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ブドウ品種の親、兄弟を知るとワインがより面白くなる

 ブドウは、世界中で栽培されている農作物であり、その栽培面積は約8,000,000haに及ぶ。その多くがワイン用とされ、他には生食用のフルーツ、レーズン、ジュース、蒸留酒用に使われている。

 そのうち、いわゆるヨーロッパブドウは、黒海及びカスピ海沿岸に由来し、野生種であるVitis vinifera subsp.sylvestrisから、栽培種であるVitis vinifera subsp. viniferaが6,000年から8,000年前に生まれ、栽培が始まったとされる。そして、それ以降、交雑や栄養繁殖によって、現在までに数千にも上るブドウ品種が生まれ、栽培されている。ピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンといった有名なブドウ品種もその中に含まれる。

 近年、遺伝学的研究が進み、それら有名なブドウ品種がどのように生まれてきたのか、他のブドウ品種との関係(親子或は兄弟関係)が明らかとなってきた。

ブドウの分類

以下、ヨーロッパ系ブドウの分類を示す。

科:ブドウ科 Vitaceae

属:ブドウ属 Vitis

種:Vitis vinifera

野生種と栽培種が存在する。花の構造が異なり、栽培種は両性花だが、野生種は雌雄異株である。先に述べた通り、野生種はVitis vinifera subsp. sylvestris、栽培種はVitis vinifera subsp. viniferaと呼び、両者は亜種として分類されている。以下にブドウ科の家系図全体像をまとめた。今回触れるのは、赤枠で示したヨーロッパ系のところ。

ブドウ科家系図

カベルネ・ソーヴィニヨンの両親

 ソーヴィニヨン・ブランとカベルネ・フランの子孫であり、両者の自然交配によって17世紀頃に生まれたとされる。既に発表されてから20年以上経過しているので、有名ですね。

Bowers, J. E., & Meredith, C. P. (1997). The parentage of a classic wine grape, Cabernet Sauvignon. Nature genetics, 16(1), 84-87.

シャルドネの両親と兄弟達

 シャルドネの片親は、言わずと知れたピノ・ノワールである。もう一つは、グーエ・ブラン(Gouais blanc)というブドウ品種だ。このグーエ・ブランというのは、品質的に優れておらず、いくつかの地域では栽培する事が禁止されたブドウ品種であり、フランスではもはや栽培されていないとされる。名前であるGouaisの由来も酷く、「冷笑」を意味する古いフランス語の形容詞である「gou」が起源である。中世にはフランスの北東地域には広く栽培されていたが、畑の中のより良い区画にはピノ・ノワールなどのブドウ品種が植えられ、それ以外の平凡な区画にはこのブドウ品種用に仕向けられたとされる。とても不遇なブドウ品種である。由来は諸説あり、東欧が原産とされ、1説にはローマ帝国皇帝のプロブスによりもたらされたという。

 当時は「冷笑」されるようなどうしようもないブドウ品種だったかもしれないが、現在世界的に栽培されているシャルドネの片親として素晴らしい仕事をしてくれた。

 この両親から生まれたブドウ品種は、シャルドネ以外にも、アリゴテ、ガメイ・ノワール、ムロン・ド・ブルゴーニュ(ミュスカデ)などが挙げられる。つまり、上記ブドウ品種達は、シャルドネと兄弟ということになる。

Bowers, J., Boursiquot, J. M., This, P., Chu, K., Johansson, H., & Meredith, C. (1999). Historical genetics: the parentage of Chardonnay, Gamay, and other wine grapes of northeastern France. Science, 285(5433), 1562-1565.

シラーの両親とそのひいおじいさん

 フランス南東に位置するアルデーシュ地方に由来するデュレザ(Dureza)というブドウ品種と、サヴォワ地方に由来するモンデューズ・ブランシュ(Mondeuse Blanche)が両親となり、生まれたとされる。

 さらに、片親のDurezaにとって、ピノ・ノワールは近縁(祖父、叔父、或は片親が異なる兄弟)であることが報告された。このことから、ピノ・ノワールは、シラーのひいおじいさん、或は大叔父、いとこの関係かもしれない。以下、引用元の論文にあった図を転載する。

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Vouillamoz, J. F., & Grando, M. S. (2006). Genealogy of wine grape cultivars:‘Pinot’is related to ‘Syrah’. Heredity, 97(2), 102-110.

その他、複数多品種の親子関係

 1000種類以上のブドウ品種を網羅的に調べた論文を最後に紹介する。この論文によると、先に紹介したカベルネ・フランやソーヴィニヨン・ブランがカベルネ・ソーヴィニヨンの親である事を改めて確認できた。

 さらにトラミネールが、ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを含む、20品種の親であることが示された。トラミネールは、フランスではサバニャンと呼ばれ、ジュラ地方で伝統的に栽培されているブドウ品種である。トラミネールとしてはオーストリアがワイン生産地として有名である。

 その他、ソーヴィニヨン・ブランとシュナン・ブラン、シラーとヴィオニエも兄弟であることを示唆している。以下、引用元の論文にあった図を転載する。

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Sibling :兄弟 Parent-offspring:親子(親 → 子)

Myles, S., Boyko, A. R., Owens, C. L., Brown, P. J., Grassi, F., Aradhya, M. K., ... & Bustamante, C. D. (2011). Genetic structure and domestication history of the grape. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(9), 3530-3535.

最後に

 ブドウ自身の外見や、出来たワインの香りや味わいに関して、何となく異なるブドウ品種間で共通点を見つけることがあると思う。

 近縁なブドウ品種はそれぞれが持つ個性を、シェアしている場合が往々にしてある。

 ワインを飲みながら、ふとそれらブドウ品種の生い立ちに想像を飛ばしてみても面白いかもしれない。


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