#6 LOOP BLAKE 第1章 異世界 第5話 「逃亡者との遭遇と伽霊覚醒」
肺が焼けるような灼熱の空気の中、とにかくこの燃えさかるガートシティを横目に藍川竜賀と、父親である光男は必死に走っていた。クリフから借りたマルチセルラーのナビ機能を頼りにお互いに確認しあいながら順調に道を進んでいった。
光男「ここを道なりに進んでいけば後は森に入っていけるから、そこから方位磁針に従って南西に進んでいけば隣の街に辿り着けるな」
竜賀「この世界ではガラケーとかスマホよりコンパクトな端末があるんだね。しかも音声翻訳機能付きで」
光男「そうだな。俺は今から英語とか喋れねえからこれは俺が使っていくな?」
竜賀「はぁ!?ズッルゥ!!俺の方が英語全然わかんねえんだよ!!」
光男「お前は若いんだからこれから十分英語に耳と口が慣れるんだよ」
竜賀「父さんは?」
光男「絶対無理!!俺はもう歳だから日本語しかまともに喋れないんだよ」
竜賀「歳を言い訳にするなよ。まだこっちは英語の勉強してないんだぞ。何喋ってるか全然分かんないんだから答合わせができないんだからな」
光男「そういうのは雰囲気と空気で何とか読みとるんだよ」
そんな口論をしているうちに2人は目的の森に近づいて来ていた。森の中にはニ車線の道路がありナビゲーションではそこを歩いていけば別の街に辿り着けると出ていた。しかし2人はあえて森の中から抜けていくルートを選んでいた。
竜賀「やっぱりマードック部隊に見つからないようにする為にはこういう道を通るしかないよね」
光男「そう言うこと!結構面倒かもしれないけどここは遠回りして隣町に行くしかないからな。時間よりも出来うる限りの安全を取る」
森の中に入り始めた2人は夕日を頼りに木々の間に入りながら足を進めていった。
光男「ここはアメリカだから、もしかしたら俺らが見たこともないような動物とか出てくるかもしれないし、さっきクリフが言ってたような凶悪犯がそこらに隠れているかもしれないから周りに注意しながら進んでいこうな」
竜賀「うん」
そして2人はマルチセルラーのナビの方角に従いながら森の中を2時間ほど歩いていた。|険しい森の中で父親の呼吸が乱れてきてしんどそうにしている様子を見た竜賀は心配そうな顔をした。
竜賀「父さん!何かスゴいしんどそうな顔してるけど大丈夫?」
光男「え?そうか?」
竜賀「ちょっと…いい歳なんだから無茶して取り返しのつかないことになるの嫌だよ」
光男「何を〜この藍川光男まだまだ現役バリバリの38歳!まだまだ12歳の息子に体力で負けるほど落ちぶれちゃいないよ!!」
竜賀「とか言ってメチャクチャ汗ダラダラかいてんじゃん」
光男「うるさいな…これはその…ちょっと暑いからでな……!!?」
竜賀「…?どうしたの?」
光男「…竜賀お前本当に疲れてないのか?」
竜賀「うん…別になんにもしんどくないよ?それがどうかしたの?」
光男「………いや何でもない…」
光男は困惑していた。2時間も森の中の複雑な道を歩いていて全く息の上がっていない息子の様子を見て、マルチセルラーの現在地の天気情報の表示をクリックして気温と湿度を調べると、気温は32度湿度は52%を示していた。日本の高温多湿という気候ではないにしろ、この暑さで汗ひとつかかないのは明らかにおかしい。
クリフ『その霊媒印が浮かび上がって、何かしらのきっかけで覚醒するとまず人間離れした身体能力が手に入るーーー』
光男(もしもあの話の通りのことが竜賀の身に起きているってことはもうコイツはもうあの『伽霊能力』ってのが目醒めようとしてるってことなのか?)
光男はクリフの言葉を思い出した。もうすでに覚醒しているか、まだ覚醒している途中なのかは分からないがすでに変化は起き始めていると思っていた方がいいと光男は考え竜賀に別の話題を振ったーーー
そうして森の中をしばらく歩いていると、日が暮れ暗闇の中に薄明かりのようなものが見え始め2人は立ち止まり顔を見合わせゆっくり光に向かって近付いって行った。
竜賀「何だと思う?」
光男「さぁな…ミーモスト一味の可能性が大分高いけどな」
竜賀「まさか」
光男「もしこんなところでキャンプするなら木がもっと少ないところでテントを建てて焚き火をしているはずだろう?煙の上がっていない光ってことは人工的な明かりってことだ」
その明かりの中から何やら英語で話している集団がいるようだった。竜賀と光男はマルチセルラーの翻訳機能が働く距離までその集団に近づこうとした。
ーーーーその時ーーーー
???「ヘイ!!そこにいるのは誰だ!!?」
集団の中の1人がこちらに向かって叫んだ。と次の瞬間竜賀と光男の間を火の玉の様なものがすり抜けて背後の木に直撃した。
ドゴオオォォン!!!!
