#17 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第4話 「久々の帰省と奇妙な噂」
ミシガン州のモートレートタウンの辺境付近にあるモーテルが集まる街がある。
そこはモートレートタウンの中心部から10km近く離れており、かなり静かな田舎だった。今の時期でもかなり寒い上に曇り空が広がっているので、日本の様に暖かくなる気候になるのがかなり珍しい。
デトロイトと言うスラム街の集中する都市の近くと言うことも相まって、かなり治安は悪いと評判になっている。しかしそれとは反して比較的のどかな街となっている。実際にモートレートタウンにいる日本人である藍川親子は落ち着いて生活していた。
藍川親子の息子である青い髪をしている竜賀はベイカー夫妻の家で英語とアメリカカルチャーの勉強、そして剣道の稽古に1日を潰してしまう1週間を味わっていた。
竜賀「げ〜ん〜たぁ〜?……俺はいつになったら、日本に戻れんのかねぇ〜〜??」
源太「まーたその愚痴かよこれで何百回目だよ」
竜賀の友達で褐色の肌をした少年が一緒に勉強をしていた。英語の勉強で初日から物凄い勢いで基礎を叩き込まれ、シャーリー先生?から、
シャーリー『とにかくあとは英語の失敗を恐れずいっぱい話しかけていくことよ!!多少の失敗なんて誰も気にしやしないわ!!』
と凄まれ、連れ回されるお出掛けでは兎に角色んな場面で英語でコミュニケーションを取る様に強要されていった。
竜賀「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすとは言うけども…」
源太「何それ?獅子??千尋の谷???」
竜賀「ん?ああ…これ我が家の子育ての基本方針だったりすんだけどさ……」
シャーリー「『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とし這い上がって来た者を育てる』でしょ?全部そこは言わなきゃ」
2人が話しているところに話を捩じ込んできたのは、ついさっきまで2人に英語を教えていたシャーリー・ベイカーだった。
源太「…シャーリーさん?」
シャーリー「ふふふ…」
竜賀「シャーリーさんよくその言葉知ってましたね?」
シャーリー「だって……貴方の光男があなたに色んな勉強を教える時には、そういう気構えで教えていってくれって…私頼まれてるんですもの」
竜賀「マジか…どうりで」
シャーリー「だから街で買い物する時はもっぱら貴方に、店員さんに注文する様にしてたのよ」
ニコニコ笑いながらシャーリーが話しかけているのに対して、げっそりした表情で聞いていた竜賀の構図を交互に見ながら源太は必死に笑いを堪えていた。
竜賀「何か変だな〜…ストイックだな〜…って思ったら父さんかい…」
源太「はははは!」
シャーリー「獅子…ライオンが自分の子供を育てる前に、どんな困難が目の前に立ちはだかっても、まずは自分の力で諦めずに立ち向かおうとするかどうかを試す様に、壁を用意するのが光男さん流の教育らしいからね」
竜賀「ちっさい頃から全然その教育方針変わってないんですよね……まずは課題を目の前に出して、どうアプローチするのかをまず考えさせるんですよね」
シャーリー「効率的で良いじゃない」
源太「メチャクチャ良いおやっさんじゃん」
竜賀「外側で見てる分にはね?剣道でも一切容赦無いからね」
そんなやりとりをワイワイやっている中、ピンポーン!と家のチャイムが突然鳴り響いた。
源太「あれ?おやっさん達帰ってきたのかな?」
竜賀「でもトニーさんと父さんって夕方まで帰って来ないはずだぜ?」
シャーリーはドアの方を見ながらしばらく考えてから、彼女はテレビの電源をつけ音量を上げ始めた。
竜賀「どうしたの?」
源太「いきなりテレビつけて…」
シャーリー「貴方達向こうの部屋で隠れてなさい…!!」
