見出し画像

書評: 幸福優位7つの法則 (The Happiness Advantage)

幸福優位7つの法則”では、幸福感を感じることでよりよい人生が送れるという趣旨の下、7つの法則が提示される。各法則は見出しだけでは理解が難しいが、各項目を読むと背景となる心理学的効果含め解説されている。

正直に言うと、本書に書いてあることは、カントの純粋理性批判をはじめそういった哲学書や、カーネマンのFast & Slowを読んだことがあれば、「知っている」ことしか書いていない。しかし、知識は実践においてはごくごく一部しか占めず、アリストテレス曰く、「優れた人間であるためには、優れたことを考えたり感じたりするだけではだめで、優れた行動が伴わなければならない」

本書は、各法則について具体的なアクションプラン(行動できること)が記載されており、実際の行動に移しやすい提案があるという点で一読の価値がある

【法則1】ハピネス・アドバンテージ - 幸福感は人間の脳と組織に競争優位をもたらす

幸福感が先、成功は後(成功は幸福感の醸成の一因になりうるが必ずしも成功すれば幸せになれるわけではない)

(具体的なアクション)
幸福感を得るには、「瞑想する」「何かを楽しみにする(楽しいことを想像する)」「意識して人に親切にする(利他)」「ポジティブになりやすい環境を整える」「運動する」「(物ではなく経験に)お金を使う」「固有の強みを発揮する」ようにすると良い

固有の強みを発揮するについて:誰にも何かしら得意なことがある。どんな時でも自分の得意分野の力を発揮する時に幸福感が湧き出る。VIAのサイト(英語)(※アンケートを受けるための登録ボタンの左上に言語を選択するボタンあり、日本語で受けることも可能)で文化的背景に関わらず人の繁栄に最も貢献する「24の性格的強み」のうち自身に固有の上位5つを見つけられる。

参考までに私の強みと弱み
強み:1. Creativity, 2. Love of Learning, 3. Curiosity, 4. Perspective, 5. Self-regulation
弱み:1. Prudence, 2. Teamwork, 3. Humility, 4. Love, 5. Forgiveness

(背景にある心理学)ロサダライン
1つのネガティブな意見・経験を打ち消すには、3つのポジティブな意見・経験が必要

【法則2】心のレバレッジ化 - マインドセットを変えて仕事の成果を上げる

成果は、ポジティブな心持ちかどうかによって想像以上に左右される。つまり物事は固定的ではなくて相対的である。

本書には出てこないが、のみの話も同様と考えられる

(具体的なアクション)
具体的な行動の提案としては、チームの成長を考えた時に、自分自身がメンバーの知性・能力は固定的ではないと信じているか?相手は成長を望んでおり、タスクに意味を見出しているか?自身の期待値を相手に具体的な日々の行動、言動を通じて伝えられているか?

(背景にある心理学)自己達成的予言、プラセボ効果、ピグマリオン効果

【法則3】テトリス効果 - 可能性を最大化するために脳を鍛える

人間の脳はトレーニングなどにより形成されたパターン認識によって世の中や物事をみるように設計されている。このパターン認識を本書ではテトリス効果と呼んでいる

例えば、税理士や弁護士といった仕事は、税務上の間違いを探したり、論旨に不備を見つけそれを批判するという能力を磨く必要がある。仕事を通じてこの思考回路が形成されてしますとこれを仕事以外にも適用することが起きる。家族の発言に「瑕疵」を見つけ出し、「矛盾点」を明らかにしたらどうなるだろうか?仕事の合間に良かれと思って6週間の監査期間を設け、家庭でのパートナーの「過ち」をExcelでリストアップし、それを改善のためと相手に提示したらどうなるだろうか?