竜賀・光男「ぐああ!!!?」
背中に焼けるような熱を感じたと思った直後、強烈な爆風に身体を突き飛ばされるように2人は前に倒れ込んでしまった。
光男「竜賀…大丈夫か!?」
竜賀「うん全然問題ないよ」
光男は竜賀を心配したが竜賀はけろっとした感じの表情で父親の顔を見つめ返した。
???「動くな!!お前らは何者だ!!なぜこんな所にいる?」
2人は声のする方向を向くとYシャツと柄の長ズボンを着て、素肌には青い複雑な刺青を入れている、いかにも俺たちチンピラですと言わんばかりの筋肉隆々な大柄の、白人が1人と黒人が2人立っていた。
光男「ちょっと待ってくれ!!何してるも何も、俺とコイツは隣町に行こうとしてたんだ。それなのにさっきまでいたガートシティの軍人さんからこの森を通って行けって言われてたんだ」
光男はまるで先ほどの爆発が大したことないような素振りで3人のチンピラに英語で話しかけていた。竜賀は父親の襟にいつの間にかマルチセルラーが付いていたのを確認しゆっくり立ち上がった。
???「ガートシティだと?お前らあんなところから来たのか?」
光男「ああそうだ。あの街から脱走した適能者の集団が公道を通って別の街に向かっているところを遭遇したら殺されるかもしれないからこの森を抜けろってさ。アンタ達名前は?」
3人組は顔を見合わせ、まず白人の男が光男に警戒しながら話しかけてきた。
???「俺の名前はヒューズ・カーターだ。コイツはローグ、そしてゲイド」
ローグ「ローグ・ラッセルだ。さっきの火炎弾を撃ったのは俺だ」
ゲイド「ゲイド・シルベイツだ。よろしく」
光男「俺は光男。藍川光男だ。そしてこっちが息子の竜賀だ」
竜賀「よろしく」
竜賀は光男に誘導され、つたない英語で挨拶した。
ヒューズ「ここにいるのはさっきガートシティにいた軍人にここを通れと命じられていたからなんだな?」
光男「そうだ。ガートシティに潜伏しているミーモスト一味って言うのを一斉摘発する為に街を燃やすんだってさ」
竜賀は流暢に言葉を発する光男を見て内心かなり驚愕した。数秒前まで自分達を殺そうと謎の攻撃を放ってきた連中に、動揺せず話を淡々と進めていっているからだ。
ゲイド「街を燃やすだって?」
ローグ「そいつは随分イカれてるな」
光男「何の関係もない一般市民もまとめて焼きはらうってさ」
ヒューズ「…ならばお前達は何故生きてここへ来れてるんだ?」
光男「俺らは関係のない観光客としてここに寄ってたから事情を説明して許してもらったのさ」
ゲイド「お前ら東洋人だろ?中国人か?韓国人か?」
光男「日本人だ」
ローグ「なるほど平和主義の日本人なら下手な悪さはしないだろって“ハドノア連合”もお咎めなしにしたのか」
光男「アンタら3人はここで何やってたんだ?キャンプか?」
ヒューズ「ああ…いいキャンプ場探しの途中だ」
光男「そうなんですね…それじゃあ御三方の邪魔にならないうちにさっさと隣町に行かせてもらいますね?」
ローグ「ああ……」
ヒューズ「それとここで起きたことは…」
光男「ええ…他言無用にしておきます…ところで…」
ローグ「?」
光男「俺はさっき『ガートシティにいた軍人』と言ったのに何でそれが『ハドノア連合』だって分かったんですか?」
ゲイド「…!!こんの間抜けが…!!」
ヒューズ「貴様のように勘のいい奴は嫌いだな」
ヒューズとゲイドが咄嗟に動き出したと思った次の瞬間、竜賀は自分の首を思いっきり引っ張る力を感じ身体を後へ飛ばされた。
途端に竜賀と光男の立っていた位置に耳を劈くような破裂音がした!!