シャーリーは2人の手を引く様にリビングから勉強道具を持って連れ出し、奥の部屋の押し入れに押し込んだ。
シャーリー「私が良いって言うまで出て来るんじゃないわよ!」
シャーリーがそう言うとピシャリと戸を閉めた。竜賀と源太は戸に耳をピタッと付け音を1つも聞き漏らさない様に耳を澄ませた。
シャーリー「はいはーい!今開けますね!」
???「ただいまー!久しぶりね!お母さん!」
シャーリー「まぁ!久しぶりねメリアン!お帰りなさい!!」
戸の向こう側から知らない女性の声が聞こえ誰が来たのかと思ったが、シャーリーがその女性の名前を言うと竜賀はすぐに察した。
源太「だれ…?」
竜賀「ベイカー夫妻の娘さんだよ…」
押し入れの中で声を押し殺しながら竜賀は源太に説明した。
メリアン「元気だった?」
シャーリー「ええ!あなたも元気だった?仕事は順調かしら?」
メリアン「もちろん!上手くやってるわ…最近変わったことなかった?何かおかしな事件が起してるとかなかった?」
シャーリー「……何かあったの?こっちは特に何も無いけど…」
メリアン「そう…」
シャーリー「とりあえずせっかく帰省したんだし、家の中に入って!温かいコーヒーでも淹れるわ」
メリアン「ありがとう」
メリアンと呼ばれた女性は入口から家の中に入ってくる足音が聞こえ、竜賀と源太は声を顰めて話し合った。
源太「なぁ…何で俺達ここに隠れてないとダメなんだ?別にシャーリーの娘さんなら自己紹介しても良くねぇか?」
竜賀「確かお前は知らなかったな…」
源太「え?」
竜賀「シャーリーの子供は2人いるんだが、その2人共マクシム連合の軍事関係者らしい」
源太「なグッ…!?……」
源太がつい大声をあげそうになったところで、竜賀は咄嗟に口を塞ぎ源太の声を押し殺した。
竜賀「メリアン・ベイカーがこのタイミングでこの街の実家に帰って来るなんて不自然なんだよ」
源太の口から手を離し、源太が喋れるようにした。
竜賀「よりにもよってお前が俺とシャーリーさんに助けられてから、五日くらいしか経ってないのにだぞ」
源太「つまりマクシム連合の?」
竜賀「解んねぇ…」
竜賀と源太は再び戸に耳を近付けシャーリーとメリアンの会話に集中した。
メリアン「何か家から声が聞こえてくると思ったら……こんな大音量でテレビ観てたの?」
シャーリー「もう…帰って来るなら、帰って来るでちゃんと連絡くらいよこしなさいよ」
メリアン「良いじゃない…自分の実家に帰るのに不都合なこともないでしょ」
シャーリー「あなたの食事の準備できないじゃない…」
メリアン「そこは大丈夫!母さんと父さんの無事を確認したかっただけだから…すぐ仕事に戻る為にインディアナ支部に行くから」
シャーリー「……そう言わずに…久しぶりに一緒に母娘水入らずで買い物いかない?」
メリアン「残念だけど、仕事で忙しいって言ってるじゃない」
シャーリー「…ねぇ…それじゃあ一体何の用事でインディアナポリスから実家まで帰って来たのよ?」
メリアン「お母さんには関係ないでしょ…」
シャーリー「関係ないのに『無事を確認したかった』とか言う訳ないでしょ?」
メリアン「………」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。奥の部屋の押し入れの中で一言も聞き漏らすまいと息を顰める竜賀と源太は次の言葉を待っていた。
メリアン「……ここ最近…」
沈黙に耐えかね最初に口を開いたのはメリアンの方だった。
メリアン「この近くで行方不明になっている子供の情報を組織が探ってるのよ」
メリアン以外の3人が、ほら来た!と心の中で意気投合していた。やっぱりメリアンはここに組織の命令で源太を探しに来たんだと言う予想が当たった。
シャーリー「子供?どんな子供なの?」
メリアン「年齢は12歳〜13歳くらいで褐色の肌色で、黒髪のスペインカール、瞳の色はブラウンってところ、身長は約160cmくらいの細身よ」
