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「永遠の門〜ゴッホの見た未来〜」の感想。

ゴッホが大好きなので見た。

晩年の4,5年の期間にフォーカスしてあるのと、ドラマなので想像の入り込む余地も多く、ゴッホの人生を"知りたい"って人向けではない。
自分には好都合だった。

画材を持って自然の中を歩き回るゴッホの画がめちゃめちゃ良かった。個人的には、この映画の価値はほぼここに集約されてる。
一貫して静的な雰囲気が漂ってるのも、彼の求道者的な気質に合わせてのものなのだろう。狂気の画家と呼ばれる彼は、実際には、精神が落ち着いたときにだけ絵を描いていた。

歩くゴッホ。

描かれる芸術観。

話の部分では、ゴーギャンとゴッホの芸術観を比較する辺りが面白かった。芸術観をぶつけ合う彼らの会話は妙に哲学っぽい。(ゴーギャンとのやりとりに関わらず、この映画のセリフは全体を通して観念的だった)
例えばゴーギャンは露骨にカント的だ。題材が自分の内面に与える何かを表現しようとしている。ーー「僕らは同じ風景の前に座り、別のものを見てるんだ」「描かれた自然は独自の自然だ」
そして彼は美術史上の自分の立ち位置(ポスト印象派)に自覚的だ。モネなどの先達の絵を批判しなければ自分達の時代は来ないと理解している。(補足1)

補足1
この理解の仕方も哲学っぽいよなと思う。その時代の支配的な哲学に対するカウンターとして発展していく感じ。

対するゴッホは、自然をそのまま描こうとしている。描けると思っている。それに、ゴッホはモネの絵を好きだと普通に言っちゃう。

もう一つ、ゴーギャンとの問答の中で出てきた、ゴッホの芸術観を示した名台詞がこれ。
「自分を忘れるために外に出て絵を描く。抑制などするものか、熱狂していたい。絵は行為なんだ。」
つまり死の直前まで絵を描いていたゴッホは、最後まで救われていたということだ。
しかし、このセリフと、もう一つ「神は、未来の人々のために僕を画家にしたのかもしれない」というセリフには、製作者達の、ゴッホに救われていてほしいという思いが強く出過ぎているようにも思った。
ゴッホの絵が彼の死後評価されることになるという結果論ありきで彼に言葉を語らせてしまっていることに、ちょっとモヤモヤしたりはする。

ヤバ可愛いゴッホ。

耳を剃るシーンを飛ばしたり、ゴッホのヤバさをマイルドにしちゃってない?って感じもしたけど、ちゃんとヤバい奴としての描写もあって良かった。
町の有名な異常者に呼び止められて「スケッチさせてくれ」って怖いよな。
「違う、こうだ」とポーズが気に入らず、モデルを触りまくるゴッホ。怖すぎだろこいつ。
案の定連行されてて笑った。生きるの苦手な感じがとても可愛い。

一番可愛いなと思ったゴッホは、外から帰ってきたら、ゴーギャンが女をモデルにスケッチしてたので、負けじとキャンバスを用意するゴッホ。
女はゴッホに描かれるのは嫌らしく、ゴーギャンのスケッチが終わったらそそくさと部屋を出て行ってしまう。誰もいなくなった空間を前に筆を動かすゴッホが、あまりに哀れで可愛かった。

このシーンには上質なNTRの波動を感じた。ことが済んだゴーギャンが、余裕でタバコをふかしているのもイイ

精神病院に向かって荷馬車でドナドナされるゴッホも可愛かった。

不満点。

不満点もある。
ゴッホの主観視点で多用された、下半分が拡大された画面はただ単に見づらかった。あれ嫌い。ゴッホの目から見た世界を表現するのなら、Alireza Karimi Moghaddamの絵みたいな表現をしてしまえばいいのにな。(補足2)

補足2:Alireza Karimi Moghaddamの絵
こういうやつ。
https://mymodernmet.com/van-gogh-illustrations-alireza-karimi-moghaddam/
もちろん打ち合わせの場でこの案が出なかったはずがないので、意図的に避けたんだろう。この映画の静的な雰囲気には合わない気もしてきた。(補足1.1)
補足1.1
既にこの方向性のビジュアルで作られたアニメ映画が存在することを知った。『ゴッホ 最後の手紙』という映画だ。

後もう一つ不満だったのは、絵を描く描写がまだ足りないと思った。特に後半。
「僕にとって絵は行為だ」と言うのなら、そのアクションをもっと見たい。一心に筆を動かすゴッホのアップと、彼がそれを自然の中で行っていることを示す引きのカットを見たかった。

おすすめの本。

ゴッホ関連の本だと、「ゴッホの手紙ー絵と魂の日記」って本がめちゃめちゃめちゃ面白い。筆まめなゴッホが(主に弟のテオに向けて)書いた手紙が、ものすごい量載せられてる。
「最近人物を描くのが上手くなってきたよ」
みたいなことも書いてて、可愛いなと思った覚えがある。
ゴッホは「次はこんなのを描こうとしてるんだ〜」って感じで手紙にラフ絵を付けることもあって、そういうのも載ってる。

その他、細かな感想。

・霧がかったひまわり畑の画良いな。
乾いた大地。遠くは白くかすみ、立ち枯れたひまわりがまばらに並んでる。

不穏で良い。ゴッホが決して描かなそうな色味。

・風に揺れる背の高い草むらの中に立つゴッホ、
メインビジュアルのこの画いい!!

・石垣に腰を下ろして、銀杏の木を見上げる青い服のゴッホ!

・好きな画家を挙げるゴッホ。ヴェロネーゼいいよね。俺もヴェロネーゼ大好き。

・病室のベッドの上で、見すぼらしいなりのヴィンセントを、きちんとした身なりのテオが抱きしめてあげるシーンが良い。

・売れてきたのでパリに戻るゴーギャン。あんなにパリを嫌ってたのに現金なやつ。(ここでのゴーギャンの田舎disは続堕落論っぽい)(これに限らず、田舎disは全部続堕落論っぽく感じてしまう)

・批評家に絶賛される、光に満ちたゴッホの絵と、拘束衣を着せられ病室の隅でうずくまるゴッホ当人の対比。

・黒い丘のななめの稜線の上でヨロヨロ歩く、撃たれたゴッホ!

結論

ゴッホが自然の中を歩いているのが見れてよかった。

Alireza Karimi Moghaddamの絵のリンクを再度貼っておく。サムネからもなんか良さげな雰囲気が伝わってくると思う。

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