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不登校経験じゃない!フリースクールスタッフに必要な資質についての私見

こんにちは、得津です。

私は滋賀県や京都府でフリースクールの経営をしています。その関係で、フリースクールの立ち上げや就職を検討している学生さんや社会人さんとお話しすることや、ご連絡をいただくことがあります。

連絡の多くに含まれているのが、

「自分には不登校(あるいは引きこもり)の経験があって、その経験を生かせるのではと思い・・・・」

という文言です。

フリースクールを経営し、日頃から子どもたちとスクールで関わり、保護者さんの相談を受けている立場としては、この不登校だったという当事者性は必要条件ではないと思っています。個人的に。十分条件ではあると思いますが。


ではフリースクールのスタッフには、どんな資質があればいいのか。

フリースクールは、社会教育法や学校教育法などの法律で要件が定められていないので、あくまで私見になりますが、フリースクールの立ち上げや就職、あるいはカウンセラーなどの心理職をめざしている方々のご参考になれば幸いです。

※以下に挙げる資質の全てを、一個人が持っている必要はないと考えています。学校では「チームとしての学校」という文言で、職員間の協力を促そうとしていますが、フリースクールも同様に、自分にない部分や苦手な部分は別の人に頼って良いはずです。


フリースクールスタッフに必要な資質

1、フリースクールや不登校に関する国の答申を把握している
2、複数の不登校に関する書籍や論文、研究に目を通した経験がある
3、幅広い教養
4、管理する力
5、情報の適切な運用
6、自分の主義主張と違う人ともお話しできる態度
7、自分の関わりや指導を見直し、子どもにとって適切な関わりや指導を探る態度
おまけ:では自分の当事者としての経験は何に役立つのか


ざっと挙げると以上が浮かびます。一つひとつについてご説明しますね。


1、フリースクールや不登校に関する国の答申を把握している

フリースクールを立ち上げたりスタッフとして活動したりしていると、学校や福祉職の方々とも関わりをもつことがあります。フリースクールのスタッフは、子どもたちとだけ関わる毎日を過ごすというのは無理です。

どうやっても保護者さんや学校の先生、福祉職の方やカウンセラーさんなどなど、多様な職種の人とも関わります。

このような多様な人と協働していく上で、考え方のベースとなるのは国の答申です。国がいま、フリースクールや不登校についてどのように考えているのか。不登校の解決について、どのような方向性を示しているのか。多様な立場の人と協働していくことの価値などが国の答申にまとまっています。

国の答申の全てを細かく見なくても、概要をざっと目を通すだけでも随分ちがいます。知っているということが何よりも重要です。



2、複数の不登校に関する書籍や論文、研究に目を通した経験がある

お気づきかも知れませんが、「複数の」というところがミソです。不登校に関する書籍や研究は想像以上に多いです。多いのですが、著者によって全く主張が違うこともあります。複数の書籍や研究に、ざっとでも目を通して理解することで、自分の不登校観や子ども観、教育観の偏りに気づけることでしょう。

正直なところ、こんなことは不登校に限らず、どんな分野でも当たり前の態度だと思いますが、わざわざ書くのは自分の当事者性やかいつまんだ知識による偏見などから、「フリースクールにいる子どもたちは可哀想な子どもたちだ」とか、「いまこの子たち傷ついているのだからとにかく優しくすることが大事だ(だって私がそうしてもらいたかったから)」という視点で、私のスクールに見学に来る人がいたからです。驚かれるかも知れませんが本当です。



3、幅広い教養

この言葉がそもそも幅が広すぎましたね。ごめんなさい。フリースクールで子どもたちと関わっていると、遊びの中からでも学びにつなげたり、些細なことでも意味や価値を言葉にしたりすることが、スクールの卒業や自立に繋がると思っています。

そのためには、何でもいいんですけど、知っていることが大事です。私のフリースクールにいるスタッフやボランティアさんたちは、たまたまですけど一芸に秀でた人が多いです。

英検一級を持っている、全国大会に出場したくらい楽器が上手、キャラクターデザインが得意、めちゃくちゃ勉強ができる、などなど。

当事者性以外の武器があると、子どもとの接点を持ちやすいので、何かしら自分の趣味や得意なことがある人はどんどん子どもたちに紹介して欲しいですね。

ちなみに私はこれといった特技も趣味もありません。ですので、とにかく子どもの関心に関心を寄せました。具体的には、子どもたちからオススメのYouTuberとゲームを紹介してもらい、Youtubeでそれらを見漁りました。すると、全く知らないものを紹介されても「◯◯に似てる感じ?」など、これまでの会話よりも突っ込んだ会話ができるようになりました。

勉強や教養は、子どもたちと関わる上で極めて重要です。語れる言葉やエピソードの重みが違います。できる活動の幅が大きく広がります。


4、管理する力

「管理」なんて言われると、閉塞的な学校現場をイメージして、嫌になりますかね。けれど、管理する力は子どもたちや保護者さん、関係機関と関わる上で欠かせない力です。

フリースクールを立ち上げたり、スタッフとして関わるようになると、おおよそ以下に挙げるような事柄を管理することになります。

・子どもや家庭の個人情報(まとめましたがめちゃくちゃ細かいです)
・スクールに通う子どもたちの日々の健康状態
・お金
・スクールへの出席状況(学校がフリースクールを出席扱いにしているなら特に)
・備品や教材、スクールの環境
・スクールの写真やデータなど