これは見方を変えると、パターン以外のものは棄却しがちということを意味していて、人は見ようと思うものしか(意識化しているものしか)目に入らない。有名なのは、ハーバード大学で実施された、白・黒のTシャツを来た人たちのバスケットボールのパスの数を数えるというもの

また、ある色や特定のブランドに興味を持った途端にそれを見かけることが多くなるカラーバス効果も同様に影響を及ぼす可能性がある

(具体的なアクション)
したがって、「幸福」「感謝」「楽観性」に意識を向けると幸福度を高めやすくなる可能性がある。

リチャード・ワイズマンは科学的には運などというのもは存在しないと認めつつも、自分が運がよいと思っているかどうかでその人が運が良いかどうかが決まると主張している。これは、運が良いと思っている人は、施行回数が増えるし、アンテナが高いのでより気づきやすいし、一般的には不幸な出来事も見方を変えて幸運だと認識することができるためだと要因を説明している

脳の配線をポジティブに切り替えるの具体的な提案として、仕事や生活の中に起きたいいことを書き出す。例えば、「今日起きた3つの良いこと(#3GoodThings)」を書き出す

(背景にある心理学)不注意による盲目、カラーバス効果、「運のいい人の法則」(リチャード・ワイズマン)

【法則4】 再起力 - 下降への勢いを利用して上昇に転じる

挫折や失敗に対する(主観的)態度がその人の幸・不幸(主観的認知)を決める。挫折を「成長の機会」と捉えられる人がその成長を実現できる。自分が引いてしまった「カード」(環境)は変えられないが、それに対する見方は可変である。

失敗に対処する方法は、実際に失敗を経験し、それを切り抜けることでしか学べない。失敗はできるだけ早い段階で、たびたびするとよい。

銀行に行き、行内に50人ほど顧客がいる状況を想像してほしい。
そこへ銃を持った強盗が入ってきて発泡し、あなたの右腕に命中した
さて、翌日この話をする時、あなたは「幸運」として話すか、「不幸」として話すか?
「銀行に行っただけなのに、私の腕に弾丸が命中したという客観的な事実が不運である」
「50人もいて、他の誰も撃たれなくてよかった。子供もいたし。全員が生きていたという貴重な危機の体験だった」

(具体的なアクション)
ポイントは、反事実(比較対象の設定)が物事の捉え方を決めるということ。どちらのケースもアタマの中で事実を異なるストーリーとして設定(取り出し方、切り出し方の違い)し、比較している。
このストーリーづくり(楽観的な説明スタイル)が良い結果を出そうと努力しようとするかどうかという行動の差を生む。


【法則5】 ゾロ・サークル - 小さなゴールに的を絞って少しずつ達成範囲を広げる

仕事や人生において成功している人は、心理学者がいう「内的統制感」(自分自身の行動が結果に直接作用するという信念)を持っている。また、生産性、幸福度、健康とコントロールの程度を調べると、実際にコントロールできるかよりも、その人自身がコントロールできると思っているかの方が相関が高い。

良いコントロールとは、活動範囲の大きさが適切であり、いくつか取り書かれる候補のうち最小の労力で最大の効果(達成感)が得られるものを見極められるとベスト

(心理学的背景)Fast システム1& Slow システム2
直感的で反射的なシステム1と時間はかかるが熟慮するシステム2の2つの相反するシステムが脳にはある。コントロール不能になると、パニックになってしまいがちで、思考力が落ちてしまうため場当たり的対応になり解決から遠のきがちになる。企業の一株利益がわずか25セントから1セント下がっただけでも時価総額が数分で50億ドル下がるようなケースが起きるのもパニックによるもの。

(具体的なアクション)
自身がこれならコントロールできるというコントロール感覚が大切で、これは自身で「内的統制感」を実現できると思う適切な大きさに活動、取り組みの範囲を設定することが大切。気持ちを日記に書き出したり、信頼できる友人に話すことで言語を活用し整理するところから始めると良い

ドミノを起こすには、1つ目の板をちゃんと倒すことに意識と行動を集中すること、自分が倒せる一枚目の板野大きさを言語化し、具体的に定義できるようにすることが大切。小さな成功が積み重なれば大きな成功につながることもよくある。そのためにはまず小さな成功の第一歩が大切。

【法則6】20秒ルール - 変化へのバリアを最小化して悪い習慣を良い習慣に変える

意志力の力を使って習慣化するのはほとんど不可能で、良い習慣を身に付けることを意思の力で達成することは非常に難しい。また意志力は摩耗性があり使い切ってしまうと回復するまでその力を発揮することは非常に困難だし、普通に日中仕事しているだけで相当な意志力を使ってしまっている。

テレビを見るなどの受け身の娯楽で満足感を得られるのは最初の30分程度まで。一方で趣味ゲームスポーツなどの能動的な楽しみは集中力モチベーションを高め夢中になる感覚を得ることができ10代の若者にとっては趣味に没頭している時テレビを見ているだけの時よりも2倍半楽しいという感覚を味わうことができる。

