奢ってますか? - 相手を尊重しないから割り勘になる -
”越境者”による”越境思考”、今回は「奢ることと割り勘の是非」について。
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中国にで仕事を始めたのが2001年、中国に駐在して生活しながら仕事をし始めたのが2008年。今に至る中で驚いたことがある。それは、中国人は自分のホームにおいて、客人や友人に対して一切お金を払わせることはない、ということだ。そして、ここがポイントなのだが相手に支払いを持たせないことについて、少しの躊躇もないということだ。
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一方、日本人の中には、1円に至るまできっちりと割り勘をするために、食後のテーブル上にスマホを持ち出して計算をする団体がいる。また、二次会で比較的単価が高いお酒を出す店で、「俺は金がない。お前は金があるから」ということを露骨に口に出し、誰かが払うような雰囲気を強引に作る行為を見ることもある。
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その場合、会計を振られた相手も、同様のことを口にして別の人に振ってみたり、自分が奢ることを避けるためにその場を上手く収めるジョークをひねり出すような光景を見ることも少なくない。そういったやり取りがしばらく続いて、時間ばかりが過ぎていくことになる。
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話は変わり、自分の義理の弟はもちろん中国人なのだが、離婚をした。その妻も同じく中国人で、現在は厦門に住んでいる。子どもは義理の弟が両親と共に実家で育てている。私が厦門に旅行に行った際、離婚したかつての義理の妹は、私たちに一切の支払いを持たせなかった。
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彼女は決して裕福ではない。住んでいる部屋を見せてもらったが、むしろ貧しい方だと言えるだろう。それでも、一点の迷いもなく、食事や移動にかかる費用についてすべて彼女が支払った。
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彼女は別れたとは言え当然ながら子どものことを気にかけている。私の甥っ子になる彼は、現在の中国における苛烈な受験競争の真っ只中にいる。良い大学に入ることができなければ良い生活をする可能性が激減する。中国で良い大学を選べなかった場合、日本に留学することも考えるだろう。なぜなら、甥っ子の親戚として、日本人であり日本にもベースを持つ私がいるからだ。
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その相手に対して将来的な見返りを期待して、なけなしのお金を使っているのかもしれない。単にメンツの問題かもしれない。しかし、そこで発生しているのは、あなたを迎える場を用意したのは私であって、この場は私が精一杯楽しませるし、あなたに何の苦労もかけさせない、という相手を尊重し、その関係性を価値として明示するためにお金という手段を使っているということではないだろうか。
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だから、歓迎された「私」は次の機会を必ず設け(中国人に社交辞令は存在しない)、その場では「私」は相手に一切の支払いを持たせない。それを延々と続けていく。そのループが途絶えればもはや「私」と「あなた」の関係は終わった、ということだ。そこに、相手との関係を何らかの形で「見える化」して確かめあっていく中国人ならではの生きる知恵が存在している。
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一方で、日本人の場合、ビジネスの場やプライベートの場において、一切の支払いをホスト側が持つことによって相手との関係性を明示するというやり方は、全員が採る訳ではない。相手との関係性をはっきりさせない日本人は、お金という交換可能で可視化された価値を用いずに、企業背景や年齢、更には相手の経済条件(収入や資産)を、それぞれの思い込みで平均値化し、その個別相対的な価値の上下がすべてを決める。
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あいつの方が歳は下だが、俺よりも稼ぎも良さそうだし、この場はあいつに払わせるか。はっきりとそれを口に出すのは恥ずかしいから、ちょっとイジりながら仄めかすかな。
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となる。こういった光景、見る機会は少なくないのでは?
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いずれにせよ、中国人も日本人も見返りやメンツなど社会的な要素が背景に存在することは変わらない。しかし、そこでその多寡に関わらずお金を払い、相手を尊重する気持ちをしっかりと「見える化」する中国人と、年齢や企業、かつての先輩・後輩関係など、非常に個別相対的で普遍的な交換価値を持たないものを持ち出して、それを金銭と交換しようとする日本人と、どちらが相手にとって気持ちが良いだろうか。
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どんなケースでもホストがゲストに奢れば良いということではない。皆さんも、複数人でテーブルを共にしてそこに費用が発生した場合、その費用は一体何について、誰が負うべきなのかということと、そのテーブル上で相手と何がやり取りされたのか、自分はもらったのか、与えたのか、など考えてみると良い。
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相談しに行ったにも関わらず奢られた。
会計を理不尽に振られた相手との付き合い方をどうすれば良いか。
毎回会計で揉める場を見たくない。
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こういった場合にどうすれば良いのか。
それは、そういった場を共にする相手との関係性をどうしたいか。
という問題になる。
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ホストもゲストも、相手をどのように尊重しているか。
問われているのは、このことだ。
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