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【ソシュールの言語学と構造主義のつながり】2/4 「恣意性」の術語的意味を把握し、ソシュールの「言語の恣意性」について理解する


ソシュールの言語学は「構造主義」の発生に影響を与えました。そこで「言語の恣意性」に着目し「構造主義」とどのように繋がっているのか、4回に渡り書いています。今日のこのnoteは2回目で、上記の昨日のnoteに続きますが、単独でもお読みいだだけると思います。それでは始めさせていただきます。


一般用語の「恣意性」と学問的な術語の「恣意性」はそもそも違う

現在一般的に「恣意」という言葉が使われる場合、「社長の恣意的な言動に振り回されて痛い目にあった」とか「自分の都合のために恣意的なことばかり言う人は嫌いだ」などと言うように、プラスの意味で使われることはなく、マイナスの感情論になる。それに対して、ソシュールが言う「言語の恣意性」は感情論として使われているわけではない。また、意味合いとして、マイナスもプラスもない。

一般的に使われる「恣意的だ」ということと、言語学で使われる学問的な術語(学術用語)としての「恣意性」では、同じ「恣意」という言葉であっても、使われ方と意味するところは違う。

この違いを整理しておかないと、「言語の恣意性」の本質的な定義が分かりにくくなってしまう。少なくとも私は「言語の恣意性」の定義の理解に混乱を招いてしまい、両者の違いを整理するのにそれなりの時間を要してしまった。混乱を招いてしまったのは私だけかもしれないが、私なりの整理を展開しておこうと思う。

「言語の恣意性」について

まず「言語の恣意性」について確認しておきたい。

「言語の恣意性」は、言語学の父と言われるソシュールによって指摘されたもので、言葉の成り立ちには必然性はないとするものだ。

例えば、空には蝶が飛んでいて、網戸に蛾がとまっている。日本語では空を飛んでいる具体的な存在を「蝶」と呼び、網戸にとまっている存在に「蛾」という言葉を使う。そしてこれらの名前(記号表現)が意味するもの(記号内容)は抽象的な概念である蝶であり蛾である。

また、フランス語では蝶も蛾も「パピヨン」というひと言で表現し、目の前に飛んでいる蝶と蛾を言語的にカテゴリー分けしていない。日本人が認識しているように、これは蝶なのか、あるいは蛾なのかという識別をするという必要性をフランス人は感じなかったのか、蝶や蛾をひとくくりにして「蝶のようなもの」として「パピヨン」と言っている。

このように蝶や蛾を表現する「蝶」「蛾」「パピヨン」などの言葉を、ソシュールは言語記号と捉え「能記(シニフィアン)」と言い、それが意味する概念を「所記(シニフィエ)」と言い、「能記(シニフィアン)」と「所記(シニフィエ)」の結びつきは偶然で必然性はないとした。このことを説明するためにソシュールは「言語の恣意性」という術後を用いたのだ。

少し極論的にまとめると「言語の恣意性」は、誰か特定の人物が意図的に言葉を決定づけるような「属人的」なものではなく、誰彼ともなくある地域の人々がみんなで「主体」も「俗人的」に使っていくうちに言葉として成り立っているということになる。

一般用語は一般用語として、術語は術語として理解把握する

ここで現在一般的に使われている恣意性について思い出してみると、「あの人は恣意的で好かない」と言った時には、その恣意的であることを指す行為は「属人的」で自分勝手なものであり、マイナス感情の意味合いが強調される。

それに対して、「言語の恣意性」の場合、恣意的であることの対象である言語の成り立ちには必然性がないことが強調されている。必然性がないということは、特定の意思が働くことがなく「自然発生的」であるということになり、そこには感情論が入り込むこともないし、プラスマイナスの意味合いも付加されることもない。

このように、一般用語としての「恣意性」と学問的な術語としての「恣意性」には、対照的な違いがある。この違いが頭の中で整理されていない状態のまま、一般に使われる「恣意的」であることの意味で、「言語の恣意性」について理解しようとすると混乱しかねない。

私はまさにこの対照的な意味の違いを整理できずに、「恣(ほしいまま)の意」とする一般的な感情論を以て、「言語の恣意性」という学術用語を理解しようとして、誤解と混乱を招くことになってしまった。この経験から、思想哲学的なことについては、学術用語は術語として、その意味するところを把握したうえで理解することの必要性を感じた。

それはともかく、ソシュールが言語の「恣意性」に着目しすることで、当時普及していた古典哲学、マスクス主義、実存主義などの価値観の必然性を否定することになり、そのことが影響して「記号論」や「構造主義」につながっていくのである。(つづく)


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林海平
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