見出し画像

【MMPI2RF学習2】Fの極度の上昇は妥当性なしか病理ゆえか

 本ノートは、心理検査実践者向けのノートで、MMPIについて学び考えたことをシェアするものです。

1,Fの上昇は妥当性を問われない?

 MMPIは昔から「妥当性尺度」があって、本来は「偏った妥当性がない回答」を検出するもの、のはずです。 
 でも、MMPIの主要なテキストは「妥当性なし」と明確に書かれていませんでした。赤本ことフリードマンでは

 より最近の研究では、Fが25(※T=96)を超えるプロフィールでさえ解釈が可能で正確であることが示されている 

フリードマンら(1999)MMPIによる心理査定
( )は筆者による

 日本では、そのすそ野がさらに広がっているようにみえます。さらに広げているのは、
 「日本臨床MMPI研究会監修(2011)わかりやすいMMPI活用ハンドブック」、そして「日本臨床MMPI研究会監修(2017)よくわかるMMPIハンドブック」でした(以下:「わかりやすい」「よくわかる」)。
 まず端的に

解釈上はむしろ、検査に対する構えや検査態度、あるいはパーソナリティの基礎となるような基礎的な構え(自分自身をどのようにみているか、他者からどのようにみられようとしているか)を反映する

「よくわかる」p72

そうか、妥当性尺度ってえのは名ばかりか。でも別な機能が存在する、というものか。そういう理解でいました。だから実際に、Fがいくら上昇しようと、解釈をしていける、と考えていました。
 特に「わかりやすい」をみてみると、実に多くの実例がならびます。以下リストアップしましたが、いずれもF尺度が100を超えた上昇を示したもの。
 
①第5章 症例提示 症例4うつと解離性健忘p132
②第5章 症例提示 症例5 解離性遁走p141
③第5章 症例提示 症例7 10代の適応障害p161
④第6章 テストバッテリーの意義 境界性パーソナリティ障害の症例p218
⑤第7章 研究紹介 解離症状を有する患者の特徴(解離群)p253
⑥第7章 研究紹介 解離性障害の特徴(解離群)p270

  Fが極度の上昇、100を超えるプロフィールが「10代か、解離か、境界例か」によってあらわれてくる、ということがしっかりしめされています。
 

2,MMPI-2の移行期とMMPI-2RF

 MMPIからMMPI2への移行期の著作があるので見てみます。
 Greene,R.L.(1989).MMPI-2/MMPI An Interpretative manual.では基準を明確にしめしています。F=105以上は妥当性なしinvalid
   Duckworth,J.C & Anderson,W,C(1995)MMPI&MMPI-2 Interpretation Manual  for Counselors and Clinicians ではぼんやりしています。F=100以上だと、かなりの混乱があり、故意に「わるくみせかける」かもしれず、ひどい精神病理かもしれない、スコアミスかも、などと並びます。
 (その後MMPI2での展開、MMPI-2とMMPI-2RFへの移行期のことはわかりません。)

しかしその後、変わっていきます。
MMPI-2RFでは、

F=100~119は「妥当性がないかもしれない may be invalid」
F=120以上は「妥当性なし invalid」

Y,S,Ben-Porath(2012) Interpritating the MMPI-2RF.University of Minesota Press.

ちなみにMMPI-3ではF=100以上を妥当性なし、としています。
そうか、ついにしっかりと線が引かれたんだ。Fはちゃんと機能する、だいたい100以上は「妥当性なし」なんだ。

3,埋もれた指標MEと、考察

 

埋もれた指標MEの語るもの

 と、これまでのを並べていると、ふと思い出したものがありました。そうだ。MMPIのME(平均上昇)なる指標。臨床尺度を足した平均値、というシンプルな指標。当然この数値があがるっていうことは、臨床尺度全体が爆上がりしてるっていうこと(そしてたいていそういうときはFだってあがる。Fは臨床尺度全体と重複しているのだから、当然あがる)。
 このMEの解釈、Fの極端な上昇時の解釈と参考になる、と前からおもってたんです。ME=75以上(K修正なしで70以上)のときは

1)急性の精神病的エピソードで、心理学的査定の必要がないほど明白な状態
2)境界性パーソナリティ障害
 ~中略~
 しかし臨床経験からはそのようなプロフィールは混乱、読解力の不足、あるいは悪く見せかける回答態度の結果であることのほうがむしろ多いといえる

E.E.Levitt&E.E.Gotts(1995)MMPI追加尺度の臨床的応用第2版.

  1)はいわずもがな。2)の境界例を挙げるのは、まさに上記してきた、「わかりやすい」の報告と一致します。つまり、これは本邦の報告だけじゃない、ぞ。
 そして臨床経験という部分、「混乱、読解力、悪く見せかける回答態度」。これはのちにMMPI-2RFでしっかりみられることになる妥当性尺度と同じ視点をもっています。2RF以降は、悪く見せかける=「過剰報告」の問題は特にクローズアップされています。

むむむとうなりつつ考察

  はてFが100を超えたら、妥当性なしとスパッと切り捨てるものか、それとも「10代、解離、境界例」の声を今も聴くべきでしょうか。
 そもそも「あれ、妥当性尺度っていう割には、妥当性なしってしないの?なんだこれ?」と思っていたかつての疑問。今までのMMPIを学び実践してきた経験では「そうか妥当性尺度いうてもめったに妥当性なし、なんてないものな」と思っていました。でもついにはっきりした基準が登場。本来あるべき姿にもどった現在、ともいえます。
 Fは確かに、MMPIのころから設計はおなじ。標準化集団がめったに答えない項目で作られています。でもMMPIからMMPI-3だって項目がずいぶんちがいます。(ちなみにMMPIは64項目、MMPI-3は35項目。両者の重複は22項目。筆者調べ、MMPI-3マニュアルより)。
 おそらく間違いないことは、現行のMMPI-3の使用では、当然マニュアルを守りFが100を超えたら、妥当性なしと評価すべきでしょう。研究によって進歩する。それはわかってはいるんですが、今までの経緯が過去の研究の言葉たちが「むむむ」とうならせます。かつて投与していたのに効果が否定され愛用の薬が使えなくなった内科医のごとき「むむむ」でしょうか。 
 だからすくなくともぼくには脳裏の片隅に、「10代、解離、境界例」たちがざわめきます。そう、少なくともMMPI時代の研究、症例には報告がある。「わかりやすい」「よくわかる」系の著者ばかりではない、MEの上昇だって、似たような見解が、ある。もちろん、それがかなり内容的にもことなってきたMMPI-2RF以降に、この経験がどれくらい反映するかはわかりません。Fが100以上のプロフィールに出会って、「妥当性なし」と評価してしまう、そのまえに。いつかわすれられてしまうかもしれない「10代、解離、境界例」たちのほうをちらみしてみましょう。視野がひろがるのではないか、と考えております。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?