規模感の違いはあれど、学校や塾が管理するものとほぼ同じものをフリースクールでも管理するようになります。先ほども言いましたが、フリースクールの運営やスタッフについて、社会教育法や学校教育法のような法律での定義はありません。ありませんが、これらの管理は、公務員と同じくらいの矜恃を持って管理するのが適切であると考えます。

私が学生の頃にお世話になった教員養成課程の大学の先生は、こう言っていました。

「教員に必要な力は3つある。管理の力、指導の力、人格の力だ。何においてもまず重要なのは管理の力だ。これは誰でも身に付けられるものであり、一番重要な力だ。」

社会人になり、先生の言わんとすることが身に染みてわかります。



5、情報の適切な運用

管理が大事と言いましたが、全てを内にしまっていてはフリースクールの様子が分からず、保護者さんにとっては問い合わせを躊躇させる要因になります。教育委員会が持っている教育支援センター(旧称:適応指導教室)という施設があります。教育委員会のフリースクールみたいな施設です。

「市町村の名前 教育支援センター」あるいは「市町村の名前 適応指導教室」で検索してみてください。

日々の様子が分かる写真が少ないことに気づかれると思います。

学校に行けなくなり、別の居場所が合うかどうか不安な保護者さんやおこさんにとって、様子がわかるというのは大きな安心材料になります。

教室の写真や、掲載許可を得た子どもや活動の写真を、ブログやSNS、ホームページに載せることはフリースクール運営にあたっては必須になってくるでしょう。



6、自分の主義主張と違う人ともお話しできる態度

一番でも言いましたが、子どもだけじゃなく多様な職種の人と関わることになります。中には主義主張が違う人や、合わない人とも関わることがあります。仲良くなれとは言いませんが、子どもの教育を担う立場同士ですから、せめて妥協点を探れるくらいにお話しできる態度は持って欲しいです。

「なんでそんなことを言うんだろう」と思うような人とも出会うでしょうけれど、きっとその人なりの背景や思想があるんです。それは無碍に否定されるべきものではありません。(そう思わないとやってられない時があります。)


7、自分の関わりや指導を見直し、子どもにとって適切な関わりや指導を探る態度

これも文字にすれば当たり前なんですけど、行うにはなかなかに難しい要素です。子どもとの関わりは葛藤の連続です。正解なんてないですし、上手くいったと思った成功体験が、自分の目を曇らせる要因になることだってあります。

いま目の前にいる子どもにとって、自分の関わりや指導、あるいは教室の環境が適切であるかどうかは、折に触れて見直したいところです。

とはいえ、自分一人で関わりや指導を見直すより、可能なら誰かと行うほうが、運営の点からも個々の指導力向上の点からも有効です。私のスクールでは生徒たちが帰った後に、その場にいるスタッフやボランティアさんたちと2〜30分の簡単なふり返りをしています。

将棋の感想戦みたいに、あの場面では何をいえばよかったんだろう、次はこうしたらどうだろうかなんてことを話しています。短い時間でも、ふり返りが有るのと無いのとでは、スクールの質が段違いです。


おまけ:では自分の当事者としての経験は何に役立つのか

ここまで、当事者性とは全く違う事柄を資質として挙げました。不登校の経験がない人でも、これらの資質を高めようとする気持ちや態度があれが、フリースクールスタッフとしてやっていけるのではないでしょうか。

では、不登校や引きこもりなどの経験や当事者性は何に役立つのか。

これについて、自分の考えを述べてこの記事は終わりにします。

私は、不登校や引きこもりなどの経験は、フリースクールの広報に役立つと思っています。有り体に言ってしまいますが、「スタッフに不登校の経験がある方がおられるので連絡しました。」という保護者さんからの連絡は結構多いです。

興味深いのが、子どもにとっては、ご自身の過去の不登校経験はあまり重要ではないということです。子どもが重要視するのは、そこにいるスタッフや生徒たちは自分にとって安心安全かどうか、教室の環境が自分にとって安心安全かどうかです。

生徒が、スタッフの過去の経験から進路などのアドバイスを求めることはゼロではないです。ゼロではないですけど、多くもないです。というか、滅多にないです。

けれど、保護者さんにとっては、自分が経験していないことだからこそ、過去に不登校を経験した立場からの知見が魅力的に思えるんでしょう。餅は餅屋なんでしょうね。私だって、未経験のことをするときは些細なことでも経験者から話を聞きますもん。例えば、家具や家電を買うときはめちゃくちゃいろんな人に聞いてしまいます。失敗したくないですから。

ご自身の過去の不登校経験をどう出すかは、広報戦略次第でしょうけど、少なくとも私の運営するフリースクールでは、保護者さんから選ばれる理由の1つになっています。

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