光男「竜賀悪い!!大丈夫か!?」
竜賀「うん!やっぱりこの3人って…」
光男「ああ…おそらくミーモスト一味だろうな」
ゲイド「そこまで知られたら死んでもらうしかねぇな」
竜賀は立ち上がりさっき自分の立っていた場所を見てみると直径3m近くの大きいクレーターができていた。竜賀と光男はさらに3人組と距離を取り、持っていた竹刀袋の中から竹刀を取り出した。
ローグ「…プッハーハハハハハハハハ!!!そんな棒切れみたいなもんで俺たち適能者と戦おうってか?」
ヒューズ「Mr.アイカワ。アンタは頭のキレる男だと思っていたのにそんな侍の真似事のような玩具で対抗しようとするなんて…非常に残念だ」
竜賀「父さん今回は俺も戦うよ。流石に父さんでも3人相手は無理がありすぎるから」
光男「本当はカッコつけて『お前だけでも逃げろ』って言ってやりたかったんだが今回は流石にお前の力を貸してくれって感じだ」
竜賀は父親の言葉に自分への信頼を感じて改めて竹刀を握り直し深呼吸した。そして剣道の試合の時のように相手との間合いを取った。
すると3人組の中でゲイドが一番最初動き始めた。ゲイドは左手を空に上げたかと思うとゲイドの左掌からカードが現れた。するとカードから黄色い光が放たれ始め、その光が収束し巨大な黒い筒のようなものが現れた。
ゲイド「こんな雑魚ども俺が一瞬で廃品にしてやるよ!!この俺の燃焼弾大砲でな!!」
するとゲイドは大砲を光男と竜賀に向けてレバーの引き金を引こうとしたした瞬間、光男と竜賀は一歩早く踏み出し前に向かって飛び込んだ。
ドンッ!!!!!
大砲から放たれた砲弾が後の木々を爆破で吹き飛ばしている様子には目もくれず竜賀と光男は3人に竹刀を向けた。光男はヒューズを、竜賀はローグに向かって目にも止まらぬ高速の横薙ぎをかました。2人の不意を突く返技で3人はバラバラに別れさせて戦えるようになった。
光男はヒューズを他の2人から引き剥がし1対1で勝負を仕掛けていた。痛みに悶えるヒューズに追い打ちを仕掛けるように頭や腹に目掛けて打突を叩き込み続けた。
光男「さっき俺たちに攻撃を仕掛けに来た時にヒューズ、お前が俺たちの位置をローグに伝えていた。つまりお前は敵の位置を探知するタイプの伽霊能力を持っているってことだ!!」
攻撃を喰らいまくったヒューズがあまりの痛さにうずくまり、それを見据えながら光男は言葉を続けた。
光男「探知能力しかない奴をまずは仕留めて機動力を削ぐ。その後他の2人を倒せばいい」
ヒューズ「…クククククク…俺が探知能力“しか”持っていないだと?随分舐められたモンだな」
と言うとヒューズは左手からカードの様な物が現れ、突如光を放ったと思った瞬間ヒューズの手には手斧が握られており、それは光男の首を目掛け襲いかかってきたーーーーーー
一方その頃ローグを突き飛ばした竜賀は間髪入れずにローグの足に目掛けて竹刀で攻撃を仕掛けて怯んだところを連続攻撃でどんどんその場から引き剥がした。
ローグ「ぐあ!?ぶお!?こんのクソガキ!!調子こいてんじゃねえぞ!!」
ローグは左手からカードのような物を出した。カードは光を放ちメリケンサックのような物を両手につけていた。するとローグは右腕を大きく振り上げ竜賀の頭を目掛けて拳を振り下ろした。
だが竜賀は紙一重でそれを避わし、ローグの首目掛けて返技の横薙ぎをかました!!
竜賀「はぁ!!」
ローグ「ぐお!?」
ゲイド「おいコラァ!!オレを忘れてんじゃねぇぞ!!クソガキィ!!」
竜賀とローグの戦闘中に割って入ろうとゲイドがさっきのバズーカ砲を再び構えて竜賀に照準を定めた。ローグはゲイドの攻撃の余波に巻き込まれまいと竜賀から急いで距離をとった。
ゲイド「コイツを喰らって消し炭になりやがれ!!」
ドォンッ!!!
