ってありました。このパタンは、境界性人格障害の特徴、といわれてもいました(ME上昇だよね。別なノートにもちらりとふれてます)。比較群も「全体が上昇」だとするなら、発達障害と人格障害の異同というのも重要なテーマ、でしょうね。
 閑話休題。MMPI-2RF全体の上昇、のみじゃADHDを見出せない、ポイントはCOGの上昇。
 でもさ、どうなんでしょうかCOG。そもそもCOGって「認知機能の不全の愁訴」をみるもの。じゃあ、この結果は要するにADHDの場合だと、COGが愁訴じゃなくて、リアルに注意機能に問題があることを反映しているよ、ということなのかな。愁訴なのかADHDなのかを鑑別せよ、それこそが臨床の問題だ、そうとらえていいのかもしれません。いずれにせよCOGは注目。

  ADHDを対象にした研究自体はあるのだけれど、あくまでADHDと診断された人の、2次障害的位置づけでの精神病理の判定としてMMPIを使っている研究もでてきます(例えばShura,R.D.2022)。ここではすべてADHDと診断を受けた人に対してサブグループに分けてMMPIを比較検討しています。この場合、前提にはMMPIを、ADHDの鑑別診断のためのツールとして使っているのではなく、あくまでADHDはほかのツールで測定。MMPIはADHD以外の精神病理の評価である、とらえているようです。

 続きます。


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