その会話を盗み聞きしていた2人は顔を見合わせ、
竜賀「お前やな」
源太「俺やな」
と小声で囁いていた。源太は汗をダラダラかき始めていた。
シャーリー「そんな子供をどうしてマクシム連合で探してるの?」
メリアン「その子がマクシム連合の上層部の重役の血縁者らしいのよ。秘密裏にアメリカに入国する時、組織の保護下に置くはずだったんだけど」
シャーリー「それが行方不明になったと?」
メリアン「うん……これはなるべく世間に公表せずに、早急に発見しろって上層部に命令されている重要事項なのよ」
メリアンの話を聞いて、シャーリーは自分の娘の情報と源太の証言、どちらが真実なのか内心かなり戸惑っていた。そしてそれは竜賀も一緒だった。押し入れの中で竜賀は源太に確認を取っていた。
竜賀「おい源太。あの話真実なのか?」
源太「んな訳ないでしょ!大方組織のトップが非道な人体実験を世間にバレたくないから、俺を上層部の人間の家族って嘘にして俺を見つけるつもりだ」
竜賀「まぁ…今の組織からしたら、脱走した源太の存在そのものがかなり危険だからな」
2人がそんな会話をしていることを知る由もないシャーリーとメリアンは淹れたてのコーヒーを飲みながら、話を続けていた。
シャーリー「その子が仮に誘拐されていたとすれば、どんな問題になるの?」
メリアン「組織の幹部の急所を握られることになるわ。伽霊能力研究機関であり軍事力も持っているアメリカ最大の組織の幹部と直接的に繋がりがある血縁者がもしテロリストの手に落ちれば……アメリカは終わりよ」
シャーリー「だからそれがテロリスト達の手に落ちる前にどうしても見つけなければならないと……あなたも大変ね」
メリアンを心配そうに見つめるシャーリーの言葉にメリアンは素っ気無く返した。
メリアン「別にこのことはそんなに大したことじゃないわ……問題は別件の方よ」
その言葉に竜賀は落ち着きかけた心臓が再びバクバクと五月蝿く鳴り始めるのを感じた。
メリアン「マクシム連合である噂が広まってきているのよ」
シャーリー「噂…?」
メリアン「JOKERがまた現れた…ってね」
いきなり訳の分からないワードが出てきて竜賀は頭の上に?マークが飛び出していた。てっきり自分と父親の話が出てくると思っていたのに予想外の展開に頭がパニックになっていた。
シャーリー「ジョー…カー?」
メリアン「まぁ母さんには直接関係ないんだけど、数年前から適能者が謎の死を遂げる事件が世界中至る所で起きてるのよ」
シャーリー「謎の死?適能者が?」
メリアン「死んだ適能者は霊段階2の下級クラスから霊段階Jクラスの上級クラスまでその種類は様々なんだけど…」
シャーリー「けど…?」
ここでメリアンは一拍おいて自分の飲んでいたコーヒーを見ながら、ゆっくり続きを話し出した。
メリアン「問題なのは…その死んでいった適能者の遺体から霊力が検出されなくなっていたのよ」
シャーリー「そんなことが?」
霊力と言う意味の解らないワードが出てきているのに、メリアンとシャーリーがそのまま会話を進めていくのを竜賀は悶々としながらそのまま会話を聞いていた。
メリアン「適能者が死んでも、その遺体からは生前と同質の霊力が僅かながら検出されるものなんだけど、ある適能者の遺体からは霊力が全く残っていなかったの」
シャーリー「でも例外ってことは…」
メリアン「それも考えられたんだけど違うって言われているわ…ある瀕死状態の適能者を数十パターン調べてみたら、全ての生前と死後でも霊力は微量ながら検出されるって言う研究結果が出ていたのよ」
シャーリー「………」
メリアン「その後死体が焼失、または粉々にされていない限りは最低でも4ヶ月は霊力の残痕があるものなのよ」
シャーリー「そしたらさっき言ってた霊力が検出されなかった遺体って言うのは…?」
