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枯れ葉/アキ・カウリスマキ監督

新年ひとつ目の映画にはアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」を選んだ。いつも通りというのか、笑いの少ない中高年ラブコメディなのだが、枯れ葉の季節にカウリスマキ監督の優しさが心に滲みる映画でもある。

工事現場で住込みで働くホラッパ(ユッシ・バタネン)は、同僚に「金曜だしカラオケに行かないか」と誘われる。気乗りがしないホラッパはカラオケ・バーでは酒を飲むばかりだが、同じように女友だちと来ていたアンサ(アルマ・ポウスティ)と目が合い見初め合う。カラオケ・バーというのは、40代程の男女が漫然と集う、なんとも冴えない、懐かしさを通り越してなんだか悲しくなるような社交場である。

大型スーパーでパートとして働いていたアンサだが、日々大量に破棄される賞味期限切れの食品の中からサンドイッチをひとつ、その日の夕飯とすべくカバンに忍ばせた廉で解雇された。ホラッパは日々の鬱々とした気分に苛まれ、側から見れば既にアル中状態である。ホラッパとアンサは出会うべくして出会い、真面目で不器用な恋に落ちる、まあそんな話であろうか。全編を通して聴き慣れないフィンランド語の響きとフィンランド語で歌われる音楽が、妙に懐かしい感じを醸しだす。このあたりはカウリスマキ・マジックといえよう。

小ざっぱりと几帳面に整えられたアンサの部屋には古びたラジオがあり、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが流れている。家にコンピュータも無い、ネット環境からは隔絶された生活だが(しかし求人だけはネット上で行われる)、これが物語を通底するテーマであることは想像に難くない。遠くの国の戦争を深く嘆く感受性こそあれ、日々の生活のままならない状況に流されてゆく。我々が耳にする福祉大国のフィンランドとはまた別の現実が見えてこよう。

各々の個人的な過去については触れられることはないが(「今までの男よりはましだと思う」とは言うが)、彼らの一つひとつの仕草や言葉遣いに「らしさ」が滲み出て、それが少し愛おしかったりもする。状況をリードするのはアンサの方で(というのもホラッパが駄目すぎる男だからだが)、たとえ恵まれない状況にあって腐らず、尊厳を失わず、そして生きることを諦めない。

アキ・カウリスマキ監督は「日本好き」らしく、冒頭の音楽が「竹田の子守唄」だったのには驚いたが(すでに日本語として聞き取れなかったりもする…)、彼の音楽使いは劇中を通して縦横無尽で、例えば件のカラオケ・バーで、いきなり若手女性デュオMAUSTETYTÖTのライブが始まってしまったりもするのだが、これがまた良い(一番下に貼っておいた)。心が弱っている人にお勧めの映画である。あなたもぜひ。

監督:アキ・カウリスマキ  
出演:アルマ・ポウスティ | ユッシ・ヴァタネン | ヤンネ・フーティアイネン


MAUSTETYTÖT | Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin (Live 2020)

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