人間は生物学的に習慣が作られやすくできており、例えば、朝起きたらまず歯を磨き夜寝る前に目覚ましをかけることまで日々の行動の多くを自動化できるのは我々が習慣の塊にすぎないからである。 行動を習慣化するには毎日少しずつの努力が大切で、結局どのくらい連続的にその行動が起きて脳がその使用に適応したかが習慣化するかどうかに関係する。

(心理学的背景)ロイ・バウマイスター チョコチップクッキーの実験
ある時間、何も食べないように指示し、空腹感でいっぱいになった大学生の目の前に、
チョコチップクッキーとラディッシュを盛ったボールを用意します。

第1グループには、ラディッシュは食べてもいいがクッキーは食べないように指示し、
第2グループには、ラディッシュもクッキーも食べていいと指示します。
第3グループにはコントロール群として食べ物は何も用意しません。

そして、その数時間後に、”簡単な”パズルを解くという課題を与えます。

実はそのパズルは、解決が不可能なもので、測られていたのは、
「それぞれのグループがどの位の時間でパズルを解くのを諦めるか」でした。

結果は、
第1グループはわずか8分間で諦めてしまうのに対して、
第2グループと第3グループは20分もの間、
パズルを解くことに集中できたと言います。

つまり、第1グループは、「チョコチップクッキーを食べない」ということに
意志の力を使い果たしてしまったというのです。
ここでの大事なポイントは、クッキーを我慢することと、パズルを解くことは別の事象であるにしろ、「意志力は同じエネルギーを使っている」ということです。
つまり、「意志力」は「筋力」と同様に、使えば使うほど、一時的に低下していくということです。

意志の力で習慣化するのが無理ゲーだとするとどうするとよいのでしょうか?

(具体的なアクション)
良い習慣を形成するために大切なことは、今起こしたい行動にとりかかるために必要なエネルギーをできる限り小さくすること。そのためには初期設定や活性化エネルギーの調整が肝になる。例えばギターを毎日弾くという習慣を身につけたい時にクローゼットの中にしまっておいたものを取り出すという状況にしてある場合に比べて、ギターラックへ追加投資して机に座っている位置から20秒で取れるところに置いておく場合毎日ひくっという習慣が身につく可能性は格段に高くなる。これが初期設定を工夫したり、活性化エネルギーを下げるという環境づくりの例である。


【法則7】ソーシャルへの投資 - 周囲からの支えを唯一最高の資産とする

ジョージ・バイヤンによるハーバードメンの研究の結論は、「75年間におよぶこの研究が明確に示しているポイントは、良い人間関係が私たちの幸福と健康を高めてくれるということ」(参考記事:幸せな人生を送る秘訣)

(具体的なアクション)
人との絆を保つために大事なことは人が困っている時に物理的にも心情的にも側にいてあげることが大切ということは誰もが知っている。 しかし最近の研究では困難な時期よりも好調な時期にどれだけ人を支えたかが人間関係の質に影響するという研究もある。

例えば良いニュースを誰かと共有することは資本化と呼ばれており、良い出来事を人と共有するとその出来事の恩恵が何倍にもなり、共有した相手との絆が強まることが分かっている。この恩恵を得るために大事なことは相手側が良いニュースにどのように反応するかが大切で、心理学者のシェリー・ゲーブルによれば、良いニュースに対する反応の仕方は4種類あり、そのうちの一つだけが人間関係にプラスに働く、それは肯定的で発展的な反応、つまり「具体的なコメントをし、さらに関連した質問をする」というものだ。気のない返事や否定的な回答は関係にとって有害であり、最も関係を破壊するのはそのニュースを完全に無視して関係のない話に話題を切り替えてしまうことである。 この肯定的で発展的な反応は会議などにおいても絆と満足感を高める上で、また自分が理解されるされ認められるために有益であることが分かっている。

(本を読むほどでもという方には、TEDもあります)
Youtube - Shawn Achor: The Happiness Advantage: Linking Positive Brains to Performance

サポートを検討いただきありがとうございます。サポートいただけるとより質の高い創作活動への意欲が高まります。ご支援はモチベーションに変えてアウトプットの質をさらに高めていきたいと考えています