本:スクラム 仕事が4倍速くなる"世界標準"のチーム戦術

スクラムの考案者であるジェフ・サザーランドによって書かれた、スクラムをソフトウェア開発者だけでなく、より広い読者を対象とした本。スクラムが生まれたエピソードに始まり、スクラムを支える基本概念・ルールについて、いくつものエピソードからどのようにそこに到達したのかを知ることができる。

スクラムは、ある理想状態を目指すフレームワークだ。その理想状態を知る一つのエピソードが、「目指す方向性と、適応力」だけで迅速に成果を挙げる、MITで人工知能を研究していた、ロドニー・ブルックスの開発したロボットのエピソードだ。
彼は、当時のロボット開発の方法論では、せいぜいチェスをうまく指すという程度が限界であることを悟った。そして、全く異なるアプローチで新しいロボットを開発した。それまでのロボットの典型は、思考を制御する1つのプロセッサがあり、それで全体を制御するアプローチだった。ブルックスのアプローチでは、6本の脚を持つロボットの、足それぞれに頭脳を搭載した。6本の足のバランスを維持する位置にあるプロセッサは、前に進む、後ろに下がる、足と足がぶつからないようにするといった、シンプルな動きの制御のみを司るだけなのだそうだ。このロボットにはカメラが搭載され、障害物にぶつかると、その時点で各脚の頭脳がそれを学ぶ。このロボットは、事前に学習されたモデルなどを持っているわけではない。むしろ何も記憶を持たない状態で起動される。そこから、脚の効率的な動かし方を学び、徐々に前進が上手くなる。障害物の位置も学んでいく。3分もすると、部屋の中を走り回れるようになるそうだ。これは驚異的な学習・適応能力だ。

このエピソードから分かることは何だろうか?

- 前提知識や予測などを一切使っていない。しかし、とても効率的に目的を達成している。
- 学びに特化している。なぜなら何も知らないからだ。
- 状況から何を学ぶべきかの方向づけは、予め与えられている。

予測するのではなく、学習に100%集中する。これがスクラムの根底にある考え方というわけだ。これをチームで実践できるようにルールや概念をまとめたのだ。

この本には、他にも興味深いデータなどが掲載されている。

・人間の脳の限界。一度に記憶できるマジックナンバー 4 ← 7ではない!
(ミズーリ大学のネルソン・コーワン。脳の中の短期記憶を司る部分が一度に保持できるのは、4つまで。)

・同時進行するプロジェクト数と、プロジェクトにかけられる時間、コンテキスト切り替えに使っている時間
1: 100% : 0%
2: 40% : 20%
3: 20% : 40%
4: 10% : 60%
5: 5% : 75%
上の「コンテキスト切り替えに使っている時間」は、仕事をしているように見えて、無駄にしている時間に他ならない。1つのことに集中するのが最も効率的なのは間違いないばかりか、3つ以上を同時にこなす場合に非常に多くの無駄時間が発生していることが分かる。


私はまだ前半3章までをザッピングした程度だが、考案者であるサザーランドがどのような考えを元にスクラムを作ったのかを、彼が経験したエピソードから追体験して知るには良い本だろう。

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