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ブドウの花が咲く季節

 山梨県ではいよいよ甲州ブドウの花が咲きはじめ、畑の中は甘い香りでいっぱいだ。花見をするには、あまりに小さく可憐であるため、見所は少ないブドウの花ではあるが、バラに似た甘い芳香があり、畑の中にいるとちょっとした天然のアロマテラピーを受けているような感覚になり、癒される。

 この香りは、主に「花粉」から発せられる。花は一般にこの花粉由来の甘い香りでミツバチなどの昆虫を呼び寄せ、花粉の伝搬を手伝って貰っている。野生種のブドウは雌雄異株であり、昆虫の助けなどが必要だが、現在栽培されているブドウは、基本的には雌雄同株であるため、雌しべと雄しべの距離が近く、自家受粉或はつぼみの段階で受粉を終えている場合が多い。

ブドウの香りの正体

 このブドウの香りの正体は、主にセスキテルペノイドという香気成分に由来する報告が1994年にされている。セスキテルペノイドとは、植物が作る化合物の総称であり、植物ホルモン、病原菌への抵抗性を高めるなど、様々な役割を持っている。一般に植物から作られるエッセンシャルオイルの主成分でもある。

Buchbauer, G., Jirovetz, L., Wasicky, M., & Nikiforov, A. (1994). Headspace analysis of Vitis vinifera (Vitaceae) flowers. Journal of Essential Oil Research, 6(3), 311-314.

 以下にブドウの花に含まれる代表的な5つのセスキテルペノイドの仲間をまとめてみた。検出例のある代表的な植物も一緒に挙げたので、香りをイメージする際の参考にしてもらえばと思う。

セスキテルペン

ブドウの花にも品種特徴香がある?

 もうひとつ、面白い報告例があったので、紹介する。イタリアの研究者らの報告によると、ブドウの花の香りにも品種によってセスキテルペノイドなどの香気成分の組成が異なるということだ。

Barbagallo, M. G., Pisciotta, A., & Saiano, F. (2014). Identification of aroma compounds of Vitis vinifera L. flowers by SPME GC-MS analysis. Vitis J. Grapevine Res, 53, 111-113.

 マスカット系の品種である G r i l l oとZ i b i b b oは、α-farneseneの異性体のβ-farneseneの含有率が最も高く、40%を超えるのに対し、カベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランは、β-farneseneの含有率は低く、オレンジの果皮に多く含まれる(+)-valenence、そのほかα-selinene、β-caryophylleneがそれぞれ20%の割合を占める。ブドウの花にも品種特徴香があり、違いがあることがとても興味深かった。別の品種の花の香りの比較をしてみたいと思った。

 以下、過去に紹介したブドウ品種の親子関係をまとめた記事で紹介したように、ソーヴィニヨン・ブランはカベルネ・ソーヴィニヨンの親であることが知られている。花の香りも親から子に遺伝し、共通点が生まれているのだろうと思う。

最後に

 もうすぐ6月になる。このまま穏やかな天候が続き、甘い香りが漂う中、ブドウの受粉が滞り無く終わることを期待したい。

 9月から10月にはきっと充分に熟した果実が収穫できることを祈りつつ。

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