メリアン「それがこの噂の核心部分なんだけど、JOKERが適能者を殺害する前か後に伽霊能力そのものを奪っているんじゃないかって言う説が浮上してきているのよ」
シャーリー「伽霊能力を奪う?本当にそんなことが?」
メリアン「もちろんただの噂よ……信憑性なんてどこにもないはずなんだけどね…やっぱり皆その類の噂話で盛り上がるの大好きだから…」
シャーリー「JOKERって言われているのは何でなの?」
メリアン「誰もその正体を見たことがない闇の存在で、その能力を奪い我が物とすることからそう言う名前が付けられたのよ」
シャーリー「その噂が、貴女がここに来たことが何の関係があるって言うの?」
メリアン「そのJOKERがこの街の近くに来てるかもしれないって言われているのよ」
押し入れの中にいた源太は絶句し、竜賀の顔を見ながら指差した。
源太「……お前か?……JOKERって?」
竜賀「ふぇ?……いやいやいやいや!絶対違うから!!何疑い始めてんの!?」
シャーリー「そのJOKERが来たっていう根拠はなんなの?」
メリアン「先日、モートレートタウンとガートシティの間の森林地帯で山火事が起きていて、そこに3人の適能者の遺体が見つかったのよ」
その話で竜賀が変な汗が額から流れてきていた。竜賀の表情を見ながら源太は…
源太「…………やっぱりお前だろ………?」
竜賀「………変な汗いっぱい出てきた…」
そんな2人の様子など知る由もないメリアンはそのまま話を続けていた。
メリアン「そしてその3人の適能者の遺体から霊力が一切検出されなかった。つまりあの森にJOKERが現れたかもしれないっていう噂が広がったのよ」
シャーリー「その遺体の身元は確認したの?」
メリアン「その遺体の解剖自体をしたのはハドノア連合だったんだけどね……JOKERの噂は当然ハドノア連合の耳に入ってたらしくて、それが随分遅れて昨日私達に届いたって訳!」
シャーリー「それでわざわざ仕事の途中で私に伝えに来てくれたってこと?」
メリアン「ま…そーゆーコト」
シャーリー「ありがとね心配してくれて…でもそのJOKERって言う人適能者だけしか狙ってないんでしょ?お父さんもお母さんも適能者じゃないわよ?だから狙われる理由なんてないでしょ?」
メリアン「ただの噂にしては広まり方が異常ではあったからね………さて!」
メリアンは突然立ち上がってドアに向かって歩いていった。
メリアン「私はまだ仕事があるから、これからまたインディアナポリスに戻るわ」
シャーリー「もっとゆっくりしていけば良いのに……」
メリアン「私は忙しいのよ……とりあえず無事で良かったわ」
シャーリー「ウィルソンにもよろしくね」
シャーリーがその名前を出すとメリアンは暗い顔をして声も重くなってしまった。竜賀は
メリアン「………彼は今、インディアナ支部の幹部昇進が確実視されているの」
シャーリー「え?…」
メリアン「これまでも必死になってマクシム連合のトップを目指して色んな功績を挙げてきたの……」
シャーリー「………」
メリアン「ねぇ…お父さんは何か言ってなかったの?ウィルソンのこと…」
シャーリー「言ってるわよ……いつも……2人のことはいつも心配してるから…」
メリアン「そういうことじゃなくて……」
しばらく2人の間に気まずい沈黙が流れていたがメリアンは踵を返してドアをガチャっと開け外に出た。
メリアン「それじゃ……とりあえず何があっても家の鍵はちゃんと閉めといてね」
シャーリー「メリアン!」
メリアン「何?」
シャーリー「…久しぶりに帰って来てくれてありがとうね」
メリアン「その言葉…ウィルソンにも言っておくわ」
そして自分の娘が歩いて行ったのを見届けたシャーリーはドアの鍵をしっかり閉めたのを確認して奥の部屋に歩いて行った。押し入れの前に立つと周囲を注意しながら、戸に向かって話しかけた。
シャーリー「2人共…娘は出ていきましたよ」
