22歳の別れ。
若い頃、僕は彼女よりも煙草を選ぶような男だった。
22歳の誕生日の少し前だった。
「わたし煙草嫌いなんだよね」
その頃付き合っていた彼女に、そんなことを言われた。
僕の選択肢は二つだ。
1.彼女のために煙草をやめる。
2.彼女と付き合うのをやめる。
さて僕はどっちを選択したのでしょう。
「僕が煙草を吸う男だって」
「知ってて付き合ったんじゃないの?」
僕は彼女に冷たくそう答えた。
彼女が煙草が嫌いだからといって、今さら煙草をやめる選択なんか僕にはあり得なかった。
誰かのために自分を変えるなんて出来るわけなかった。
まだ若かったからかも知れない。
いやいや、
誰かのために自分を変えるなんて、今のこの歳になってもできっこないだろう。
僕はそんな男だ。
僕のその返事を静かに聞いていた彼女。その眼差しは心なしか、少し寂しげに見えた。
その日を境に彼女からの連絡は途絶えてしまった。
僕の誕生日を過ぎてもいっこうに彼女からの連絡はなく、強情な僕はもちろん自分から連絡することはなかった。
ちなみに当時はポケベルが全盛期。
携帯電話なんてツールもなかったから、連絡手段は家電か公衆電話。若しくは手紙という、アナログな時代。
連絡を取らないことで、自然消滅していった友人たちを何人も知っていた。僕と彼女も、その中の一組になってしまうのだろうと考えていた。
自分のために煙草をやめてくれない僕に、彼女は愛想を尽かしたのだろうと思った。
まあ、それも仕方ないなと。
「22歳の別れ」
そんな曲がよく似合う誕生日だったのかも知れない。
僕にお似合いの曲だ。
駆け引きで言えば、僕は完敗だったと思う。
それから数日過ぎたある日。
突然、僕の部屋に彼女が訪れた。
「誰も誕生日を祝ってくれなかったでしょ」
彼女は笑って僕にそう言った。
その頃の僕は人付き合いが悪く、ついでに人見知りの人間不信で友人も多くはなかった。
それは今でもあまり変わっていない。
「ケーキ食べた?」
「いやまだ」
「やっぱりね」
そう小さく囁くと、彼女は後ろ手に隠していたケーキの箱を僕に差し出した。
「はい誕生日おめでとう」
「わたしがいないと誰もあなたを祝ってくれないだろうなって」
小馬鹿にしたような笑い顔を僕に向ける彼女。
でもその笑顔は優しかった。
「一緒に食べよう」
「寒いからお部屋に入れて」
彼女はそっと僕の首に手を回して、頬を寄せた。
そして、
「やっぱり煙草くさい」
小さく囁いて、彼女は優しく唇を重ねた。
悔しいけど、
何となく負けた気がした。
僕は22歳のあの頃に、タイムトリップしていた。
仕事終わりの車の中。
車のラジオから「22歳の別れ」が流れてきていた。
その懐かしいメロディを聞きながら、僕は22歳のあの頃にタイムトリップしていた。
いったい何十年前の話しじゃ。
「一場面小説」という日常の中の一コマを切り取った1分程度で読めるような短い物語を書いています。稚拙な文章や表現でお恥ずかしい限りではありますが、自分なりのジャンルとして綴り続けていきたいと思います。宜しくお願いします。