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「四畳半タイムマシンブルース」の感想!

四畳半神話大系は人生で5本の指に入るくらい大好きなアニメ。なのでこれも発表されたときからずっと待ちわびていた。
(サマータイムマシンブルースも見たことはあると思うんだけど、記憶はほぼ残ってない。)

最高の映画だった。懐かしすぎた。しかし無視できない汚点もあった。

最高の余談。

四畳半神話大系(ここからは本編と呼ぶ)で語るべきことは全て語り終えてしまっているので、今作は続編ではなく、余談や番外編のような感じ。
本編から物語が進展するようなことはないし、本編の価値観を相対化するような視点もない。
しかし四畳半神話体系という話が余談をこそ肯定するような話だったので、その1バリエーションとして楽しめた。

本編が基本的に2年間のあらましを語り直し続けているのに対して、今作は昨日と今日という局所的な時間を描いている。
また、本編が全11話のテレビシリーズだったのに対して、今作は1本の映画として成立している。
なので本編の、きっちり敷き詰められた畳の美しさを楽しむように、語り直す手際の様式美を楽しむパズル的な魅力は、今作では昨日に布石として撒かれていた変な細部を、今日の側から解き明かしていくこれまたパズル的な魅力に置き換えられていた。
これもまた良し。というか、雰囲気が良すぎてなんだって許せちゃう。

四畳半シリーズに共通するパズル的面白さを、重要なモチーフである畳に擬えてなんか上手いこと言えないかなと思ったけど、全然上手くいかなかった。

湯浅監督から夏目真悟監督に代わったことで、本編の自由奔放だったアニメーションが、今作ではかなり落ち着いていた。人体構造に忠実になったというか。普通のアニメになったとも言えるけど、登場人物達の肉感がより伝わってきてこれはこれで良い。
明石さんがとても可愛い!!
(普通のアニメになったとはいったけど、これでも画面から十二分に独特な雰囲気は出ていて、これはキャラデザや背景美術のセンスが偉大だよなと思った。品がある。)
夏目監督ならではの決まってる構図なんかもあって、見ているだけで楽しかった。

汚点1

ずっと楽しく見ていたんだけど、しかし最後の最後で、田村くんが私(補足1)に自らの正体を明かして、明石さんの未来を確定させてしまったのが遺憾だった。

補足1:私
ややこしいけど、この文章の中では「私」という言葉は四畳半神話大系の主人公のことを指します。
これを書いてる自分について言うときは、「自分」と言う言葉を使います。

一応、明石さんの未来を確定させてしまったことに対するエクスキューズとして、「仮にこの世界が決定論的な世界で、未来に起きることは既に決まってしまっているのだとしても、それを知らなければ自分は依然として自由であると考えて良い」
というようなセリフが出てきてはいた。
いつか田村くんの母親になることが確定しているとしても、それを明石さん自身は知らないので、明石さんの自由は依然として侵されていない。なのでこのネタバラシに倫理的問題はない、ということだろう。
(このセリフを明石さん自身に言わせるのもズルいなと思ってしまうが、まあそれは置いておく)

しかし自分が感じているのは、明石さんの未来を不当に確定させやがって!という怒りではなく、それを私だけが知っているってだいぶキモいな、ということだ。
「あの子自身も知らないあの子の秘密を、僕だけが知ってるんだよなぁ〜(^^)」って、キモくないですか?このキモさをジャンル分けするなら、窃視者的な優越感というべきか。
考えればこのキモさは本編にも確かに存在していたもので、10話11話の、無限に広がる四畳半内の痕跡からその世界での私の周りにいる人々のことを知っていく展開なんかは当に窃視的だった。
あれは私がそれ以外にすることもない絶望的な状況だったから許せていただけで、本来かなりキモいことをしていたのかもしれない。
と、完璧だと思っていた四畳半神話大系にちょっとだけ泥が塗られた思いをしてしまった。

ウダウダとモノローグで理論武装しながら、その自意識の隙間から世界を覗く私は本来窃視者的な存在なのである。としてまとめてもいいんだけど、うーん……。

汚点2

もっと言うと、田村くんの正体について示唆されたもう一つの情報にも思うところがある。自分にとってはこちらの方が重大なライン越えだった。
一応明言は避けられているけど、田村くんはどう考えたって私の息子だろう。
自分は私のどこにも繋がっていかなさそうな無為な学生生活が見たいのであって、それが何らかの未来へ接続されることを示唆されてしまうのは嬉しくない。四畳半神話大系とは、学生生活の無為さ、余談性をこそ讃美する物語ではなかったか。

なので自分はこの映画を、四畳半神話大系の美点を消してしまった最低な続編として憎むべきなんだけど、いかんせん雰囲気が良すぎてそれもままならなかった。複雑。

アジカンの主題歌は相変わらず超良かった。アジカン最高〜!

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