【朗読】立原道造「鉛筆のマドリガル」
Hideo Saito
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*朗読のテキストは岩波文庫版『立原道造詩集』に準拠しています。
鉛筆のマドリガル
夕方くらくて町で人かげを見た 僕はまちがへた
長いこと お前がここで待つてゐたと ほんとだらうか。
☆
僕の口ぐせによると
僕はいつでも困つてゐた
そんな筈はないんだが
(からつぽの帽子を机にのせて
僕はしばらくぼんやりしてゐる)
窓はすばらしい天気だつたが
もし僕がそこへ出て行くなら
あの青空はきれいすぎるだらう
(出かける仕度をしたつきり
机の上に頬杖をついてゐる)
どうしていつもかうなんだらう
☆
幾日も会はないままに 或る日は思ひ 思はぬままに
僕は裏切つた 僕を お前を それから僕を
どうしたらよいか知らないくせに ぢつとしてゐた
ずるかつた――お前は待つてゐた きつと
☆
昨夜は おそく
歩いて 町を帰つたが
ひとつの窓はとぢられて
誰も顔を出してゐなかつた
僕に歌をうたはせないために
だけれど僕はすこしうたつてみた
それはたいへんまづかつた
僕はあわてて帰つて行つた
昨夜はおそく 歩いたが
あれはたしかにわるかつた
あかりは僕からとほかつた
僕の背中はくらかつた
☆
ねむがりの僕が或る晩おそく散歩に出かけたら
それつきりなのさ 僕は橋の上でぼんやり水を見てゐた
それから水の上に長いかげを揺らしてあかりがゐた――それつきりなのさ
鉛筆のマドリガル
夕方くらくて町で人かげを見た 僕はまちがへた
長いこと お前がここで待つてゐたと ほんとだらうか。
☆
僕の口ぐせによると
僕はいつでも困つてゐた
そんな筈はないんだが
(からつぽの帽子を机にのせて
僕はしばらくぼんやりしてゐる)
窓はすばらしい天気だつたが
もし僕がそこへ出て行くなら
あの青空はきれいすぎるだらう
(出かける仕度をしたつきり
机の上に頬杖をついてゐる)
どうしていつもかうなんだらう
☆
幾日も会はないままに 或る日は思ひ 思はぬままに
僕は裏切つた 僕を お前を それから僕を
どうしたらよいか知らないくせに ぢつとしてゐた
ずるかつた――お前は待つてゐた きつと
☆
昨夜は おそく
歩いて 町を帰つたが
ひとつの窓はとぢられて
誰も顔を出してゐなかつた
僕に歌をうたはせないために
だけれど僕はすこしうたつてみた
それはたいへんまづかつた
僕はあわてて帰つて行つた
昨夜はおそく 歩いたが
あれはたしかにわるかつた
あかりは僕からとほかつた
僕の背中はくらかつた
☆
ねむがりの僕が或る晩おそく散歩に出かけたら
それつきりなのさ 僕は橋の上でぼんやり水を見てゐた
それから水の上に長いかげを揺らしてあかりがゐた――それつきりなのさ
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