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「モンスターズ・リーグ」の感想。ポストカンフーパンダ(になり得たかもしれない怪獣レスリング映画)

巨大怪獣達が、人間をコーチにつけてレスリングをする!って予告がめっちゃ面白そうだったので見てみた。

カンフーパンダっぽいな。

何よりもまずカンフーパンダっぽいな〜と思った。コーチと選手が共に成長していったりとか、才能のない男が、長所とも思っていなかった自分の好きなことをうまく使って修行していくところとか。

大好きなダンスをフットワークに取り入れる主人公

これならカンフーパンダの方が面白いよな、と思っていたけど、見ているうちに意外と面白いことに気付いてきた。
具体的には、主人公達が試合をし始めて、その非レスリング的な戦い方をテレビが叩いて、街の人達も興味を示さない辺りの展開は面白かった。
というか、面白くなりそうな予感がしていた。
以下、映画がまだ面白そうだった頃に書いた感想。

ポストカンフーパンダ的映画。自分らしさとそれを評価する世界。

この映画はカンフーパンダで語られていなかった点に足を踏み入れ、議論をさらに先に進めたものになっている。つまり、自分らしさとそれを評価する世界との関係だ。

ガチガチの筋トレは無理だよ〜
→父親みたいにはなれないんだよ
→じゃあ自分らしい練習をしよう
本作のこの流れだけを見ると、カンフーパンダのパターンをなぞっただけのように見える。

しかしカンフーパンダのポーやシーフー老子が「竜の戦士」という形のない象徴に囚われていたのに対して、こちらには伝説的なレスラーであった父親という明確なモデルロールがいる。

カンフーパンダでは明確なモデルロールがなく、更にカンフー世界の価値観を司るのがウーウェイ老師1人だったが故に、彼が良いとすればそれは絶対的に良いことになっていた。

それ故にタイランが闇落ちしてしまったという業の深いシステムではある

そして彼がいなくなった後には修行における正誤の価値基準がなくなり、ポーの仕上がりを判断するのは、(シーフー老師を除けば)敵であるタイランただ1人になった。

そんなポーの仕上がりについて、ポーは白紙の龍の巻物を見て、ラーメン屋の父親に話を聞くことで以下のことを学んでいた。
理想の何かなんてなく、あるのは自分だけ、開いた時に映るのは自分の顔。スープが特別だと信じれば特別なスープになるし、自分を信じれば特別な自分になれる。
つまり自分らしい竜の戦士になりましょねーということ。

そしてここが肝心なんだけど、カンフーパンダではその自分らしさが外部から批評されることはない。だってこの世界唯一の価値基準であるウーウェイは既にいなくて、あるのは敵と自分、どっちが勝つかという物理的な勝敗だけだから。

しかしこちら(モンスターズ・リーグ)では毎試合がテレビで中継され、その戦いぶりの良し悪しを決めるのは敵ではなく観客達になる。
ショービジネスであるプロレスにおいては戦闘技術よりもむしろ精神性の方が重んじられており、みんなスティーブの父親という明確なモデルロールを知ってしまっているので、異端な戦い方で勝ちを掴む彼らはテレビでメタクソに批判される。

このモンスターズリーグの問題定義は、勝つことでその精神性が正しかったということが自動的に認められるカンフーパンダから、さらに一歩進んでいるように思える。
自分らしさと、それを評価する世界との折り合いをどうつけるのかが楽しみ。

精神性とかいうとちょっと言葉の意味が大きくなってしまうけど、ここでは勝ち方、立ち振る舞いという意味で使っている

そんな話では全くなかった。そもそも怪獣映画ですらなかった。

ここまでが主人公達が試合に出始めて1〜2戦目の頃に抱いていた感想だ。
しかし話は期待していた方には進まず、試合が進むにつれて、彼らを応援するファンは普通に増えていった。

そして結果的にこの話は、情緒不安定な少女と情緒不安定な怪獣が偉大な父親を誇りに思ったり重圧に感じたりをずーっと繰り返すだけの退屈な話に落ち着いていた。

一度面白そうと思わされただけに失望は大きく、大嫌いな映画になった。裏切られた気分だ。
レスリングという題材こそ、自分らしさと観衆が求めるキャラクターのギャップだったり、何者かを演じることだったりを描くのにぴったりのものだったと思うんだけどな。

あと、この映画の致命的にダメな点は、大きな怪獣と小さな人間の非対称な関係性が描かれないことだ。これではそもそも怪獣の映画なのかどうかも疑わしい。
人間なんて一瞬で殺せるであろう彼らの暴力性がリングの外に漏れ出ることは決してなく、彼らはただ見た目が派手なレスラーとしてしか存在していない。

怪獣がレスリング周りでしか社会的な立場を持ってないってのもつまらないんだよな。
怪獣の存在を前提とした社会の描写が薄い。

結論:普通に退屈な映画でした。

改めて見ると、メインビジュアルからしてダメそうな雰囲気は漂っていた。特に目。目がダメそう。

その他、細かな感想。

・ダンスで戦うのは結構だけど、練習の中で身に着けた特徴的なステップを実践で見せてくれるとかいうサービスもなし。アクションが適当すぎるんだよな。

・市長にはずっとムカついていた。「もうサインしちゃった〜」とか。爆破されるスタジアムを泣きそうな目で見てるのとか。

・CGのクオリティは正直低かった。テレビシリーズっぽい。ディズニーやらドリームワークスやら、競合が強すぎるというのはある。

・脚本を担当しているイータンコーエンは、大傑作「26世紀青年」の脚本も書いてる。当たり外れが大きすぎない?楽しみにしている「バッドガイズ」の脚本も担当しているようなので、あれがどっちに転ぶのか不安。

・カンフーパンダについて。
あの名作の持つ1番の問題点は、「あなたはあなたでしかなく、あなたらしくあるべきだ」
という内容の竜の巻物が、しかし神秘的な方法で選ばれた者にしか与えられないという点にある。
要は、タイランが凄い可哀想ということ。

追記

カンフーパンダ4が公開決定だって!?
やった!やったー!!!!

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