するとゆっくり戸を開きながら竜賀と源太が転がる様に床に倒れて出てきた。
竜賀・源太「「ぶはあああああ!!!」」
2人は汗だくの状態で必死に呼吸しながら息を整えていた。
源太「こんな狭いとこにずっといたら身体が変になるって!!」
竜賀「はぁ!!…はぁ!!…はぁ!!…窒息死しそう!」
シャーリー「ごめんなさいね、もっと良い隠れ場所があったはずなのに思い付かなくって……」
竜賀「今の人って…」
シャーリー「詳しいことは旦那と貴方のお父さんが帰ってからにしましょう!」
竜賀が話を切り出そうとするのをピシャリと止めてシャーリーは竜賀達をリビングに行くよう|促したーーーーー
光男「ーーーーえ?それじゃあ2人の娘さんがここに来たんですか?」
シャーリー「ええ……それで今マクシム連合が源太を探してるって…」
トニー「それで?源太がマクシム連合の幹部の親族って言われたって?」
源太「そこに関してはマジで言わせて?…絶対にそれはない…!!」
竜賀「神に誓って?」
源太「神に誓って!」
仕事から帰って来た藍川光男とトニー・ベイカーも交えて、5人はかなり切迫した状況に焦っていた。まだ竜賀達はこのベイカー家に来てから1週間しか経っていないがもうここまでマクシム連合の捜査の手が伸びてきていることが異常だった。
源太「だってそうだとしたら、俺がここに留まる理由がないでしょ!マクシム連合に引き取られた方が何倍もマシじゃねぇか!」
トニー「それもそうか……」
シャーリー「それじゃあマクシム連合が貴方を探してるのは……」
源太「俺を捕まえて、組織の違法な実験の存在を外に漏らさないようにする為だよ」
竜賀「……なぁ…気になったんだけどさ?」
源太「何?」
竜賀「その実験って一体何やってるんだ?そんなに知られたらマズいことなのか?」
竜賀は怪訝そうな顔をして源太に聞いた。しかし源太は竜賀と顔を見合わせた後首を横に振りながら答えた。
源太「知らない方が良い……もし知ってしまったらここにいる全員殺される」
光男「何言ってんだよ…今さらお前を抱え込んじまった以上組織側も何か情報が漏れてないか疑ってお前と一緒にいる俺達全員殺しに来るに決まってんだろ」
源太「でも…」
光男「何、俺と竜賀はともかくベイカー夫妻はこの件には何の関わりもないんだ……だから俺と竜賀には話せ」
竜賀「父さん…それって……」
光男「ああ…俺達3人は早々にここから出ていく!」
その言葉を聞いたベイカー夫妻はギョッと驚いたように顔を見合わせた。
シャーリー「何ですって!?」
トニー「光男いきなり何を言い出すんだ!?気は確かか!?」
光男「俺はいたって正気です!いや正気だからこそここから今すぐ出ていった方が良いと言ってるんです!」
光男は2人に対して、一切引き下がるつもりはないと言う姿勢を見せた。
光男「まだマクシム連合は源太とベイカー夫妻の関係まで辿り着いていないし、俺と竜賀の2人があの森の中での火事に関わってることにも……」
そこまで説明された2人は何か言いた気な様子を見せたが、結局何も言い返せず苦い表情を見せただけであった。
光男「トニーさん…明日の朝、竜賀と源太を連れてこのモートレートタウンを出て…なるべく離れた町に移動しようと思います……その為に車を貸していただけませんか?」
トニー「車を?」
光男「歩いて離れようとしても距離に限界があります……ここに俺達3人がいた証拠が残らないように荷物も全部持っていくには車しかありません」
トニー「……それは別に構わないよ……どこかにシャーリーと一緒に行きたい場所がある訳じゃないから」
シャーリー「……はぁ…せっかく貴方達と楽しい毎日だったのに…」
源太「もうトニーとシャーリーには会えなくなっちゃうの?」
光男「…いや……今だけ離れ離れになるってだけだよ」
竜賀「また会えるよ…生きていれば必ずね」
トニー「そうだよ…事態が落ち着いたら、またここに遊びに来ればいいんだ」
