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『ザ・メニュー』の感想。千鳥に食レポしてほしい料理映画。

尖りすぎておかしくなった芸人の単独ライブみたいな映画。

「衝撃のフルコース?はいはい、どうせ食人でしょ?」って若干舐めながら見た結果、死ぬほど面白かった。去年見ていれば、間違いなく映画アワード2022のTop5には入っていたと思う。
とにかく笑いっぱなしの106分だった。

冴え渡るセンス

1品目:岩
2品目:パン(パン抜き)
のっけからエグいセンスを見せてきて一気に心を掴まれた。千鳥に食レポしてほしい。
最初はこんな感じで、『名人伝』みたいに料理を極めすぎておかしくなっちゃったシェフが、食の追求のために訳の分からないフルコースでセレブ達を追い詰めていくのかと思っていた。
後半でシェフの動機が単なる復讐だと分かって若干ガッカリはしたけど、それでも序中盤が面白すぎたので全然許せる。
それに復讐話だと分かってからの展開もそれはそれで面白くて、終盤には謎の感動があったりした。

4品目の混乱からの、5品目のお茶で一息の流れとかは、緊張と緩和の図式に綺麗に当てはまっていて、完全にお笑いの作法に則って笑わせに来ている。爆笑だった。

中でも神がかって面白かったのは、救助が来てからの一連の流れ。
1.銃を持った保安官が来たものの緊張で誰も動けない
2."Help Us"
3.一気に立場が逆転!助かるのか!?
4.グルでした(^^)
の流れが気持ち良すぎる。
銃が偽物だったということで緊張が緩和されるんだけど、大局的に見ると銃が偽物だったという緩和状態は、依然シェフの掌の上という緊張状態の継続を意味している。緊張と緩和が重層的に機能していて訳の分からない笑いが出てくる。

そこからの「チーズバーガー」、お持ち帰り、焼きマシュマロの流れは、笑いつつも感動していた。
最後にそれまでのネタをまとめるような、なんか良さげな話で締めてくるのも単独ライブっぽいなと思う。

そこまでが面白すぎて、どんなオチが来ても満足していたとは思う。
ところで、メニューで章立てになった構成なんかもお笑いライブっぽい。 

マジで完璧なライブだった。大大大満足。
『シェフ』『レミーの美味しいレストラン』を抜き去って、料理映画で一番好きな一作になった。

その他、細かな感想

・序盤の、立ち枯れた木の並ぶ海岸の景色が良い。

・円城塔の『エピローグ』に、食事を極めすぎておかしくなった集団の話が出てくる。はちゃめちゃで面白い挿話なんだけど、今作の前半部分にもそれに近い面白さがあった。

・登場人物の中ではテイラーが1番好き。4品目の拳銃自殺で、客達が混乱に陥る中、その状況も含めて料理を味わい尽くそうとする様がとても良かった。「お前のそのリアクションは完全に間違ってるけど、でもそれでいいんだ。お前はそのまま行け!!」という感じ。

・手を打ち鳴らすアクションがとても効果的に使われていた。
シェフが手を打ち鳴らす度に客達が鞭打たれたようにビクッとして、シェフがどんどん場を支配していく。最後の最後に主人公が主導権を握り返すのも気持ちが良い。

・シェフに従うスタッフ達の様子はDisciplineって単語を連想させる。
厨房という場所でそれぞれに持ち場を与え、「5分後に次のメニューだ」というように時間で縛ることで、スタッフ達の身体は部品として機能していく。軍隊じゃん。
「厨房は戦場だ」って言葉の真意はここにあるのか?

・この映画で描かれるのは単なる「搾取するセレブ達/搾取される料理人達」という構図ではなくて、シェフにも搾取する側としての側面があることが描かれる。
スタッフ達の「みんなで死ぬって演出は、私が考えたの^ ^」とか、「私の方がシェフのことを愛してるのに!!」とかいうセリフは、手遅れだなって感じがしてよかった。

・この映画を、社会について何かしらを語るためにシリアスに読み解こうとしても、そこまで実りはないと思う。
(ということ自体、映画の中で評論家達の姿を通して嫌というほど語られている)(まあその描き方は卑怯じゃん?とは思うけど)
今回起きたことはつまり、生きるのに疲れたシェフが周囲の人間を巻き込んで自殺したにすぎない。副葬されるのは、ムカつく相手と、シェフと一体化して描かれるスタッフ達。
「君、学生ローン使ってなかったよねえ?」とかいうセリフにも、この復讐の不合理さが示されている。
あくまでシェフの個人的な話だ。

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