竜賀は再び自分に襲いかかってくる砲弾を見た時、死を覚悟した。これは避けられないと。しかし竜賀の身体はまるで竜賀の意志のままに宙を舞い、砲弾を完璧に避け切った。
竜賀「何だ!?今の動き…」
ローグ「余所見してたら寿命が縮むぞ!!」
ローグのメリケンサックが竜賀の顔を目掛けて飛んで来た瞬間…
ガッッ!!!!!
竜賀は咄嗟に反射で動いた手がローグの手首を握っていたことに驚いた。
ローグ「ぐっ!!まだまだあああああ!!!」
するとローグのもう一方の手のメリケンサックを振り上げると突然炎を纏い拳の形になった!
ローグ「死にやがれ小僧!!これが俺の火炎鉄拳だ!!」
竜賀は次はその技が飛んでくる前に掴んでいたもう一方の手を全力で引っ張りゲイドに向かって投げつけた。
ローグはまるでブーメランの様にくるくる回りながら覆い被さるようにゲイドにぶつかった。
ゲイド・ローグ「ぐあ!!」
ローグとゲイツはすぐに立ち上がり竜賀の方を向くと
ゲイツ「完全に油断したぜ!!コイツ適能者だったのか!」
ローグ「しかも俺の拳を受け止められるくらいの怪力ってことは相当な肉体強化型の伽霊能力を持っているってこった」
ゲイツ「怪力型ってことはスピードに弱いってことだ。こっちのスピードで引っ掻き回してやれば余裕で倒せらぁ!」
ゲイドとローグが体勢を立て直したのを見て、竜賀は改めて竹刀を構えた。竜賀はこの戦いの緊張感の中、父親である光男の言葉を思い出していた。
光男『ーーーいいか竜賀。戦いの中で一々相手の攻撃に取り乱したり、自分の攻撃に喜んでたりいたらいつまで経っても半人前だぞ!相手が攻撃してきたら“喰わない!!“自分が攻撃する時は“喰らえ!!”そういう気持ちでかかってこい!!父親だろうが、同い年の友達だろうが、巨人だろうが、相手がどんな奴でも常に平常心で次どんな攻撃を仕掛けるかを考えるんだーーー』
そんな言葉を思い出しながらーーー
竜賀「たとえ誰が相手でも常に平常心で次の一手を考える…」
ローグ「あ?何言ってんだお前?」
そして竜賀は2人に向かって飛び込んでーーーー
光男「…ヒューズお前こそ俺のことを舐めてるぜ」
光男はヒューズの手斧をしゃがんで躱しながら返技気味に抜胴を決め留めにヒューズの延髄目掛けて唐竹割りをかました。
ヒューズ「ぐお!?……何だこの強さは…」
光男「驚いたな…普通延髄斬り喰らったら死ぬか運が良くて気絶くらいするモンだが…頑丈なモンだな…初めて見たけどこれも適能者の持つ伽霊能力ってやつなのかい?」
ヒューズ「ハア…ハア…初めて見ただと?…何も知らねぇのかお前ら?…オレ達適能者は一番初めに共通して覚醒すれば霊段階Aになる……霊段階Aに与えられる能力は人間を超えた身体能力機能が手に入いる……」
光男「それは前聞いたことがあるが、それを実際見るのはアンタが初めてだよ…俺達は元々この世界の人間じゃないからね」
ヒューズ「フフフ…だったらさっさと自分の息子の心配でもしてやったらどうだ?」
光男「何?」
ヒューズ「ゲイドとローグは2人共霊段階Aから2段階レベルアップしている霊段階3の適能者だ…ただ身体が強えだけじゃなく能力を2つ持っている連中だ…アンタの息子がバラバラになってなけりゃ良いがな」
光男「そこに関しては心配ご無用。竜賀は俺と毎日剣術や武術の実戦稽古を積んできている」
ヒューズ「そんな程度で…」
光男「それに…」
ヒューズ「…?」
光男「竜賀も適能者だ。まだその霊段階Aにも覚醒していなかったがな」
それだけ言い残すと光男は竜賀の元へ走って行った。取り残されたヒューズは自分のポケットからマルチセルラーを取り出し通話を始めた。
ヒューズ「…ヒューズです…襲撃を喰らいました…ハドノア連合ではありません…2名の日本人です1人は藍川光男そしてもう1人はその息子藍川竜賀です…そいつらに会う事があれば始末していただけませんか?お願いしますーーー」
光男「竜賀…!無事でいてくれ…!!」
光男は竜賀の無事を祈りながら急いでさっきいた場所まで戻って行った。
To Be Continued
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