シャーリー「いつかは来るとは思っていたけど、まさかこんなに早いとはね」
光男「車は…必ずいつかお返ししますね」
シャーリー「別にそんなに気にすることないのに…もう使う理由もそんなにないから……」
トニー「いや!必ず返しに来い!壊れたら損害分のお金を俺か妻に返しに帰って来い!いいな!必ずだぞ!!」
トニーは光男の目を真っ直ぐ見ながら、必死に涙を押し殺す様に大きな声を張り上げていた。
光男「…必ず…!!」
竜賀・源太「約束する!!」
3人はそう答えたーーーーーーー
ーーーーーー朝、光男は車庫にあるジープに長距離運転するのに必要な物を乗せ、竜賀と源太はシャーリーとの勉強会で使った英語やスペイン語の辞書や教科書、歴史の本を詰め込んでいた。
シャーリー「服は入れた?食べ物もちゃんと乗せてる?」
竜賀「シャーリー、心配してくれるのは凄く嬉しいんだけど……別にこれから死にに行くわけじゃないんだから…」
源太「心配せずに次会えるのを楽しみに待っておいてよ」
トニー「そうだ…もうこれで会えなくなるわけじゃないんだからな」
光男「とはいえ…トニーさん、シャーリーさん、俺達と会って1週間過ごしたことは他の誰にも内緒にしておいて下さいね?」
トニー「ああ、もちろんだ」
シャーリー「それでも寂しくなるわね…」
2人ともどこか暗い表情を見せていた。そんな顔をしながらもトニーはおもむろに自分のポケットに手を突っ込み何か封筒の様な物を取り出した。
トニー「光男、これを持って行け」
光男「これは…?」
トニー「25,000ドルだ…昨日君がここを出ていくと言った後、株をいくつか売却しておいたんだ」
光男「そんな大金受け取れません」
トニー「仮にこの州を上手く抜けられたとしてその後どうするんだ?飛行機にしろ、船にしろ、日本に着く為には最後はお金が要るだろう?違うか?」
光男「でも…それじゃあ2人の生活は……」
シャーリー「私達の生活分の投資収入はまだまだちゃんとあるから大丈夫よ」
トニー「それにお金はこれからの世代の子供の為に使われてこそ意味があるんだよ、我々の様な年寄りがずっと溜め込んでいても苦しむのは若いモンだ」
光男「でも…」
竜賀「何悩んでるんだよ父さん!」
源太「そんな25,000ドルなんて俺と竜賀が偉くなって稼いで2人に倍以上にして返せば良いんだよ」
竜賀「そうさ!父さんには気の遠くなる様な金額かもしれないけどなっ!俺らにはチョロいぜ」
光男「……お前ら……」
トニー「ハハハ!頼もしいじゃねぇか!そんじゃ期待しとくな!」
竜賀と源太の言葉にトニーは口を開けて大笑いした。
シャーリー「2人共…身体には気を付けてね…風邪ひかない様にね」
源太「OK!」
竜賀「今度会う時はもう少しデカくなっとくね!」
光男「オシ!車乗るか!」
3人はジープに乗り込み光男は左前座席に座り、後部座席に竜賀と源太が座った。トニーが車庫のシャッターを開き車を誘導した。
トニー「光男!昨晩地図で説明した通りのルートで行けば高速道路に乗らず西へ向かって行ける」
光男「了解!」
シャーリー「光男!本当に運転大丈夫なの?」
光男「この世界でのアメリカの免許は持ってませんけど日本ではちゃんとゴールド免許取得していますんで大丈夫です!」
シャーリー「ゴールド免許?」
光男「いや…その…」
竜賀「長年無事故無違反だってことです!これからそれを破るんです!」
シャーリー「……フフフ…そういうことね」
竜賀「そいじゃまた会おうね!」
源太「また!!」
シャーリー「必ず帰って来なさいね!」
光男・竜賀・源太「ああ!!」
3人を乗せた車はモーテル街を後にして道路を走っていった。それを見届けるシャーリーの瞳には一筋の涙が伝った。
シャーリー「行っちゃった」
To Be Continued
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